拡大する総合型選抜入試。志望者は、どのような準備を、いつから行っていくべきなのでしょうか? 湘南ゼミナールで総合型・学校推薦型コンテンツの開発責任者を務める川村一雄先生にお話を伺いました。
拡大する総合型選抜入試
大学入試における総合型選抜の存在感は年々高まっています。私立大学ではすでに総合型・学校推薦型選抜方式による入学者が60%弱(55.2%。前年比+0.8%)を占めるようになり、国公立大学でも導入校が年々増加しています。志望校合格のチャンスが増える一方、注目が集まることで競争も激化し、今後はこれまで以上に早期からの準備が必要となっていくでしょう。一方で、まだ総合型選抜入試が正しく理解されていないケースも多いと感じています。今回は、この総合型選抜入試と、その受験に向けて必要になる準備について考えてみたいと思います。
総合型選抜入試とは
多くの大学で導入が進み、メディアなどで取り上げられる機会も増えた総合型選抜入試。認知は高まっているものの、生徒や保護者、一部のメディアの中には、総合型選抜を「特別な経験をしている生徒向け」「一芸に秀でた生徒向け」と捉える方や、「合格しても社会では通用しない入試」という先入観を持つ方も少なくありません。また、「受験勉強をしなくても済む」「大学受験を早く終わらせたい人が受ける」と考えて志望する方もいます。確かに受験は早く終わり、一芸に秀でた生徒が合格を勝ち取る場合もあるでしょう。しかし、それは総合型選抜のほんの一面、ほんの一つのケースにすぎません。
総合型選抜は、その名の通り「生徒の総合的な能力を把握する」選抜方法です。志望理由書や自己推薦書などの出願書類に加え、面接、小論文、社会課題に関するレポート作成、そしてときにはプレゼンテーションやグループ・ディスカッションを通して、生徒一人ひとりを丁寧に評価し、大学側は求めている能力と生徒の持つ能力とのマッチングを行います。また、入試形式以外で高校入試の面接と大きく異なるのは、学問理解が重要視される(学部学科への志望理由が問われる)点です。その学問分野を専門とする教授が、イメージだけで学問内容を理解したつもりになっている受験生に対して準備不足という評価を下すのは当たり前でしょう。そのため、低学年の間から読書等を通じて情報収集を促すと良いでしょう。加えて、文部科学省が総合型選抜を含むすべての入試方法で学力評価を行う方針を打ち出したため、日々の学習面の充実は必要不可欠です。
総合型選抜入試に向けた準備の2本の柱
このような総合型選抜の中で、重要となるのはやはり面接です。その中でも、特に生徒が苦労する「自己アピール」の対策には、大きく2つの柱があります。
まず一つめは、大学や学部が求める力(≒コンピテンシー)を理解することです。大学のWebサイトには、「アドミッション・ポリシー(入学者の受け入れ方針≒求める学生像)」が掲載されています。学部により求める人物像は異なるため、大学全体だけでなく、志望学部や学科のアドミッション・ポリシーもしっかり確認することが重要です。しかし、多くの高校生は、そもそも「能力(≒コンピテンシー)の種類」自体を知らないのが現状です。大学のアドミッション・ポリシーで頻出する「異文化を受容するコミュニケーション力」を例にとってみても、そもそもコミュニケーション力とは何かを理解(≒因数分解)している生徒は少数です。当たり前ですが、コミュニケーション力には表面的な説明力や会話力だけでなく、共感・傾聴力や他者理解力、広範な視野など数多くの能力が包含されます。このように一つの能力を詳細に理解することではじめて、志望大学・学部が求める人物像と自分の経験とを結び付けたアピールが可能になるのです。
