学習指導要領の改訂により、従来の学力にとどまらないさまざまな資質・能力の育成が求められています。これはすでに入試形態の変化にも表れ、その変化は今後さらに拡大していくことになるはずです。一方、従来の学力とは異なる非認知能力の育成とその評価に苦慮されている学校は少なくありません。では、生徒の資質・能力の成長をいかに促し、その成長を多面的に、そして適切かつ公平に評価していけばよいのでしょうか。
2022年11月26日(土)、福岡で対面形式で行われた本セミナーでは、探究型学習の指導で実績を上げる筑紫女学園中学校・高等学校(福岡県)の山田尚宏先生を講師に迎え、探究型学習とその評価を通して生徒の成長を促進する同校の取り組みを具体的にご紹介いただきました。
【講師】
山田尚宏先生(筑紫女学園中学校・高等学校 教諭)
自ら考え、行動できる女性を育てる
本校は、アメリカで自立した女性が活躍する様を目にした創設者、水月哲英が、日本における女子教育向上を目指して福岡市警固に開いた私立中高一貫校です。仏教校である本校の校訓は自律、和平、感恩。さまざまなご縁によって生かされていることに気付き感謝しながら、自らの言葉で語り、考え、行動する女性を送り出していくことを目標にしています。
中高各学年4クラス、約1600名の生徒が、途中からは医進コース、サイエンスコース、国公立大(文・理)コース、私大(文・理)コースに分かれ、それぞれの志に応じて、学びを進めています。私は社会科を担当していますが、授業の多くは講義形式ではなく、グループワークやディスカッションなどを交えながら進めています。授業の在り方も変えながら、生徒たちの変容を成し遂げていきたいと思っています。
探究型学習の在り方の見直し
新学習指導要領で柱とされている学力の3要素、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」。私たちはこの3つをバランスよく育てていく必要があります。また、大学の入試形態もそのような力を持った生徒を求めて変わりつつあります。そんな中、どうその力を育てていけばよいのか、ということは常に大きな悩みの一つでした。
その課題が一層浮き彫りになったのが、以前、修学旅行でシンガポールへ行った時です。生徒たちはそれまでに「福岡の未来を考えよう」という探究型学習に取り組んでいました。自ら課題を見つけ、その克服を模索するため企業や関係者を探し、アポイントを取って話を聞き、学びやヒントを得ていました。その上で、シンガポールの課題へと視点を移して探究型学習を行い、修学旅行にもシンガポールの企業訪問を組み込んでいました。訪問先には現地企業も日本企業も含まれ、英語話者だけでなく日本語話者もたくさんいらっしゃいました。しかし、英語で話すことを躊躇(ちゅうちょ)する姿だけでなく、話したいことがあっても言葉にできない姿、シンガポールの食事など、文化や多様性にあまり積極的に触れようとしない姿が多く見られたのです。内弁慶になってしまっている生徒たちの姿を見てショックを受けるとともに、事前の探究型学習で力をしっかりと伸ばすことができていたのか、その効果をもっときちんと見ていかなければいけないのではないか、ということを改めて考えさせられました。これが「Ai GROW」を導入するきっかけとなったのです。
探究型学習の振り返りにおける「Ai GROW」活用
ちょうどこの頃は、中高6年間の探究型学習をどう作るべきか検討しているタイミングでもありました。さまざまな検討の末にたどりついたのが、「自分を知ることから始め、他者を知り、SDGs、福岡、国内、世界へと目を向け、社会と徐々につながり、その中で自分が目指したいことを考える、キャリア教育につなげる」という流れです。この流れの中で定期的に「ここまでにはこの力をつけたい」という目標を定め、その振り返りとして「Ai GROW」で資質・能力の成長を見るようにしています。
例えば、私が現在受け持っている中学2年生の生徒たちが、中学1年生だった昨年の探究型学習のテーマは、「目覚めろ、わたし」。自分が何者かを知ることで、キャリア教育の第一歩としたいと考えていました。スケジュールの中でグループでのプレゼンを定期的に行い、そのプレゼンまでに身に付けたい力を提示し、各プレゼン後にそれらの目標を達成できているか確認してもらいました。
こうした活動の成果はそれまで本校作成のルーブリックに沿って自己評価させていたのですが、その評価に客観性がないことが大きな課題でした。しかし、ルーブリックでの評価に加え「Ai GROW」を受検するようになったことで、感覚である程度分かっていた部分が数値でも裏付けられるようになりました。
文部科学省が2022年6月に出した『今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(中学校編)』(アイフィス)では、「多様な評価」「プロセスの評価」「評価の信頼性」が重視されていますが、「Ai GROW」ならそれらを負担なく実現できます。、鉄は熱いうちに打てと、グループ・プレゼンを実施した翌日に「Ai GROW」を受検させているのですが、「Ai GROW」なら個人レポートですぐに受検結果を確認できるので記憶の新しいうちに振り返りを行うことができます。この振り返りまでのサイクルを年4回行い、学年の節目では中長期なスパンでの振り返りも行っています。この時は「キャリア・パスポート」を使っていますが、そこにも「Ai GROW」の受検結果を活用しています。
中学2年生になった現在のテーマは、「踏み出せ私」。自分を知って、社会とどう接していくかを考え、行動者となることを目標に、気になるものをテーマに1万字の論文を書いてもらっています。ここでのポイントは、背伸びして届くかどうかというところに挑戦させること。実際、生徒たちはかなり苦戦しており、調べ学習の域を出ていない生徒もいます。突き返されると壁にぶつかるわけですが、壁にぶつからせて考えさせるのが私たちの狙いであり、どんどんぶつかって挑戦してもらいたいと思っています。調べても分からないことがあれば、外部に取材を申し込み、県内外の先生や専門家からオンラインでお話を聞きます。生徒たち自身の力で踏み出していっているところに成長を感じて、とても嬉しく思っています。
