客観的評価による徹底的な振り返りが成長を促進
学校のあらゆる場に「探究」を
関西学院は、兵庫県西宮市にある幼稚園から大学院までを有する総合学園です。キリスト教主義に基づく「自由と自治」を校風とし、他者さらには広く社会に貢献できる人間の育成を目指しています。
高等部では、生徒の約95%がそのまま関西学院大学に進みます。大学受験がほぼないに等しいこの環境を生かし、世の中で「探究」という言葉が使われるずっと以前から、現在の探究型学習のエッセンスを取り入れながら生徒に自分自身と向き合う経験を課すことを通してさまざまな力を育成してきました。生徒は大学入学後、授業など基本的に自分の好きなものを選択していくわけですから、その気になれば嫌なことから逃げることができます。だからこそ、中学・高校時代には、半ば強制的にでも自分の嫌な部分や苦手なこととも向き合う機会を作り、「自分の在り方や生き方を考え、自分自身でしっかりと意思決定できる力」をいかに身に付けさせられるかが重要になるのではないでしょうか。その力があれば、先の見えない未来においても生徒は自分の力で生き抜いていくことができると思うのです。高等部は、生徒にその力を身に付けてもらえる最後の砦だと思っています。これは、コロナ禍でオンラインによる学習が当たり前になったことで、リアルな学びの場である学校の役割としてより明確になったと考えています。
探究型学習を進めるなかで、さまざまな取り組みを試したり、課題にぶつかったりするたびに、私はいつも「生徒が自分自身の未来を考え抜く活動になっているか」という問いに立ち返るようにしています。論文やプレゼンテーション、ディスカッションに取り組ませれば探究型学習を進めている気になってしまいがち、プログラムが終わると「頑張ったね」で済ませてしまいがちですが、もっとも重要なのは、学校のあらゆる場に「探究」をばらまいておくこと。そのなかで生徒に振り返りからの自己確認・自己決定をどれだけ経験させられるか、そのための仕組み作りこそ、これからの学校の役割だろうと思っています。
本校ではこのような考えの下、
1)自分自身で課題設定する場 (読書科の授業)
2)探究に必要な基礎知識を習得する場 (通常の授業)
3)学内で他者と交わる場 (探究型授業)
4)学外で他者と交わる場 (探究型行事)
5)自分自身の歩みをきちんと振り返る場 (ポートフォリオ+「Ai GROW」)
を用意し、全体をリンクさせながら探究型学習がらせんのように循環する状態を目指して取り組んでいます。
客観的な指標がもたらすさまざまな効果
このように探究を進めるなかで、学校を自分の生き方や在り方を考えられるような学びの場にするために重視しているのが振り返りの「徹底」です。
探究型授業では、生徒は「学びの記録」といわれる、紙ベースでそれまでの学びを記録。自分の考え、他者の考え、先生の考え、驚き、疑問、調べる必要があるもの、参考図書などを明確に分けて記入し、頭の中の動きの「見える化」を行います。さらに、期間をある程度空けながら定期的にデジタル・ポートフォリオにも活動を記録。担当教員からの評価コメントなどを確認してさらにもう一度振り返りを行います。ここまで徹底的にやるのは、どれだけ深く考えたか、どれだけ積極的に関わったかを自身で何度も問うことによって、ようやく自分の考え方や在り方が見えてくると考えているからです。
しかし、この振り返りで使用する独自に作成したルーブリックにも教員による評価にも作成者や評価者の主観がどうしても入ってしまいます。生徒の振り返りを支える評価には客観的な指標が必要だと考えていたときに出会ったのが「Ai GROW」です。相互評価の存在に加え、年間何度でも受検ができ、探究前後の資質・能力の変化を把握できる点、受検後すぐに管理画面や個人レポートを通じて振り返りに有効なデータが入手でき、翌日からの学びや指導に活用できる点が導入の決め手となりました。
多面的な成長が見える化されることは、生徒にとっても教員にとっても非常に大きな意味があると考えています。相互評価によって自分でも気付いていなかった自身の強みを知る。この経験を積み重ねていくことによって、生徒は自分自身に対する理解を深めると同時に自己肯定感を高め、簡単には折れないしなやかさを身に付けることができます。まだまだ十分に活用できているとはいえませんが、教員が生徒への関わり方を見直したり、より前向きな声掛けができるようになったりするなど大きな可能性を感じています。
大切なのは、受検させて終わりにしないこと。「Ai GROW」受検後は結果に対する振り返りをしっかりと行い、ポートフォリオに活動の中身だけでなく、その経験による資質・能力の成長もまとめさせようとしています。コンピテンシーは自然に成長し続けるものではなく、伸びないことや下がることもあります。コンピテンシーが伸びなかったとき、下がったときこそ振り返りの最大のチャンス。なぜ伸びなかったのか、何が足りなかったのかを考えることによって、学びへの姿勢が驚くほど変わります。
また、「Ai GROW」で得られる生徒の成長データは、プロジェクトやプログラムの検証にも活用できます。過去には文部科学省「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」のカリキュラム開発拠点校として、探究型学習に注力してきた生徒のコンピテンシーの成長を「Ai GROW」で3年間計測し続けましたが、学年が上がるたびにコンピテンシーはきれいな右肩上がりで成長したことが分かりました。従来の学力と特に相関が高いと考えられる課題設定、論理的思考、疑う力、創造性が伸びただけでなく、本校が大切にしている自己効力、影響力の行使、地球市民、協働性も大きく成長したことが分かり、探究を軸にしたこれまでの歩みが正しいものだと確信することができました。今はこの結果を学校全体で共有したうえで、入試の仕組みも探究と探究によって伸びる能力を重視した形に変えようと動き始めています。
私がこれらの取り組みを通じて感じているのは、学校・教員が、考え抜いたうえで場を与えれば、生徒は勝手に育っていくということ。そして、そのなかで生徒が「自ら育った」と感じられることが何よりも重要だということです。今こそ学校はそのための環境作りと提供に舵を切るべきだと思います。自分で決定する経験、自分が頑張ったと思える経験をどれだけ積んだか、そして、その過程で自分とどれだけ深く向き合ったか、これらが生徒の将来を支える力となります。われわれ教員が挑戦する姿を見せるのも生徒の成長にとって意味があること。生徒たちのさらなる成長を目指し、私自身も挑戦を続けていきたいと思っています。
リンク:
関西学院高等部
https://sh.kwansei.ac.jp/
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