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2023.01.16

【セミナーレポート】第18回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(東京)(明星中学校・高等学校 木村先生)

セミナーレポート

東京画像

 

学習指導要領の改訂により、従来の学力にとどまらないさまざまな資質・能力の育成が求められています。これはすでに入試形態の変化にも表れ、その変化は今後さらに拡大していくことになるはずです。一方、従来の学力とは異なる非認知能力の育成とその評価に苦慮されている学校は少なくありません。では、生徒の資質・能力の成長をいかに促し、その成長を多面的に、そして適切かつ公平に評価していけばよいのでしょうか。

2022年12月10日(土)、東京で対面形式で行われた本セミナーでは、探究型学習の指導で実績を上げる明星中学校・高等学校の木村剛隆先生を講師に迎え、探究型学習とその評価を通して生徒の成長を促進する同校の取り組みを具体的にご紹介いただきました。

 

【講師】

木村剛隆先生(明星中学校・高等学校 教諭 教諭)

 

「社会でアクションを起こす探究型学習の設計と生徒の学び」

 

本校は東京都府中市にある私立中高一貫教育校です。緑豊かな環境と充実した施設の中、体験教育を重視し、判断力と実行力に優れた生徒の育成を目指しています。

 

アクション・ベースの探究型学習

私の専門は情報科ですが、高校の「総合的な探究の時間」も担当しています。探究を進める中で、データの収集と活用に加え、企画のみで実現にうまくつなげられていないという点に課題を感じていました。この反省を生かしてより良い探究を実現すべく、高校2年時の「研修旅行」と「総合的な探究の時間」を組み合わせることにしました。「探究」というと課題をベースに考えるのが通常だと思いますが、協働と実行といったアクションを大切にし、社会の問題を自分事としてとらえてにほしいと考え、「地域に還元するSocial Goodな(社会をちょっとだけよくする)アクションをする」というテーマを掲げました。

 

 

カードゲームも活用した個人・グループ探究

探究は種をまいて、出た芽を育てながら生徒が自分の興味・関心と向き合い、将来どう進みたいのかを決めるための学びだと思っています。高2で探究活動に取り組むに当たり、生徒たちには改めてこの話をしました。研修旅行の行き先は民泊が組み込まれた各コースからクラス単位で選定。1学期は個人で興味・関心を発掘、2学期はグループで研修旅行でのアクションに向けた取り組みを進めます。

1学期の個人探究では、まず視野を広げることを目標に、専門のファシリテーターを招待し、地域創生版SDGsカードゲームを実施。研修旅行の予行練習として日帰りで川越でのフィールドワークも行い、学んだことをGoogle Sitesを使って整理しました。また、研修旅行での訪問先とオンライン交流も行い、1学期の最後には、プロジェクトのプランニング・シートにやってみたいこと、興味のあること、気になることをテーマにアイデアを9つ書き出してもらいました。

2学期はその興味・関心をテーマにグループを作り、プロジェクト作りに取り組みます。しかし、高校生の場合、インプットが少なくアイデアが乏しい、アイデア同士をつなげられない、盛り上がらないなどといった理由からブレストをスムーズに進められないケースがあります。そこで、アクション・ベースで思考し、楽しみながらブレストできるよう、「Social Actionカードゲーム」を開発しました。これは、解決すべき課題が示されたThemeカードを3枚のToolカードを使って解決するために、有用なアクションを考えるというゲームです。生徒も夢中になって取り組んでくれ、1クラスで107個ものアイデアが出ました。クラス全員の成果物として、そのアイデアをまとめて1つのアイデアノートを作成。生徒アンケートでは、「コミュニケーションを取りやすかった」、「いつもよりアイデアを出しやすかった」という声がありました。その後、プロジェクトのプランニング・シートで再び自分たちの考えを可視化してもらい、RESASなどのビッグデータを活用したり、現地とのオンライン交流もはさみながらプロジェクトをブラッシュアップしていきました。そして、研修旅行に出かける前の総まとめとして中間発表を行い、外部講師に意見をもらいながら生徒同士でフィードバックも行いました。

