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【インタビュー】保護者の中等教育に対するニーズの変化(株式会社湘南ゼミナール 川村一雄先生)

株式会社湘南ゼミナール 川村一雄先生

【インタビュー】保護者の中等教育に対するニーズの変化

社会的背景が変化する中、保護者の中学・高校教育に対するニーズはどう変化しているのか? 保護者に響く訴求方法とは? 予備校や塾という学校とは異なる角度から日々生徒や保護者に向き合い、現在は株式会社湘南ゼミナールで総合型・学校推薦型コンテンツの開発責任者を務める川村一雄先生にお話を伺いました。

 

変わりゆく社会と保護者のニーズ

社会が変わりゆく中、保護者の子どもに対する願いも変化しています。大学受験に関して言えば、偏差値偏重の「学歴至上主義」から、生徒の個性に寄り添いつつ無理をしない(緩い)「学歴志向主義」への変化です。つまり、大学は通過点と捉え、中学や高校では本人がやりたいことに取り組ませたいと考える保護者が増えているということです。これは、決して従来の学力や一般選抜の否定ではなく、市場が認識する「学力の多様化」です。学力の定義が広くなることで、一般選抜や偏差値に対する価値が相対的に低下しているのだと考えます。そういえる根拠の一つとして、大学入試における総合型・学校推薦型選抜の隆盛(私立大学の年間入学者の半分以上がこの選抜方式による合格者)があります。当然、大学入試を早期に終了したいと考えて、この選抜方式を選択する保護者・生徒も多くいます。しかし、日々さまざまな保護者と話す中で、1点(ときには0.01点)を争う一般選抜に向けて塾や予備校で勉強漬けになるのではなく、学校外の活動も含む学校生活での学びを生かした入試方式に共感される保護者が20年前に比べて増えてきたことは実感しています。

上記の変化に対して、生徒確保に向けた保護者への最大のアピールの場の一つとなる学校説明会では、「大学進学」にフォーカスし、進学実績や手厚い学習サポートを強く打ち出す学校がまだ多いと感じます。しかし、私自身、高校以上に大学進学実績を重視される私教育業界で募集に関わる中で、そのような募集施策には限界があると感じています。そこには、大学入試改革に伴う入試制度の多様化や、新しい指導スタイルの中学・高校の出現も影響しているでしょう。保護者と話すと、従来求められてきた「進学実績」や「手厚さ」の中身が変質してきていると感じます。特に「手厚さ」に関しては、(補習などの学習面ではなく)生徒の個性や価値観をいかに尊重するかを見る保護者が、生徒の学力層に関わらず増えている印象です。

このような中で、他校との差別化を図る際のポイントを私なりに考えてみました。

 

子どもたちの将来の姿をイメージさせる

こうした変化を踏まえ、保護者に対する有効な訴求内容となるのが「子どもの具体的な将来像」です。これは、キャリア形成の手法であるロールモデル設定にも近いかもしれません。最近は、学校内のキャリア教育の一環として、その学校を卒業した社会人を招いた進路系セミナーを実施する学校も増え、生徒の満足度も高いと聞きます。保護者が求めているものも同様で、「〇〇大学に進学した卒業生」という情報だけではなく、「高校での学びや経験が社会でどのように生きているのか」という大学進学の先の姿(≒社会)から逆算された学びや成長に関する情報を求めているのです。特に、総合型や学校推薦型選抜が今後も増加していくと、従来の学力“以外”の能力に対するニーズも高まると予想されます。少なくとも、私の周囲にいるデジタル・ネイティブ~AIネイティブ世代の生徒や教育感度の高い保護者は、すでにこのようなニーズにより高校を選び始めています。大学進学をゴールとしない進路指導や、多様性を認めたキャリア教育の実践と成果の具体化は、他校との差別化にも必ずつながるはずです。その際、企業が明確なビジョンやミッションを掲げるように、学校も核となるビジョンを設計し、それと輩出人材がリンクできると、より強固なブランディングになるかもしれません。

 

コンピテンシーを育む環境をアピール

上記にともない 、もう一つ有効なのは「コンピテンシーを育む環境」の訴求ではないでしょうか。既存の枠組みの変化が予想される中で、今後重要になるのは、状況の変化に対応し、自分で課題を見つけ、学び、解決できる力です。そうはいっても、「保護者は学力面での成長を期待しているのでは?」という見方もあります。しかし、例えば学力伸長に必要な「学習時間の確保」にも、自律性や計画性、自身の課題を見つけ解決に向けて動くための力が大きく作用する点には、多くの方が納得されるのではないでしょうか。これらの力は言い換えると、個人的実行力や、課題設定、疑う力などをはじめとするコンピテンシーです。この根幹の力が育っていれば、総合型・学校推薦型・一般選抜型のどの入試方法に挑戦するとしても、本格的な対策は高校3年生からでも間に合います。また、進学ではない方法を選択したとしても、その道で自身の力を高め、生かせるでしょう。しかし、コンピテンシーには、入学時から長期的な視点で、生徒自身が能力を自覚的に育める環境が必要です。コンピテンシーを早くから意識させ、伸ばすための環境を用意していることも、他校との大きな差別化要因となるでしょう。

 

学校も生徒もコンピテンシーを早期から意識

自分でも気付いていない自身の強みや課題を把握でき、定期的な受検によりその成長も可視化できるアセスメント・ツール「Ai GROW」の活用は、そういった視点で学校としての大きなアピール材料になるのではないでしょうか。「Ai GROW」は、従来の学力を伸ばす上でも、社会で生きていく上でも核となるコンピテンシーを多面的に定量化することができ、受検と結果の振り返りを重ねることで、生徒は自身の能力や強みとその成長を把握できるだけでなく、それを言語化できるようになります。このように整理ができると、生徒は意識的に自分の強みを補強し、課題を克服するための経験を積んでいくことができます。そして、その経験で得た成長も受検結果に反映されていくのです。このサイクルを回し続けることで、生徒の生き抜く力は飛躍的に向上するはずです。

保護者のニーズは、次第に前述のような、人間としての根幹を支える力(コンピテンシー)の成長へと向いてきているように感じます。その変化を先取りし、コンピテンシーの効果的な育成に取り組み、これからの生き抜く力の育て方を提案できる学校。今後、保護者に選ばれるのはそういった学校なのではないでしょうか。

 

 

 

kawamura

川村一雄先生(株式会社湘南ゼミナール 高等部、総合型選抜(AO)・推薦コース 責任者)

武蔵野美術大学卒業後、大手大学受験予備校にて約7,000名以上の生徒たちの受験指導に関わる。その後、校舎責任者を経て、新規ブランド(総合型・学校推薦型対策)を立ち上げた。また、予備校や個別指導、映像予備校向けの総合型・学校推薦型選抜入試向けコンテンツ開発の責任者も務める。個人としては、高校での保護者会や講演会をはじめ、高校生対象のビジネスコンテストでの審査員や、高校生向けプロジェクト(杉並区教育委員会)の立ち上げメンバーを務めるなど、中学・高校生と社会をつなぐ活動にも精力的に取り組んでいる。

川村先生の「総合型選抜入試に向けて行うべき準備」のインタビュー記事はこちら