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2022.12.26

【セミナーレポート】第17回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(大阪)(関西学院高等部 田澤先生)

セミナーレポート

大阪-3

 

学習指導要領の改訂により、従来の学力にとどまらないさまざまな資質・能力の育成が求められています。これはすでに入試形態の変化にも表れ、その変化は今後さらに拡大していくことになるはずです。一方、従来の学力とは異なる非認知能力の育成とその評価に苦慮されている学校は少なくありません。では、生徒の資質・能力の成長をいかに促し、その成長を多面的に、そして適切かつ公平に評価していけばよいのでしょうか。

2022年12月3日(土)、大阪で行った本セミナーでは、探究型学習の指導で実績を上げる関西学院高等部(兵庫県)の田澤秀信先生を講師に迎え、探究型学習とその評価を通して生徒の成長を促進する同校の取り組みを具体的にご紹介いただきました。

 

【講師】

田澤秀信先生(関西学院高等部 副部長

 

本校は、兵庫県西宮市にある幼稚園から大学院までを有する総合学園です。私の在籍する高等部は男子校から共学化して8年目。キリスト教主義に基づく「自由と自治」を校風とし、他者さらには広く社会に貢献できる人間の育成を目指しています。

 

学校はどのような場であるべきか

本日のセミナーの大きなテーマである「生徒の将来を見据えた資質・能力の育み方」。生徒の将来を考えたとき、学校はどのような力を育む場であるべきなのでしょうか。

ボストン・コンサルティング・グループが2022年6月に発表したレポートでは、日本の消費者の環境意識の低さが明らかになっています。若い世代はどうかというと、2022年5月に経済産業省が発表した「未来人材ビジョン」によれば、日本の18歳は「将来の夢を持っている」「国や社会を変えられると思う」「自分の国に解決したい社会課題がある」と考える割合が他国に比べ低くなっています。日本人の幸福感を決定する要因は学歴や年収よりも「自己決定」であるとする別のデータもある中、自信もない、夢も持てない、社会課題も認識しておらず変えられると思っていない現代の日本の若者は、幸せとはえないでしょう。

しかし、自己決定のためには、自分がどういう人間か、どう生きたいのかを知る必要があります。私は、課題を設定し、情報を収集し、整理・分析し、まとめ、表現する探究型学習が、自分の在り方や生き方を考える力を育む最適な教育機会になると考えています。高校卒業後、その気になれば嫌なことからは逃げられます。その前に、いかに自分の在り方や生き方と向き合い、自分自身でしっかりと意思決定する力を身に付けられるかが重要ではないでしょうか。高校はその最後の砦です。コロナ禍により知識はオンラインでも学べると分かったことで、リアルな学びの場である学校の役割がさらに明確になったと考えています。

 

探究学習の5つの「場」

本校ではこのような考えの下、

1)自分自身で課題設定する場 (読書科の授業)
2)探究に必要な基礎知識を習得する場 (通常の授業)
3)学内で他者と交わる場 (探究型授業)
4)学外で他者と交わる場 (探究型行事)
5)自分自身の歩みをきちんと振り返る場 (紙およびデジタルのポートフォリオ+「Ai GROW」)

を用意し、全体をリンクさせ、探究型学習が螺旋(らせん)のように循環する状態を目指して取り組んでいます。3)の探究型授業については7科目を新規開講してPBL型・教科横断・異学年協働型の授業に挑戦。2)の通常授業でも探究を意識した取り組みを行っています。

 

 

「つながり」と「超えていく学び」

このように、より良い探究活動を目指して楽しみながら取り組んでいると、パートナーとなってくださるスタートアップ企業や、校内でサポートしてくれる先生が少しずつ出てきます。探究型学習をうまく発展させていくための鍵は「つながり」。校内のみならず地域や大学、企業などと連携し、「超えていく学び」をキーワードとして、活動を進めています。あるときには、生徒が構成するICT委員会が「生徒のSNS利用の実態」をテーマにした先生向け勉強会を開催してくれたこともありました。先生と生徒の関係をも超えていく、このような学びも生まれていることをとても嬉しく思っています。

 

振り返りの重要性

その中で、本校がもっとも重視しているの「振り返り」です。以前から課題研究などには取り組んできましたが、発表内容や資料をまとめることはうまくなっても質疑応答をさせると表面的な回答しか出てこず、自分事として考える力を本当に育めているのだろうか、という悩みを抱えていました。自分の生き方や在り方を考えられるような学びの場にするためにはどうしたらいいかと考え、辿り着いたのが「振り返りの徹底」です。