また、「Ai GROW」受検後には、探究型学習によって特に伸びたコンピテンシーの確認とその成長に寄与したと思われる要因の整理、今後伸ばしたいコンピテンシーがすでに高い人の特長を考える振り返りを行っています。これは、「Ai GROW」の活用マニュアルにあったリフレクション活動の内容を参考に導入した形成的評価につながる取り組みの一つです。特に伸ばしたいコンピテンシー「個人的実行力」「共感・傾聴力」「表現力」「論理的思考」については成長を折れ線グラフで記録してもらっています。自分たちの成長を自分たちで把握させることが大切だと考えているからです。保護者にも見てほしいので、「キャリア・パスポート」の中に身に付いたと思うコンピテンシーを記入する欄も作っています。最近は保護者から「Ai GROW」の結果に関するコメントをいただく機会も増えました。
適切な評価が成長を促す
生徒がこのように振り返りをする中、指導する側も、ルーブリック、デジタルに蓄積されていくポートフォリオ、そして「Ai GROW」の結果や機能を活用し、評価を適切にできる状況を作ることができつつあるのかなと感じています。中学2年生は一般的には難しい年齢だとは思いますが、本校の生徒たちはとても落ち着いています。「Ai GROW」の結果を見ても、「共感・傾聴力」が高く出ており、相手の話を聞こうとする姿勢が高いからなのかなと感じています。また、伸ばしたいと思っていたコンピテンシー、「論理的思考」「課題設定」「表現力」がすべてのクラスでしっかりと伸びているのも、スコアが下がったコンピテンシーがなかったことも嬉しい結果です。私たちの探究型学習のアプローチが間違っていなかったのだと自信にもなります。
ある生徒は、不器用ですが、とても頑張り屋です。頑張ってはいてもなかなか結果が出ず、自信を無くしかけていましたが、上記のようなアプローチを繰り返すことで、2年生になって見た目にも分かるくらい自信がでてきたなと感じるようになりました。彼女の「Ai GROW」の受検結果を管理画面で見てみると、コンピテンシーのスコアもぐんと伸びていたのです。その生徒の保護者からは、「『Ai GROW』は自分でも把握していない可能性を引き出すきっかけになりそうでありがたい」というお声もいただきました。
学校のあらゆる場面で活躍する「Ai GROW」
「Ai GROW」の活用は、探究型学習の評価だけにとどまりません。校外模試の国語、数学、英語の結果とコンピテンシーの結果を組み合わせたクロス分析も行っています。その結果、「表現力」に課題があるということが分かり、国語はもちろん、数学では証明問題、英語では英作文に力を入れていこうという方針を固めることもできました。その数か月後の模試とコンピテンシーの結果のクロス分析では、「表現力」を含めて複数のコンピテンシーが向上していることが分かりました。このように変化を見ることで教育効果の振り返りができるところも大きな効果だなと感じています。
また、育成目的に応じた最適なグルーピングが提案される機能もさまざまな場面で活用しています。クラス編成も、成績ももちろん考慮しますが、こういうグループだったらどうなるかと、「Ai GROW」のグルーピング機能で確認しながら進めています。また、普段リーダーをやらないような生徒でも実は高いリーダーシップ力を持っているケースもあるので、そういった生徒がリーダーになれるようなグループを調理実習などの機会に組んでみたりもしています。
他にも、進路説明会、クラス懇談会でも、「Ai GROW」の結果を保護者にお見せしています。成長や課題を数値でしっかりと把握していると伝えることで、より大きな信頼を寄せていただけるようになったと感じています。「見えない学力」も含め可視化できるような体制を取っていることで、保護者も安心して生徒を学校に任せることができるのではないでしょうか。
私たちは、このように幅広く「Ai GROW」の結果を活用し、探究型学習、そして学校運営を展開しています。前述の、中学2年生が外部の方にアポイントを申し込む際の電話を私もそばで聞いていましたが、こんなことまで話せるようになったのだと成長を感じ、とても嬉しく思いました。「Ai GROW」があることで、現在はその成長を感覚だけではなく数値でもしっかり把握することができています。これからもさまざまな工夫を重ね、その効果を実感値にとどめることなく数値でもしっかりと確認しながら、生徒たちのさらなる成長のために尽力していきたいと思っています。
IGSは今秋、「探究型学習」をテーマにしたセミナーを各地で開催。探究型学習の指導で実績を上げる各地の先生方を講師に迎え、これから求められる資質・能力を育む具体的方策をご紹介いただきました。その講演内容をまとめたセミナーレポートで、各校の取り組みをぜひご確認ください。
■第15回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(札幌)のセミナーレポート
・上野学園中学校・高等学校 藤井先生
■第16回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(福岡)のセミナーレポート
・熊本県立宇土中学校・宇土高等学校 後藤先生
・東明館中学校・高等学校 林田先生
■第17回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(大阪)のセミナーレポート
・関西学院高等部 田澤先生
■第18回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(東京)のセミナーレポート
・聖徳学園中学・高等学校 山名先生
・明星中学校・高等学校 木村先生