二つめは、自分の強みや能力を把握し、言語化することです。私の指導経験上、多くの生徒は、高校時代の学びや成長の客観的な分析を苦手としています。当然、人が学びを最大化するためには、自身の得意や課題をメタ的に分析する力が不可欠であり、多くの大学も(企業も)この能力を重視します。しかし、自身の能力や強みを客観的に把握した上で言語化するのは、高校生にとって高度な作業です。私は大学生の就職活動指導も行っていますが、世間で最難関大と呼ばれる大学に通う学生でも、能力の言語化は難しいようです。ましてや高校生だと、せっかく素晴らしい能力を持っていても、面接ではまったくアピールできない生徒もいます。そこで、探究や総合の時間、さまざまな高校生活での学びや気付きを生徒に振り返らせ、自己の能力を客観的に把握して言語化する訓練を積ませる必要があります。そのような日々の取り組みの集積があれば、自己アピールで苦しむことも減り、自信を持って面接に臨むことができるでしょう。
総合型選抜も一般選抜も、求められる能力は同じ
総合型選抜に関して、学校の先生方からは、「一般選抜対策と両立できず、不本意な結果に陥りがち」「添削や面接練習などの負担が膨大」という声も聞かれます。確かに、面談の練習など特別な対策も必要になる分、一般選抜対策との両立も難しくなり、先生方の負担も増えます。しかし、この問題は、高校入学からの2年間(中高一貫校であれば、中学3年からの3年間)で大学受験全般で求められる普遍的能力を育めていれば大きく軽減できます。この普遍的能力とは、「メタ的に自身の課題を把握して、克服に向けた学習計画を立案し、モチベーションを管理しながら実行する力」と言えるでしょう。これらを一般選抜に言い換えると、「自己の課題を発見し、他者(先生、参考書や問題集、友人、保護者)と協働しながら解決する行為」となるでしょう。そこには、先生や友人からのアドバイスを柔軟に取り入れる能力(≒広義のコミュニケーション能力)も含まれます。また、面接で評価される簡潔に説明する力や表現力が高まれば、物事を整理・分類し理解する力も向上します。学習時間や問題演習量などを増やすために必要な力は、総合型選抜で求められる能力でもあり、対策も共通点があります。このように、指導者側が総合型選抜と一般選抜の相関性を理解して指導すれば、出願書類作成に必要な情報収集や目標設計(自己分析)においても、方法を指南するだけである程度生徒が自走できるようになり、先生方が逐一介入する必要がなくなります。
核を作るために強みを早期に把握する
自分でも気付いていない自身の強みや課題を把握でき、定期的な受検によりその成長も可視化できるアセスメント・ツール「Ai GROW」は、この核となるコンピテンシーを伸ばす上で大きく役立ちます。「Ai GROW」の受検と振り返りを重ねることで、生徒は自身の強みや課題、成長を客観的に把握できるだけでなく、社会やアドミッション・ポリシーで求められている資質・能力についても理解し、言語化できるようになるはずです。また、能力の整理ができると、生徒は意識的に自分の強みを補強し、課題克服や志望学部で求められる力を伸ばすための経験を積めるようになり、その経験で得た成長は受検結果に反映されていきます。このように生徒と先生が強みや課題を早期に共有できると、締切直前に出願書類の添削や指導を依頼され困ることは少なくなります。
総合型選抜入試は、特別な生徒だけのものではありません。自分の強みや課題に向き合い、成長のための経験を積み、言語化できるレベルで理解する。こうしたサイクルを3年間回し続けた生徒なら、総合型選抜入試でも一般選抜入試でも、悔いのない結果を残すことができるのではないでしょうか。
川村一雄先生(株式会社湘南ゼミナール 高等部、総合型選抜(AO)・推薦コース 責任者)
武蔵野美術大学卒業後、大手大学受験予備校にて、今まで約7,000人以上の生徒たちの受験指導に関わる。その後、校舎責任者を経て、社内で新規ブランド(総合型・学校推薦型対策)を立ち上げた。また、予備校や個別指導、映像予備校向けの総合型・学校推薦型コンテンツ開発の責任者も務める。個人としては、高校での保護者会や講演会をはじめ、高校生対象のビジネスコンテストでの審査員や、高校生向けプロジェクト(杉並区教育委員会)の立ち上げメンバーを務めるなど、中学・高校生と社会をつなぐ活動にも精力的に取り組んでいる。
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