さまざまな研修会で講師を務める他、CLIL(Content and Language Integrated Learning、内容言語統合型学習)の普及を目的とした勉強会を立ち上げるなど、実践のアプトプットにも精力的に取り組まれている横浜女学院中学校・高等学校の白井龍馬先生。扱うテーマによって英語力以外のさまざまな能力の向上も期待できるCLILの教育効果の定量化について、白井先生に話を伺った。
独自のルーブリック評価に代わるアセスメントの必要性
私が取り組んでいるCLIL(Content and Language Integrated Learning、内容言語統合型学習)の授業では、コンピテンシー・ベースのさまざまな指導目標を掲げています。しかし、その評価をするには、これまでの教師の判断による一元的な評価では限界があると感じていました。また、グループワーク中の生徒の気付きこそ評価すべきだとも思いますが、グループワーク中のすべての生徒の反応や発言をもらさずチェックすることも難しい。
そこで、独自のルーブリックを作成し、生徒たちにPeer Assessmentに取り組ませることも試したのですが、そもそもわれわれが作成したルーブリックには、「こうあってほしい」という教師の希望(バイアス)が入っていたのではないかと気が付いたんです。手作りのルーブリックでは、CLILを通して育みたい要素の一つである「地球市民的価値観」を計測することに無理がありました。なにか良い評価方法やそのツールはないかと探す中で出合ったのが、「Ai GROW」です。
教師の主観や願望に左右されず客観的に評価できるツールであることに魅力を感じました。クラスメート3名による他者評価に加え、AIによる補正が行われるなど、今までなかった視点でコンピテンシーとその成長や変化を定量化できますからね。
▲CLILの授業では、英語力以外のさまざまな能力の向上が期待できる
「Ai GROW」は学校全体でも活用できる万能ツール
現在、「Ai GROW」はCLILの授業の評価と効果検証に使用していますが、「Ai GROW」は学校行事や部活動の効果検証など、学校全体で横断して活用できるツールでもあると考えています。
特に相性が良いのは「探究」ですね。本校では、探究にESD(Education for Sustainable Development、持続可能な開発のための教育)を取り入れていますが、このアセスメントが自己評価で終わっているんです。「協働学習」という観点から考えると、自己評価だけで終わるのはもったいないので、「Ai GROW」を早くこの評価にも活用していきたいですね。
また、部活動ごとに生徒のコンピテンシーを比較した結果もとても興味深かったです。私が顧問を務めるバスケットボール部はあまり強くないのですが、それでも高いコンピテンシーや成長したコンピテンシーがあることが分かると顧問としてうれしいですし、「全国大会出場」、という成果だけが部活動の意義ではないということも再認識できました。また、生徒も数的根拠を基に大学入試などで自身をアピールできる材料になりそうです。
メタ認知力の育成も、教育の大きな目標の一つだと思っています。ですので、生徒に「Ai GROW」のフィードバックレポートを確認させる際には、「どのコンピテンシーが高かった? そのコンピテンシーが高い理由は何だと思う?」と聞いてみようと思っています。これによって、自己を客観的にとらえることができるはずです。また、クラス内でそれをまとめる活動をさせたり、発表をさせたりすることによって、良いホームルーム運営ができる気もしています。
▲生徒向けの個人レポートでは、メタ認知の向上に役立つフィードバックも得られる
日頃の教科指導では気づけなった生徒の魅力を発見
私が担当する学年に日本語が第一言語ではない生徒がいます。その生徒は表現をすることがあまり得意ではないタイプだったのですが、「Ai GROW」でその生徒の表現力のスコアがとても高く出たのです。その子はものすごく読書家の一面を持ち合わせており、推薦図書をクラスメートに紹介する本校の国語の授業でとても活躍したようで、クラスメートにその子の努力や活動が伝わった成果なんだと思います。私が担当する英語の授業だけでは気づけなかった彼女の強みを知ることができました。友達の努力を周囲もしっかり評価できているということもうれしかったですね。
一方で、部活動指導の観点で結果を見ると、生徒たちの自己効力が低い、という課題を発見しました。目標設定が高すぎたのか、と自分の指導を振り返るきっかけになったんです。このデータを見て、生徒たちに自信をもってもらえるような機会をたくさん作りたいと思いました。また、生徒の細かな変化に気が付いてあげられるのではないかと思い、「Ai GROW」で計測したコンピテンシーのうち、自己効力・耐性・感情コントロールは、自己評価のスコアも参考にしています。
▲管理画面では、自己評価と他者評価の乖離が一目で分かり、個人面談などでのフィードバックにも役立つ
生徒には「自分の生きる価値を見つける」「価値の実現のために他者と柔軟に協働しながら寛容性をもって歩む」ことを望んでいます。この言葉の中にも、コンピテンシーがいくつも含まれていますよね。これらも「Ai GROW」で定量化できるので、その計測結果や成長の過程を日々の授業・ホームルーム・部活動の中に落とし込んでいきたいと思っています。
「Ai GROW」の初回の受検結果で、本校の建学の精神にも含まれる寛容というコンピテンシーが中学2年生の時点で高かったことも、我々の生徒への接し方が間違っていなかったんだという自信になりました。
「Ai GROW」は生徒だけでなく、指導するわれわれ教師にも振り返りや気付き、そして自信を与えてくれます。学校全体だけでなく、教育界全体に、広く普及していくことを願っています。そして、私自身「Ai GROW」をうまく活用しながら、「生徒の心に響くことを伝えられる」教師になりたいと思っています。