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2019.12.20

EBPM推進に「Ai GROW」を活用 -埼玉県戸田市の教育改革

インタビュー 教育委員会 EBPM

埼玉県戸田市の教育改革_サムネイル

児童・生徒の非認知能力の向上を目指す埼玉県戸田市教育委員会。産官学の連携によって教育改革を進め、市内の小中学校全18校のうち14校にAIを活用した評価ツール「Ai GROW」を導入している。改革を主導する埼玉県戸田市教育委員会の戸ヶ﨑勤教育長に話を伺った。

 

教育の世界でデータによる客観的根拠を築く

「未来の大人」である今の子どもたちは、ICTツールを文具のように使いこなし、人間ならではの感性や創造性を伸ばしていく必要があります。戸田市では市内全小中学校で「非認知能力育成プログラム」を作成し、AIを活用しつつ実行力、忍耐力、協働・協調性などを発揮できる「やり抜く力」を育てることを目指しています。

問題は、従来の教育現場が教師の「経験」や「勘」に頼るところが大きく、指導の効果を可視化・定量化することができなかったことにあります。説得力のある教育改革を実現するためには、データによる科学的な客観的根拠が欠かせません。そこで私たちは、企業や外部の研究機関との共同研究によって、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)を推進していくことにしました。

具体的には、大学と協力して県の学力調査を分析し、非認知能力と学力の関係を調べる、国立の研究所とともにリーディング・スキルの視点からの授業改善をする、といったことを行っています。そういったさまざまな取り組みの一つに、AIを活用した評価ツール「Ai GROW」の導入があります。すでに戸田市の全小学校12校中10校、中学校6校中4校で実施しており、受検を定期的に重ねながら分析を進めていきます。また、これと同時に児童・生徒と教師の最適なマッチングを行うことなどを視野に入れながら、各校で教師にも「Ai GROW」を受検してもらっています。

Ai GROW」のように、非認知能力の測定には、自己評価だけでなく他者評価も欠かせません。さらにAIがその評価スコアの補正を行うことで、信頼性の高いエビデンス、インジケーターが生まれています。ゆくゆくは、このインジケーターを基に教育活動の効果を検証し、より効果の高い取り組みを取捨選択していくことができるようにしたいと考えています。

Ai GROW結果

▲受検結果の一部(先生のみ確認可能)。コンピテンシーの正確な評価・分析のためには他者評価が欠かせないということが分かる。

学校教育現場にEBPMを根付かせる重要性

私はEBPMをよく、警察の犯罪捜査に例えています。かつては捜査員の経験則や足に頼るところもあったでしょうが、現在では科学的見地に基づく検証を行うことが必須になっています。また、医療の現場でも同じことがいえます。医師が血液検査等の客観的データを得ることで、初めて専門的な診察を行うことが可能になります。

教育の世界には、これまでそういった客観的データを利用する仕組みがありませんでした。しかし、教育の現場は大きく変わってきています。教員採用試験の倍率は低下し、教師の急速な世代交代が進行する中、「ベテランの背中から学べ」という常識が通用しなくなっています。どのような資質・能力を備えた教師が、どのような指導方法で成果を上げたのかを科学的に検証し、若手に効率的に伝承することが切実に求められているのです。

戸田市ではEBPM推進のため、「教育政策シンクタンク」を設立しました。EBPM推進担当チームには教育政策のプロを市の職員として採用し、教育委員会およびすべての学校教職員が実行する施策の取りまとめ役となっています。また、有識者によるアドバイザリーボードや、企業・大学・研究機関・省庁との連携役も務めます。これにより、調査・分析の結果をより効果的かつ効率的に現場に生かすことが可能になるのです。

スクリーンショット 2019-12-20 14.38.42(参照:https://www.city.toda.saitama.jp/uploaded/life/83155_163444_misc.pdf)

データを標準化、指導を個別に最適化する

薬局に行くと一人ひとりが「お薬手帳」を作り、どこで薬を処方してもらってもいいようにしています。これを、教育の世界でも行おうと「学びのお薬手帳」を構想しています。学びの履歴(Study Log)や非認知能力の状況をPersonal Learning DataPLD)としてまとめ、学校だけでなく保護者や塾、家庭教師などと共有します。よその世界では当然のように行われているデータ共有を、教育界でも実践しようしているのです。

「学びのお薬手帳」のイメージ

▲戸田市教育委員会が実現を目指す「学びのお薬手帳」のイメージ

このようにデータを標準化することで、児童・生徒は学習環境に左右されることなくまさに個別に最適化された指導を受けることが可能になります。また、学校や塾、保護者などさまざまな視点を取り入れることで、セカンドオピニオンの役割も果たし、指導する側にもメリットが生まれるのではないかと期待しています。

EBPMは、教師の背中を後押ししてくれる仕組みでもあります。これまで多くの教師は、これといった根拠がないまま「本当にこのやり方でよいのか」「ほかにもっといい方法があるのでは」と試行錯誤を繰り返してきました。指導の結果を客観的データとして見ることができれば、自分のやり方に自信を持つことができ、具体的な改善策を練ることも容易になります。

教育界では、企業との連携に抵抗を覚える人が多いのも確かですが、効果・効率を高めるために、「調査を行うのが当然である」という文化を作ることが肝心であり、すでに戸田市ではそれが浸透しています。保護者の方々も、データを教育に生かすということに理解を示すようになってきました。

内外の理解を得るには、自ら積極的に情報発信をすることも大切です。私自身、戸田市の取組を中心に例外なく毎日Facebookで情報発信しています。情報は、発信するところに集まるもの。私たちの情報発信に応え、有益な情報をもたらしてくれる人や企業が増えています。身近なところから、できることから行動を起こすことで変化が生まれるはず。教育界全体に客観的データの収集と蓄積、それによるエビデンス・ベースでの改革が拡大していくことを願っています。

取材・文:足立恵子(サイクルズ・カンパニー)
撮影:鷲山 淳(REGION)