多様性と根拠を重視したEBE(Evidence-based Education)の実現に向けて
本校は、令和4年度に創立110周年を迎えた歴史と伝統のある学校です。「誠・愛・勇」を校訓に、国内外さまざまな分野に約3万人の卒業生を送り出してきました。平成24年度からは文部科学省のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定され、現在は第Ⅲ期目です。令和5年度からは同じく文部科学省の「新時代に対応した高等学校改革推進事業」にも指定され、理数系教育や探究型学習を通した次世代を担うリーダーの育成に取り組んでいます。
▲よりよい未来を共創する科学技術イノベーターに求められる資質・能力として定義した「Koryo Agency」。
この育成プログラムの研究開発がSSH第Ⅲ期の研究課題となっている
現在、本校でSSHの研究主任を務めていますが、3年前の赴任時はSSHの第Ⅲ期目の申請を目指しているところでした。本校ではそれまで、SSH事業によるコンピテンシーの成長やプログラムの効果検証を生徒の自己評価アンケートによって把握していましたが、事業の評価から主観性をどう排除し、客観性をどう担保するかということが大きな課題となっていました。前任校である北海道紋別高等学校に在籍していた当時、道徳教育による生徒のコンピテンシーの変容の把握に活用した「Ai GROW」がこの課題の解決につながると考えて導入を学校に提案。課題の解決だけでなく、前任校で実感した「客観的かつ定量的な教育効果の検証」が、本校のSSH事業をさらに発展させることにもつながると期待しました。
「Ai GROW」の導入は、教員間でのデモ受検後にIGS協力の下で勉強会を開催することもできたことから校内での理解が深まり、スムーズに進みました。「Ai GROW」で明らかになった生徒のコンピテンシーのスコアも各教員の実感値と近く、「Ai GROW」への信頼が高まるとともに、教員も生徒のコンピテンシーの成長を見取る感覚に自信がもてたように思います。また、捉えにくい生徒のコンピテンシーが数値化されることで、コンピテンシー・ベースの教育に転換する大きな一歩を踏み出せたと考えています。
現在はSSH事業と「新時代に対応した高等学校改革推進事業」のプログラム前後に「Ai GROW」の受検を組み入れ、生徒のコンピテンシーの成長と事業の教育効果を把握しながら、事業やプログラムの改善にも活用しています。
コンピテンシーの成長だけでなく、生徒によって異なる強みや特性を把握できるのも探究活動の指導において非常に大きな意味があります。グループで活動を行う際にもグループに属する生徒の特性を意識しながらサポートすることが可能です。リスク回避型の生徒や他者に意見を言うことがあまり得意ではない生徒など、特定の特性の生徒が集まっている場合にはそれを意識したサポートを行うようにしています。
生徒たちは個人レポートで自身の強みや多面的な成長を確認しながら自己理解を深めています。自己理解の深化とともにコンピテンシーを伸ばしていくことの重要性が伝わったのか、外部の探究の発表会やプログラムや海外留学など少しずつではありますが、さまざまなことにチャレンジしようとする生徒が増えつつあります。
今後は特に2つの点で「Ai GROW」をさらに活用していきたいと考えています。一つ目は、学校の教育活動全体をエビデンス・ベースに進化させていくこと。SSH事業も「新時代に対応した高等学校改革推進事業」も、それ以外の教育活動においても、何が必要だったのか、または不要だったのか、エビデンス無しでは取捨選択や改善の理由が何となくの感覚や負担の大小になってしまいます。教員の手応えや実感値に加え、客観的なデータを参考にどのような効果があったのか、しっかりと把握しながらプログラムの改善、「Koryo Agency」の育成へとつなげていきたいと考えています。
二つ目は、生徒理解をさらに深めること。何かに長けている生徒もいれば、それが苦手な生徒もいます。「Ai GROW」の結果を活用することで生徒の多様性を教員がポジティブに理解・評価し、多様な学びをサポートする文化を学校に定着させていきたいと考えています。また、本校には生徒たちの学校生活をサポートする保健部がありますが、そこでも生徒の特性や強みを踏まえたエビデンス・ベースのアプローチの実現に向け、「Ai GROW」のデータ活用の可能性を模索していきます。データを手に、北海道や日本のみならず世界をリードする次世代のグローバル・リーダーの育成を目指す私たちの挑戦は続きます。
リンク:
北海道釧路湖陵高等学校
http://www.koryo946.hokkaido-c.ed.jp/