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2023.01.11

【セミナーレポート】第18回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(東京)(聖徳学園中学・高等学校 山名先生)

セミナーレポート

東京画像

 

学習指導要領の改訂により、従来の学力にとどまらないさまざまな資質・能力の育成が求められています。これはすでに入試形態の変化にも表れ、その変化は今後さらに拡大していくことになるはずです。一方、従来の学力とは異なる非認知能力の育成とその評価に苦慮されている学校は少なくありません。では、生徒の資質・能力の成長をいかに促し、その成長を多面的に、そして適切かつ公平に評価していけばよいのでしょうか。

2022年12月10日(土)、東京で行った本セミナーでは、探究型学習の指導で実績を上げる聖徳学園中学・高等学校(東京都)の山名和樹先生を講師に迎え、探究型学習とその評価を通して生徒の成長を促進する同校の取り組みを具体的にご紹介いただきました。

 

【講師】

山名和樹先生(聖徳学園中学校・高等学校 グローバル教育部長、臨床心理士

 

「データに基づいた探究型学習の「未来の形」」

 

本校は東京都武蔵野市にある私立中高一貫教育校です。STEAMとグローバルを両輪として、「正解のない問題」に対して臆することなくチャレンジする力を育むことを目標としています。プロジェクタやホワイトボード、Apple TVが全教室に完備され、生徒全員iPadを持ち、ICTのサポート教員やチューターも常駐。充実したICT環境が生徒の学びを後押ししています。

私自身は、グローバル教育部の責任者をしていますが、臨床心理士でもあります。人の心、学校でいうと、先生がどう声掛けしたら生徒がどう成長していくのかという分野に高い関心を持っています。

 

グローバル社会に貢献できる人材育成を目指す探究型学習

本校の探究型学習は、受験のある高校3年生を除いた中学1年生~高校2年生を対象とし、グローバル社会で貢献できる人材を育成するべく、プログラム段階的にんでいます。中学1年生はSDGs映画祭、中学2年生はSDGs手帳制作を通して知的好奇心を育み、中学3年生は地域の課題を発見して解決する地域貢献プロジェクトに取り組みます。高校1年生は公共をテーマに人権問題を取り上げ、探究型学習の最終学年である高校2年生では国際協力プロジェクトを推進します。

 

5年間の探究型学習のゴールとなる国際協力プロジェクト

この国際協力プロジェクト目標は、担当国として定めた開発途上国のいずれかの課題を発見し、何かしらの貢献をするということ。情報と総合の2科目を基盤とし、情報では技術的な面を、総合ではプロジェクトの進行を担当し、相互に学んだ内容を踏まえて進行しています。学期は個人ワークとして日本の国際協力について調べ、ロジックツリーを活用して何ができるかを少しずつ掘り下げながら考え、企画書動画を作成して発表。全員分の動画を見た後にどの企画を進めたいかアンケートを取り、グループを作ります。5票以上を集めた企画は採用とし、その他の企画要素を抽出して別の企画に生かすようにしています。

学期はグループワークでアイデアを深めていきます。スタートアップ企業ビジネスモデルを可視化するためのツール、リーンキャンバスを授業用にアレンジしたものを活用してアイデアを発展させながら中間報告会を実施。報告会には大学の先生や起業家などの識者を招き、社会的学問的目線でアドバイスをいただいています。

11月頃になると、いよいよ計画を実行に移すことになります。予算は一人500円と決まっているのですが、グループではなく個人で資金を増やしたいと主張し、オリジナルのLINEスタンプを作成した生徒もいました。この生徒はスタンプを販売して得たお金でクリスマス・リースを作り、最終的に9,000円程度にまで増やした資金でスーダンに消毒セットを寄贈。一人で最後までやり切って、達成感とともに「グループの大切さが分かった」と協働の有用性を改めて実感したようでした。生徒の主体的な学びを促進するため、生徒の安全は考慮しつつ、これからもチャレンジをどんどん奨励していきたいと思っています。

 

探究型学習における「Ai GROW」

このように進めている5年間にわたる探究型学習ですが、この一連の探究活動で生徒に身に付けさせたい資質・能力を「課題設定力」「論理的思考」など10項目に整理しています。以前より「Ai GROW」は別の部署が主となる形で導入していましたが、今年度からは私の部署が引き継ぎ、探究型学習を通した成長と課題を可視化するツールとしての活用を開始しました。

例えば、あるクラスでは、中間報告がうまくいったこともあり、中間報告後のアンケートで生徒の満足度がとても高いことが分かりました。従来であれば「これで良かった」「ある程度の結果は残せた」と終わるところですが、「Ai GROW」の受検結果と合わせて見てみると、もともと高かった個人的実行力や課題設定力が探究活動を通してさらに伸びたことも分かり、成果を満足度や実感値でとどめることなく定量的に評価できるようになったのです。

また、同時に共感・傾聴力がやや課題となることも把握できたことから、声を上げることが得意ではない生徒の声を教師が介入しながら拾い上げるサポートが必要だということも分かりました。そこで、高い課題設定力を生かす形で各グループにチャレンジングなタスクを設定し、グループの中で強みを生かし合うよう指導。さらに、グループのリーダーとは面談を行い、自身とメンバーの特性を把握させ、強みを生かしたリードプランを考えさせました。生徒たちがより前向きに取り組んでくれるよう、メンバーの特性を伝える際には、「Ai GROW」の所見提案機能で提案される指導要録・調査書用の所見文言を活用しました。

 

 

この一年、試行錯誤しながらではありましたが、「Ai GROW」の受検結果を従来の授業アンケートなどと組み合わせることで、「授業戦略を練るためのツール」、「生徒一人ひとりの得意・不得意を把握し個を伸ばすための指導を実現するツール」、「リーダー育成のヒントを得られるツール」として活用するという、本校の探究型学習に合った活用方法が見えてきました。

 

プロジェクト・マネージャーとしての役割

探究型学習は、自由度が高い一方、何をやっていいのか分からないという悩みもあります。しかし、このように分析することで、攻めの戦略を練ることができます。探究型学習を担当する教師に求められているのは、状況をできる限り正確に分析し、自己肯定感を意識したフィードバックを重ねながらリーダーを中心に生徒たちを動かす、プロジェクト・マネージャーのような役割ではないでしょうか。うまくいかないときはマネージャーとして介入する必要もありますが、どれだけリーダーを動かせるか、グループを自走させることができるかが鍵だと感じています。探究型学習を通し、生徒の成長を戦略的に考え実現していくことは簡単なことではありませんが、この1年間の「Ai GROW」の活用によって少しずつその歯車が回り始めたのを感じています。

 

 

 

IGSは今秋、「探究型学習」をテーマにしたセミナーを各地で開催。探究型学習の指導で実績を上げる各地の先生方を講師に迎え、これから求められる資質・能力を育む具体的方策をご紹介いただきました。その講演内容をまとめたセミナーレポートで、各校の取り組みをぜひご確認ください。

■第15回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(札幌)のセミナーレポート
上野学園中学校・高等学校 藤井先生

 

■第16回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(福岡)のセミナーレポート
筑紫女学園中学校・高等学校 山田先生
熊本県立宇土中学校・宇土高等学校 後藤先生
東明館中学校・高等学校 林田先生

 

■第17回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(大阪)のセミナーレポート
関西学院中学部・高等部 田澤先生

 

■第18回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(東京)のセミナーレポート
明星中学校・高等学校 木村先生