 

 

周囲を巻き込んで成功させた研修旅行型探究

実際に行ったプロジェクトの一例として、「海ゴミを社会に還元プロジェクト」をご紹介します。このプロジェクトを行ったグループは、民泊でお世話になった愛媛県西予市で、住民の方と一緒に海ゴミの清掃活動を行い、回収したゴミで芸術作品を作るワークショップを行いました。清掃活動はポイント制にして現地で買った特産物を景品とし、ゲーム感覚のイベントに。生徒たちはこの活動をなんとか成功させたいと、企画段階で海の清掃活動をしている全国的なプロジェクトに自らメールを送り、備品の貸し出しや清掃活動でのご協力をいただいて、本校、同プロジェクト、現地を巻き込んだ分厚い活動を実現させました。他にも、住民の方々と一緒にダンスをして、地域のプロモーションになるPVを制作するプロジェクトなど、個性豊かな取り組みを実施することができました。

 

探究型学習の効果と資質・能力の成長を測る「Ai GROW」

本校では全校レベルで活用している「Ai GROW」ですが、私の学年ではこの一連の探究型学習による効果と生徒の資質・能力の成長把握を目的に定期的に受検し、データを活用しています。高1で受検した「Ai GROW」のデータでは、創造性、表現力、協働性などが比較的低めの結果となっていましたが、研修旅行に向けた1学期の個人探究、2学期のグループ探究を進める中でそれらのコンピテンシーは右肩上がりで成長していることを確認できました。

しかし、重要なのは、そのデータをきっかけとして教師、生徒、保護者間のコミュニケーションを促進することです。伸びたコンピテンシーを確認し、なぜ成長したのか、その成長こにどのような経験や活動が寄与行したのかと掘り下げることではじめて、生徒のさらなる成長につなげられるのだと考えています。本校では、このような観点で受検の振り返りができるワークシートを作成し、振り返りを行ったワークシートには保護者からもコメントをいただくようにしています。研修旅行から帰った直後なのでまだ旅行後の受検を実施できていませんが、生徒たちの成長を「Ai GROW」の結果でも確認できるのが非常に楽しみです。

 

 

 

試行錯誤の中で進めてきたこの探究的な研修旅行ですが、課題であったアクションに向け、生徒たちがなんとかやり遂げたい、成功させたいという思いを持って取り組んでくれたことが何よりも嬉しかったです。研修旅行で滞在した村での離村式で涙を見せ、「将来、この村に移住するのもいいなと思った」とアンケートに記入した生徒もいました。生徒の心がそれほど心が動いたのも、全力で準備し、取り組んだからであり、大きな成果の一つだと思っています。アクション・ベースの探究型学習の可能性を強く感じることができました。成果と同時に改善していきたいポイントもたくさん浮き彫りに。これらの学びを生かしながら、仲間を増やしながら、探究型学習のさらなる充実と生徒たちの成長のために取り組んでいきたいと思っています。

 

 

IGSは今秋、「探究型学習」をテーマにしたセミナーを各地で開催。探究型学習の指導で実績を上げる各地の先生方を講師に迎え、これから求められる資質・能力を育む具体的方策をご紹介いただきました。その講演内容をまとめたセミナーレポートで、各校の取り組みをぜひご確認ください。

■第15回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(札幌)のセミナーレポート
上野学園中学校・高等学校 藤井先生

 

■第16回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(福岡)のセミナーレポート
筑紫女学園中学校・高等学校 山田先生
熊本県立宇土中学校・宇土高等学校 後藤先生
東明館中学校・高等学校 林田先生

 

■第17回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(大阪)のセミナーレポート
関西学院高等部 田澤先生

 

■第18回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(東京)のセミナーレポート
聖徳学園中学・高等学校 山名先生