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2022.12.13

【セミナーレポート】第16回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(福岡)(熊本県立宇土中学校・宇土高等学校 後藤先生)

セミナーレポート

福岡-1

 

学習指導要領の改訂により、従来の学力にとどまらないさまざまな資質・能力の育成が求められています。これはすでに入試形態の変化にも表れ、その変化は今後さらに拡大していくことになるはずです。一方、従来の学力とは異なる非認知能力の育成とその評価に苦慮されている学校は少なくありません。では、生徒の資質・能力の成長をいかに促し、その成長を多面的に、そして適切かつ公平に評価していけばよいのでしょうか。

2022年11月26日(土)、福岡で対面形式で行われた本セミナーでは、探究型学習の指導で実績を上げる熊本県立宇土中学校・宇土高等学校の後藤裕市先生を講師に迎え、探究型学習とその評価を通して生徒の成長を促進する同校の取り組みを具体的にご紹介いただきました。

 

【講師】

後藤裕市先生(熊本県立宇土中学校・宇土高等学校 教諭)

 

体験プログラムと探究活動による特色ある学校作り

本校は阿蘇(熊本市)の南にある、創立102年を迎える併設型中高一貫教育校です。中学校は一学年2クラスで約70名、高校から入学する生徒が約140名で、高校では一学年6クラスとなります。学区再編に伴い、2009年に併設の中学校が作られ、中高一貫教育校となりました。少子化、都市部への生徒流出という課題を抱える中、中学校は、他の市町村にはない、特色や魅力のある学校にして地元だけではなくいろいろな生徒に来てもらうということを命題としており、さまざまな体験プログラムに力を入れています。高校でも魅力あるプログラムを実施していきたいと、2013年に文部科学省事業のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に申請し採択いただき、探究活動に重点的に取り組んできました。5年間が経過してSSHに再指定され、現在はこれまでに探究活動で培ったノウハウを授業に展開していこうと、探究型授業の研究開発に取り組んでいるところです。

中学校では、自然体験と気づきを大切にしています。御所浦での島体験、稲作などの農村体験、阿蘇の再発見キャンプ、無人島サバイバル体験などのプログラムを実践し、授業内でもこれらの活動に向けたさまざまな取り組みを行っています。高校では本物に触れることを大切にしており、JAXA、理化学研究所、地元の研究機関や企業を訪問しています。また、特色のひとつとして、自分の身体や睡眠にも目を向けてほしいと、ウトウトタイムという昼寝の時間を設けています。これらのユニークな活動を通して、生徒たちは各自テーマを見つけ、探究活動に取り組み、その成果をクラス内やポスターセッションで発表しています。対外的にも成果を知らせる目的で、大人に混じって学会に出たり、コロナ禍ではアバターベースの発表会に出たり、Zoomを活用した発表会を行ったり、コンテストに出たりなど、外に出る機会もたくさんあります。生徒が取り組んだ研究の成果が芽を出し表彰をもらったり、本校を卒業した生徒がミネルバ大学に進学したというニュースもあり、昨今は探究活動とその実践の成果が着実に花開いてきているということを感じています。

探究活動を実践するにあたり、本校ではLOGICと称した5つの観点(論理性、客観性、グローバル性、革新性、創造性)を伸ばすことを目標としています。高校ではまず、各自探究テーマを1つ定め、一人に一人ずつ教員を割り当てる指導体制を取っています。半年後には、理科・数学の教員が中心で個人探究かグループでの探究かを選べるSSコースと学年の先生中心にグループで探究に取り組むGS(グローバルサイエンス)コースに別れ、取り組みをさらに進めます。このような流れの中で、生徒たちには複数回テーマを変え、探究活動を深めてもらっています。さらに、構想発表、中間発表、校内発表、外部発表と発表機会を設けることで、活動をスパイラル状に高められるようにしています。

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探究活動を進める上でのさまざまな悩み

そのような中、気付きや悩みも当然出てきます。探究活動の中で、以前に比べて何となく変わった「以前よりも主体的に取り組んでくれるようになった」やあの時の判断や気付きがブレークスルーにつながったなということがあるのですが、それが感覚的なものでしかないと、特にその場におらず直接見ていなかった先生たちと共有することができません。進路検討会のに、あの生徒は総合型選抜入試に向いているのでは「いや、学校推薦型選抜がいいのではと思っても、それが感覚的なものでしかないと他の先生方を説得できないことがあります。経験則や主観によらない、感覚を自分の中だけにとどめないで済む方法を探していました。

