学習指導要領の改訂により、従来の学力にとどまらないさまざまな資質・能力の育成が求められています。これはすでに入試形態の変化にも表れ、その変化は今後さらに拡大していくことになるはずです。一方、従来の学力とは異なる非認知能力の育成とその評価に苦慮されている学校は少なくありません。では、生徒の資質・能力の成長をいかに促し、その成長を多面的に、そして適切かつ公平に評価していけばよいのでしょうか。
2022年11月26日(土)、福岡で行った本セミナーでは、探究型学習の指導で実績を上げる東明館中学校・高等学校(佐賀県)の林田龍之介先生を講師に迎え、探究型学習とその評価を通して生徒の成長を促進する同校の取り組みを具体的にご紹介いただきました。
【講師】
林田龍之介先生(東明館中学校・高等学校 教諭)
アクティブ・ラーナーを育てる
本校は、佐賀県にある私立の中高一貫校です。今年度、民間出身の校長を迎え、新しい体制がスタートしました。「好学愛知・自律自啓」を基本理念とし、教え込み型教育から脱却し、自立して学ぶアクティブ・ラーナーを育てることを大切にしています。探究型学習はもちろん、町民の方にお借りした休耕田を活用した授業など、さまざまな経験を通して学ぶための取り組みを進めています。また、生徒の学習の場、活躍の場を広げていこうと外部との交流も盛んで、私自身も人事交流として立命館中学校・高等学校に3年間赴任した経験があります。現在は中学の学年主任、中高サッカー部監督を務め、生徒会運営や前述の畑での授業も担当しています。
非認知能力育成の重視
本校では、生徒の非認知能力の育成に注力しています。しかし、教員も生徒も一人ひとり違う中、この方法ならこうなる、という正解はありません。非認知能力向上にどのように取り組んでいけばいいのかという悩みを抱えていました。ある研究機関が保護者対象に行ったアンケートでは、非認知能力の成長を望む保護者が予想以上に多い結果も出ています。実際、三者面談でも、従来の学力だけでなく人間としての成長に関する質問が以前より各段に増えています。
非認知能力の研究者でありノーベル経済学賞も受賞したジェームズ・ヘックマン教授が、幼少期に非認知能力を伸ばすことで40歳になった時の学歴、収入、持ち家率、逮捕率が変わるという研究を発表したのは有名な話かと思います。また、青年期における教育もその後の人生に大きな影響を及ぼすとした別の研究もあります。
PBLの効果を定量化する「Ai GROW」
しかし、いざ非認知能力の育成に向けてさまざまなアイデアを出しても、周囲の先生方をなかなか説得することができず、悩んだ時期もありました。非認知能力を伸ばす取り組みは成果が分かりづらいことがその要因だと分かったのは少し時間が経ってからです。そんなときに非認知能力の成長も数値で示すことができる「Ai GROW」のことを知り、これなら周囲の先生方からの理解も得られると思いました。改めて先生方に、「さまざまな経験を通して生徒の能力を向上させていくためには、やはりPBL(課題解決型学習)が大切。その効果を『Ai GROW』で定量化していくことで、効果の把握と改善につなげていきたい」と提案し、まずは自分の学年から「Ai GROW」を導入することになりました。「Ai GROW」では気質とコンピテンシーを計測しますが、気質は木でいうと幹。コンピテンシーは枝や葉だと考えています。幹は変わりませんが、周囲の影響によって枝の伸び方や葉の茂り方は変化していきます。自分のもつ幹を土台に、日々の学校生活やPBLによって枝や葉であるコンピテンシーがどのように変化するのかを把握していくわけです。
日帰り研修もPBL方式で行っていますが、中学3年生には行き先から自分たちで考えてもらいます。グループに分かれて訪問したい場所を決め、そこについて調べ、全員の前で発表。投票数の多さで行き先を決定します。計画から予算組み、予約まですべて生徒が自分たちで行うことになります。「Ai GROW」はこの前後で受検させ、事前活動を含めた日帰り研修による変化を確認しています。昨年は沖縄に行き、民泊も経験しました。誰かの家に泊まることをストレスに感じる生徒もいますが、そういった課題も乗り越え、充実感を持って帰ってくることができました。「Ai GROW」の結果を見ても、最初はばらつきのあったコンピテンシーが全体的に底上げされたこと、特に伸びたのは「耐性」であったことが確認できました。生徒の成長や教育効果を感覚だけではなく数値でも把握できたことで、本活動をさらに発展させていくことができるでしょう。
より深い生徒理解のために
「Ai GROW」は三者面談でも活用しています。個人レポートを見ると、「まさにこの通りです。すごいですね!」と実感値と合っていることに驚く保護者と、「うちの子、こんな感じなんですね!」と意外な一面に驚く保護者がいます。思春期は特に、家でほとんどしゃべらない生徒もいて、保護者からも本人の様子が見えづらい時期。学校や、友人の前でしか見せない姿や成長を保護者に知ってもらう上でも、「Ai GROW」が役立っています。
「Ai GROW」の受検結果を見ていると、頑張った成果や生徒の成長が本当にしっかり数字として表れるのだなと感じます。成長したなと感じる生徒、少し難しい時期を超え落ち着いてきた生徒、そういったことを感覚だけではなく数値でも把握でき、生徒のことをより深く理解することができるようになったと感じています。
高校における「Ai GROW」活用
高校では、これからの変化が目まぐるしい時代を生き抜く力を身に付けさせることを目標に探究コースを立ち上げ、現在3年目に入っています。他者とコラボレーションし、未来を作り出す力を重視しており、ほぼすべての科目でPBLを実施しています。しかし、能力の向上を感覚やコンテストの結果などで把握するしかなかったことに悩み、その評価のため導入したのが「Ai GROW」です。幸福度を上げるのは年収や学歴よりも「自己決定」とした有名な研究もある通り、さまざまなことを自ら決定し、取り組んでいる本校の生徒たちは、実際に「自己効力」の数値も高い傾向にあります。
生徒一人ひとりの成長と向き合う
中学・高校どちらにおいても、PBLや日々の学校生活を通して、感覚だけではなくしっかりと数値でも把握しながら生徒一人ひとりの成長と向き合っています。高校3年生の生徒たちは、今年の総合型選抜入試でも難関大学を含む第一志望の大学に合格しました。大学入試がすべてではありませんが、日々の取り組みを通して成長した生徒の能力がきちんと評価されたことは嬉しい成果の一つです。これからも、「Ai GROW」を活用して教育効果と生徒の成長を可視化しながら着実に学校改革に取り組んでいきたいと思っています。
IGSは今秋、「探究型学習」をテーマにしたセミナーを各地で開催。探究型学習の指導で実績を上げる各地の先生方を講師に迎え、これから求められる資質・能力を育む具体的方策をご紹介いただきました。その講演内容をまとめたセミナーレポートで、各校の取り組みをぜひご確認ください。
■第15回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(札幌)のセミナーレポート
・上野学園中学校・高等学校 藤井先生
■第16回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(福岡)のセミナーレポート
・筑紫女学園中学校・高等学校 山田先生
・熊本県立宇土中学校・宇土高等学校 後藤先生
■第17回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(大阪)のセミナーレポート
・関西学院高等部 田澤先生
■第18回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(東京)のセミナーレポート
・聖徳学園中学・高等学校 山名先生
・明星中学校・高等学校 木村先生