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【活用事例】三重県教育委員会:学びの探究化・STEAM化に向けて

三重県教育委員会

【活用事例】学びの探究化・STEAM化に向けて

※本記事は2022年7月28日に開催した「自治体向け IGS教育フォーラム 2022夏」の講演内容を基に作成しています。

 

講師:
三重県教育委員会 高校教育課 課長補佐兼班長 谷奥 茂先生(左)
三重県教育委員会 高校教育課 係長 辻井伸文先生(右)
   

 

学びの探究化・STEAM化に向けて

 

三重県では平成28年度から、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校を中心に、探究的な活動を研究する探究コンソーシアムを構築するとともに、各校の代表的な課題研究を発表する、みえ探究フォーラムを開催しています。先進的な探究学習を県内に広く展開したいと考えていましたが、「本当に資質・能力を育成できる取組になっているのか」といった疑問が出て、客観的な指標の必要性が明らかになりました。

 

「未来の教室」実証事業で得た2つの成果

そのような中、平成30年度より経済産業省「未来の教室」実証事業に参加させていただくことになりました。三重県の産業にちなんだPBL(Project Based Learning)の開発と実践を行い、事業の成果と生徒のコンピテンシーの成長を「Ai GROW」で定量化するというものです。PBLは、三重県の主要産業の一つであるモビリティ、自動車と観光をテーマに開発。その産業で実際に活躍されている方々のコンピテンシーを測定し、実社会で活躍するために必要なコンピテンシーを育成するSTEAMプログラムを作っていただきました。

成果1:コンピテンシーの成長の可視化

育成するコンピテンシーとして14項目を設定、その成長を「Ai GROW」で計測しました。すると11項目で平均値が上昇し、特に、表現力、課題設定、決断力、論理的思考、地球市民で上昇が見られました。スタート時には半信半疑の部分もあったのですが、実証事業2年間の成果の1つはコンピテンシーの可視化だといえます。

それまで教員の勘や経験で「この生徒はここが成長しているな」と判断していましたが、客観的な数値データとして把握できるようになったのは大きな成果であり、同時に、経験値による判断が、そう外れたものではなかったということが自信にもなりました。

 

成果2:デジタル・コンテンツの活用増進

実証事業を通して動画やPDFデータ(ワークシートなど)で、ICT端末を使う機会が非常に多く、デジタル・コンテンツの活用が進んだ成果もありました。また、数学的な要素も入ったプログラムでしたので、生徒たちは数学が実社会で活用される場面を知り、データの大切さを感じたようです。多様な意見の中で、より納得できる解を見出す大切さも理解したようで、社会に出て必要な力の育成にもつながったと感じています。

 

県独自の「学びのSTEAM化推進事業」をスタート

経済産業省の事業は5年間で終了するため、その先の予算確保が課題となります。1人1台端末の実現、民間事業者のコンテンツ活用などを視野に検討を進め、令和2年度に県独自の事業として「学びのSTEAM化推進事業」を立ち上げました。県内4校を指定校として、STEAMの視点を入れつつ、学校独自の探究学習を進める取り組みです。

令和3年度からは、実証期間中に商業高校で実施してコンピテンシーの向上に効果があると判明したSTEAMプログラムを、商業、工業、農業学科を設置している高校で実施。論理的思考や課題解決力といった能力の向上を目指すことにしました。県独自の事業の立ち上げが、本県のSTEAMプログラムを県内に展開する一つの契機となったことは間違いありません。

 

学校を越えた22名の高校生をチーム化

本県では自然科学系の探究は比較的進んでいますが、社会的な課題に向き合う、根源的なものの見方を身に付ける、データを活用する、というようなところにはまだ課題があると捉えています。

ある生徒が「課題研究の実験結果が出ました。でも困っているんです。実験結果について平均が一致してしまいました。」と言うので、「分散はどうなっているの?」と聞くと、「分散て何でしたっけ……」と言うのです。数学Ⅰの内容を学習していても、課題研究に生かせていない実態がありました。

このような実態をうけ、昨年度に、今年度の事業を検討するなかで、「人文科学、社会科学の課題研究のモデル」が必要なのではないか、さらには、課題研究に役立つ手法を学ぶ講座を取り入れ、生徒の資質・能力がどう変わったかを測ってみたら面白いのではないかということで、令和4年度、学びの探究化、STEAM化に必要な分析力を高めるためにデータサイエンスの講座を導入しました。本県における重点事業「次代を担うグローバル・リーダー育成プログラム」の中の一つの取り組みです。

そして、県立高校の生徒を募集して、「Mie lab」という22名のチームを結成しました。同じ分野に興味や関心をもつ学校を越えた仲間と切磋琢磨するという面でも、生徒にとって大きな成長の機会になると捉えています。

 

IGSの「データサイエンス講座」導入後の展望

プログラムを進めるに当たっては、三重県地方産業教育審議会、みえICT・データサイエンス推進構想といった団体からも、AIやデータサイエンスに関する教育は必要だろうといった意見をいただきました。

プログラム内の具体的な講座を検討する際には、大学に協力してもらって講座を開くこと、その他のサービスの活用なども検討しましたが、生徒の資質・能力の変容を把握したいこと、すでにコンピテンシーの測定を「Ai GROW」で行っていたこと、座学だけでなくグループワークなどができることなどから、IGS社のデータサイエンス講座に決めました。

現在、「Mie lab」の22名を対象に、オンラインの集合研修や個別研修を通じて丁寧に指導していただいています。今年度の目標としては、情報の収集、整理、分析を重視した課題研究のモデルを作ること。生徒たちには、答えのない課題について、数的根拠に基づいて協議して結論を導ける力を付けていってほしいと願っています。

この講座を受けた生徒のコンピテンシーの変化が非常に楽しみです。講座を受けていない生徒との違いなどが明らかになれば、今後の本県の課題研究の指導も変わってくるのではないかと思っています。生徒の資質・能力の変容データがある程度集まっていますので、「Mie lab」の変容も把握しながら、前に進めていきたいと思います。