また、探究活動においてよくあるのが、やりっぱなし、させっぱなしになってしまうこと。そうならないために本校では、参考研究の調査、目的決定、仮説設定、計画、実験調査、結果整理、考察、発表へとサイクルを細分化し、各過程でどう指導するか、目標を決め共有しています。どこまで学ぶか、何を学ぶかを整理すると、さまざまな要素が見えてきます。それらを各教科の授業や探究の時間に意識しながら指導しています。また、探究活動の評価のためのルーブリックを作り、さらにその手引書を作り、チェックリストも作っています。

しかし、それらができたとして、実際にどう運用していけばよいのか。これが探究に関わる先生の困り感の本丸とってもいいでしょう。生徒にルーブリックを提示したところで「これをどう見たらいいですか?という質問を受けることもあります。研究内容の相互評価において、研究内容に関する質問がたくさん出たとしても、それをどう評価につなげればよいのか。振り返りが大事だとしてそのステップを導入したとしても、生徒が振り返ったものをどう評価したらよいのか。また、評価者によって甘辛や忖度が評価に影響してしまうことも悩みの一つでした。

 

幅広い効果をもたらした「Ai GROW」による可視化・数値化

このような悩みを抱えていた2年ほど前に、「Ai GROW」の存在を知り、IGSに相談したのが「Ai GROW」導入のきっかけです。最初は一つの学年のSSコースに導入し、6月の研究のテーマを決めた直後、11月の中間発表後、3月の成果発表後と3回受検しました。計測するコンピテンシーは前述したLOGICという5つの観点に合わせて選び、普段の活動の様子が分かっている生徒同士で相互評価を行えるよう、グループでの研究の場合はグループ内で、一人で活動している生徒は似たテーマで学ぶ生徒同士で相互評価を設定しました。

「Ai GROW」の管理画面では、集団の中でのばらつきも箱ひげ図で確認でき、普段の評価では気付けない発見もあります。また、意識的に特定の力を伸ばそうとして取り組んだ後にポジティブな変容が見られるなど、教育効果を可視化することもでき、担当する先生方にとっても大きな励みとなっています。一方、ばらつきが以前より大きくなった項目があればグループでその力がある生徒に頼りがちになったりしていないか、誠実さにばらつきがあるときルールを守れていない生徒がいないかなど、グループの状況を確認するヒントにもしています。感覚的に捉えていたものが数値化されることで、先生方の探究活動への関わり方も変わってきています。

教えるだけではなく、生徒たちに気付かせるということも大切だという考えの下、評価の観点を作らせるワークショップも行っています。研究内容を基に、さまざまな観点を挙げさせ、ルーブリックを作らせるのです。コンピテンシーに対する理解が向上し、さらに「Ai GROW」の個人レポートで受検結果を深く読み込むようにもなったと感じています。


「探究型学習」の位置けとり方を整理

以前は評価とえば進路のためのもので、ゴールに到達したかという総括的評価が主でした。しかし、探究活動によりプロセスを評価するようになったことで、生徒をより成長へ導くための形成的評価という視点を持てるようになりました。そしてそこに「Ai GROW」を活用することで、感覚だけに頼らない、公平な評価を負担なく実現することができました。

本校の取り組みもまだ道半ばですが、本セミナーのような機会を得て、さまざまな取り組みについて学校の枠を超えて他校の先生方と情報交換しながら、今後もより実りある探究活動を実現していくことができればと願っています。

 

IGSは今秋、「探究型学習」をテーマにしたセミナーを各地で開催。探究型学習の指導で実績を上げる各地の先生方を講師に迎え、これから求められる資質・能力を育む具体的方策をご紹介いただきました。その講演内容をまとめたセミナーレポートで、各校の取り組みをぜひご確認ください。

 

■第15回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(札幌)のセミナーレポート
上野学園中学校・高等学校 藤井先生

 

■第16回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(福岡)のセミナーレポート
筑紫女学園中学校・高等学校 山田先生
東明館中学校・高等学校 林田先生

 

■第17回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(大阪)のセミナーレポート
関西学院高等部 田澤先生

 

■第18回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(東京)のセミナーレポート
聖徳学園中学・高等学校 山名先生
明星中学校・高等学校 木村先生