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【活用事例】戸田市教育委員会:教育データの利活用およびEBPMの推進における「Ai GROW」の活用

戸田市教育委員会

【活用事例】教育データの利活用およびEBPMの推進における「Ai GROW」の活用

※本記事は2022年7月28日に開催した「自治体向け IGS教育フォーラム 2022夏」の講演内容を基に作成しています。

 

講師:戸田市教育委員会 教育政策室 指導主事 山本典明先生

 

教育データの利活用およびEBPMの推進における「Ai GROW」の活用

 

戸田市教育委員会は、コンパクトさを生かして教育改革を機動的に進めている自治体です。教育改革のコンセプトの一つにEBPM(Evidence Based Policy Making、根拠に基づく政策立案)を据えており、原動力は平成27年度に就任した現教育長の熱い思い。教育長が現場時代から感じていた課題として、学校現場が3K(経験、勘、気合い)で判断をして組織を動かしているということがあり、そこから脱却したいという思いが中心にあります。客観的、そして組織的に物事を判断できるような学校作りをするためのツールとして「データ」が非常に有用であると考え、データを活用した学校運営を進めています。

 

3つの「つ」を大切にEBPMを進める

EBPM推進にあたって、3つの「つ」(つづける、つなげる、つかう)を実行していきたいと表現しています。

「つづける」については、事業に教育委員会がきちんとサポートに入ることでその継続性を高める狙いがあります。

「つながる」については、開かれた教育委員会になっていくことで、学校間、自治体間の連携を進め、共通の指標によって取組の効果の検証等に繋げたいという思いがあります。

「つかう」に関しては、学校現場で蓄積されるデータなどをきちんと活用して取組の生産性や効率性を上げたい、また、年度が変わっても継続していける形でデータを使っていきたいという狙いがあります。

教科の本質を捉えた授業改善を行うことを中心に据えていますが、それを支えるEBPM、ICTの活用を進めるためのEdTech、課題解決型の学習を進めるPBL(Project Based Learning)も教育改革のコンセプトとしています。EBPMについては、最近はEIPP(Evidence Informed Policy and Practice、エビデンスを参照した政策と実践)という言い方もしますが、データを盲目的に信じるのではなく、教師や、学校の専門的なスキルを持っている人材の判断のサポートにデータを活用する方針です。

 

目的は「検証・改善」「科学的な指導」「新しい知見」

データ利活用の主な目的は、大きく3つあります。1つ目は「検証して取組を改善する」、2つ目は「子どもたちの学びや教師の指導を科学的に深化・形式知化する」、3つ目は「研究を進めることで新しい指標や新しい知見を得る」です。取組の効果検証に「Ai GROW」を活用し、児童・生徒のコンピテンシーの変化を計測していますが、これら3つに活用できるという点で非常に意義があると感じています。

個別最適な学びを実現するためにも「Ai GROW」の測定結果が必要と考えています。子どもの気質や行動特性は非常に見えづらいものですが、これらが可視化されることで、学力や体力といった既存の指標以外の軸で子どもの良さを見たり、気にかけたりすることが必然になっていくでしょう。

新しい視点での課題発見のために実証研究を進めていますが、ここでも「Ai GROW」で計測した非認知能力に関する数値を活用しています。研究に活用するうえで、データの客観性は大きなメリットです。アンケートのような主観的なものは生徒の心理状況などの要素で変動しうるので、そういった不確定要素に補正をかけてくれる点は魅力です。この取組はまだ道半ばであり、大きな成果が出ているわけではありませんが、今後、子どもたちを多様な視点で見ていくという点で、新たな指標を導入できればと考えています。

 

浸透のカギは現場の先生の負担軽減

データの利活用を進めるには非常に時間が掛かります。現教育長が平成27年度に就任してから7年、ようやく学校の管理職に考え方が浸透してきたという段階です。現場の先生方に完全には落とし込めていないので、教育委員会としては、組織にとってデータ利活用が必須であると継続的に伝えていくことが重要だと思っています。

その際、各校の先生方に有用性をどれだけ感じてもらえるかが鍵となります。先生方にとって身近なデータを使い自分事にしやすくすること、負担を軽減して使いやすい形にすることも大切です。「Ai GROW」はデータを取って終わりではなく、その結果を用いて育成目的に応じた最適なグルーピングができたり、指導要録や調査書に記載する所見の作成に役立てられたりするなど、各校の先生方が負担なくデータを活用でき、業務負担の軽減にもつながることから、話を進めやすかったです。

 

実現したいことに照らして取組を見直し予算を確保

どの自治体においても教育振興計画があると思いますが、取組の骨子に関連するデータの収集それも各校の先生方が日常の業務でも活用できる計測ツールの採用が必要になってくると思います。予算獲得から導入にいたるまでには苦労も少なくありませんでした。学校の理解を得ること、市の財政部局を説得することの2点です。

幸い、戸田市の学校は新しい取組への免疫ができており、推進してくれる現場の先生方がいて、彼らの声を積極的にサポートすることで前に進めることができました。必ずしも全学年ではなく、まずは特定の学年で継続して一定の効果を出すといったやり方もあると思います。

市の財政部局に対しては、戸田市は教育振興計画に「非認知能力の育成」を掲げており、市長の公約にはデータを利活用した教育改革も入っているので、「市としてやりたいことを実現するために必要なことである」と主張することが有効だったと思います。最終的に、戸田市教育委員会としての姿勢をしっかり示す意味でも、一般的な学力調査を「Ai GROW」にリプレースしました。

今までと違う価値観の下、どこにお金を使うかを、改めて考えてみることが必要なのではないかと思います。