生徒たちはまず、紙ベースで学びの記録を残します。ここでは自分の考え、他者の考え、先生の考え、驚き、疑問、調べる必要があるもの、参考図書などを明確に分けて記入し、「頭の中の動きの見える化」を行います。さらに、ある程度の期間ごとにデジタルポートフォリオにも活動を記録し、それを受けて記入された先生の評価コメントに対してもう一度振り返りを行います。ここまでやるのは、どれだけ深く考えたか、どれだけ積極的に関わったかを何度も問われることで初めて、ようやく自分の在り方や生き方が見えてくると考えているからです。

 

客観的評価を実現する「Ai GROW」

しかし、評価で使用するルーブリックや先生の評価にも、主観が入ってしまいます。客観的な指標を導入する必要があるのではないかと考えていたときに出会ったのが、AIによる補正や他者からの評価により客観的な評価を実現できる「Ai GROW」でした。年間何度でも受検が可能でプロジェクト前後の変化を把握できること、受検後すぐに管理画面や個人レポートを通して振り返りに有効な成長を示す多面的なデータを入手することができ、翌日からの指導に活用できる点も導入を後押しした要素でした。本校では「Ai GROW」を学校のさまざまな場の統一の評価軸として位置け、「Ai GROW」のレポートと前述のポートフォリオを照らし合わせることで、振り返りの精度を高める試みを行っています。最終的には、色々な活動を通じた生徒や先生の実感と「Ai GROW」のスコアの変容を突き合わせることで、どのような活動をすると生徒たちは何を感じ、どの力が伸びるのかということをしっかり把握できるようになることが目標です。

 

 

しなやかな強さを育むために

学校でさまざまな生徒を見ていると、英数国などの教科はあまり得意ではなくても、自分の好きなことで今後大きく伸びていくのではないか? と感じさせる生徒もいます。これまではそう感じても具体的な声掛けが難しいケースもあったのですが、「Ai GROW」で能力を可視化できるようになったことで、そのような生徒にも前向きな声掛けを行えるようになりました。生徒たちには、いろいろな強みがあっていいと前向きに考えられるように、そして、自分自身の能力がどういう場で「生きる」のか知ってもらいたいと考えています。

一方、「Ai GROW」では、コンピテンシー評価のスコアが伸びないことや、落ちることもあります。そういったとき、なぜそうなったのか、何が足りなかったのか考えることも、大事な振り返りの一つ。こういったことを意識的に行う中で、何度も自分自身と向き合い、何度も練習する。それにより、予測もできない時代に羽ばたいていく生徒たちにとってもっとも必要な「折れない、しなやかな強さ」を育むことができるのではないでしょうか。

 

生徒は「育てられる」のではなく「自ら育つ」

探究型学習における先生の役割は、生徒を「育てる」のではなく、考え抜いた「場」を与えて、自身も挑戦する姿を生徒に見せることだと私は考えています。そうした教員の姿を目にすることで、生徒は自ら育っていきます。自分が頑張ったと思える経験をどれだけ積んだか、そしてどれだけ自分と深く向き合ったかが、生徒の将来を支える力となります。本校は、そのための環境の提供の充実によりシフトしていこうとしています。このような取り組みは一朝一夕にはいかず、大変なことも多くありますが、探究型学習の鍵は「つながり」。本セミナーのような機会をたくさん得て多くの学校や先生とつながり、さまざまなケースを共有して学び合いながらより良い探究型学習を目指して取り組んでいきたいと思っています。

 

 

IGSは今秋、「探究型学習」をテーマにしたセミナーを各地で開催。探究型学習の指導で実績を上げる各地の先生方を講師に迎え、これから求められる資質・能力を育む具体的方策をご紹介いただきました。その講演内容をまとめたセミナーレポートで、各校の取り組みをぜひご確認ください。

■第15回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(札幌)のセミナーレポート
上野学園中学校・高等学校 藤井先生

 

■第16回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(福岡)のセミナーレポート
筑紫女学園中学校・高等学校 山田先生
熊本県立宇土中学校・宇土高等学校 後藤先生
東明館中学校・高等学校 林田先生

 

■第18回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(東京)のセミナーレポート
聖徳学園中学・高等学校 山名先生
明星中学校・高等学校 木村先生