【セミナーレポート】国際機関 アジア開発銀行 スキルフォーラムでのクラスデモンストレーションを終えて
IGSはこの秋、アジア開発銀行の教育に関する年次イベントである「第10回ADB国際スキルフォーラム:デジタル化と気候適応型の人間と社会の発展の新時代」(2023年10月17-19日、フィリピン・マニラのアジア開発銀行本部にて開催)に出展。弊社代表の福原が招待いただき登壇したトークセッションやプレゼンテーション、ブースに加え、「クラスデモンストレーション」で生徒の非認知能力を可視化することの重要性やそれを実現する評価ツール「Ai GROW」についてご紹介させていただきました。
「クラスデモンストレーション」は今回より初めて本イベントに導入された注目のセッション。各団体15分間で、教育者による没入型の授業デモンストレーションを提供するものです。
IGSの「クラスデモンストレーション」セッションでは、「Ai GROW」ご採用校である岡山市立操南中学校の竹島 潤先生にご登壇いただき、「Ai GROW」受検後の個人レポートと管理画面を活用した振り返り、そこから目標に定めた力を伸ばすためのマインドセットまでの授業をご紹介いただきました。
「Ai GROW」を長くご活用いただき、海外の教育現場との交流も多い竹島先生。先生は今回の「クラスデモンストレーション」やフォーラム全体でどのようなことを感じられたのでしょうか。竹島先生に当日担当されたセッションとフォーラム全体の様子についてレポートいただきました。
文:竹島 潤先生(岡山市立操南中学校 教諭)
岡山市立操南中学校教諭・教務主任・総合学習・SDGs主任、教職21年目。これまで岡山市内の国公立中5校に勤務。地域や外部・専門機関・NPO等との連携・協働 によるESD(持続可能な発展のための教育)を推進している。岡山大学空手道部出身であり、現任校では空手道部の顧問を務めている。
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海外の教育の「今」を知りたいという思い
今回のフォーラムでは、貴重な機会をいただき光栄に思っています。お話をいただいたときは、大役に驚くと同時にこれは自分にとってもとても良いチャンスだと感じました。私は現役の中学校英語教師として教壇に立つ傍ら、特にアジア圏の教育に強い関心を持ち、これまでオンラインと現地訪問を含めるとネパール、カンボジア、中国、フィリピン、タイの教育現場で授業や教師、生徒との交流、そしてその帰国後の発信を行ってきました。各国の教育政策担当者が集うこのイベントで、アジア圏の教育の「今」を肌で感じたい、非認知能力や日本の教育がどう捉えられているか、「Ai GROW」のような非認知能力の評価ツールがどのような印象をもたれるのか知りたいという思いから、この役目をお引き受けしました。
少しさかのぼると、私が初めて海外へ渡航したのは大学3年生のときです。自分がマイノリティになり、コミュニケーションに試行錯誤しながら過ごす強烈な体験に衝撃を受け、1年後には英語力を高めたいと早速アメリカへ半年間留学しました。アジアや世界に対する見方が変わるきっかけになったのは、2011年、JICAの教師海外研修でネパールを訪れたことです。発展途上にある国ならではのエネルギーや勢いを感じる一方で、教育現場では、地域や貧富の格差が大きいこと、
「想い」を大切にしたデモンストレーション
今回の「クラスデモンストレーション」の準備をするうえでまず考えたのは、「Ai GROW」に出会った時の感動を「想い」をのせて伝えたい、ということです。自己評価に加えて相互評価を取り入れ、可能な限り客観的な能力の可視化を目指す「Ai GROW」を活用して生徒たちが自分の内面に向き合う姿を初めて見た、あのときに私が感じた感動を伝えたいと思いました。 また、状況もさまざまな各国から集う聴衆の皆さんに対し、難しい語彙やアカデミックすぎる表現はできるだけ避け、前任校や本校での実践を踏まえて、分かりやすく伝わるデモンストレーションにしたいとも考えました。
アジアでも注目される非認知能力
準備を始めるにあたっては、まず現地の最新の情報を知る必要があると思い、これまでの交流で知り合った各国の教育関係者にヒアリングを実施。アジア諸国では日本ほど非認知能力に関する関心が高くないのではと当初考えていましたが、さまざまな国の現場の教師が大きな関心を持っていることに驚きました。特にバングラデシュの友人が、非認知能力が大切だと言いながら子どもたちがたくさんの教科書をつめこんだ重たいランドセルを背負って小学校へ通う日本の現状を批判してきたことにも驚きました。
実際の「クラスデモンストレーション」では、「Ai GROW」受検後の振り返りの授業を行いました。個人レポートを複数パターン配り、それらを自分の結果だと仮定し、近くの方と伸ばしたい能力やその理由、その力が高い人の特徴などを話し合っていただきました。その後、クラスの受検結果を表示し、そのクラスで伸びしろがあると見られる力をどう伸ばしていくか、ということについてもディスカッションしていただきました。15分間という時間制限や初対面の参加者同士という状況から、十分なディスカッションとはいきませんでしたが、会場が満員となるなど、たくさんの関心をいただきました。生徒の非認知能力が変化・伸長したか知りたくなるような教育実践を、教師が追求することの大切さもお伝えさせていただきました。
▲「第10回ADB国際スキルフォーラム」での「クラスデモンストレーション」の様子
デモンストレーション前後や、コーヒーブレイクなどで、フィリピン、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、香港、パキスタンからの来場者と意見交換もさせていただきましたが、教育政策担当者が多く、各国でこれからの時代で必要とされる教育を模索している様子や、教育が国や経済を活性化する切り口として期待されている様子がうかがえました。同時に、将来的には教育政策担当者だけでなく小中高の現場の先生がこのようなフォーラムに多く来場するようになり、学校現場での非認知能力育成や「Ai GROW」などの評価ツールの活用についても意見交換ができるようになればもっと良いのではないかとも感じました。
世界の教育トレンドと教師の役割の再認識
3日間のフォーラムの中では、グリーンやデジタルなど、社会と教育を取り巻く数々のテーマでセッションが行われ、私も可能な限り聴衆として参加させていただきました。お話を聞くなかで私が改めて認識したのは、
- グリーン(気候変動)とAI・デジタルへと時代も社会も舵取りされる中、すべての人にその基本認識を持たせる努力を止めてはならない
- 特に教育は、政策も環境も指導者も内容・方法も、すべてが変革を求められている
- 気候変動については、地球規模の問題に対して、バックグラウンドや知識の有無などさまざまな違いを乗り越えて分かり合い、アクションにつなげることが重要
- 加速するデジタル化についても、その活用と判断は人間がしていかなければならない
- グリーンもデジタルも基盤となるのは非認知能力であり、その育成のために国境やセクターを越えたつながりや連携がますます重要になる
ということです。そして、VUCA時代に求められる教師の存在意義や役割を再定義していかなければならないことを改めて痛感しました。非認知能力の可視化、その結果を踏まえた能力の育成、そして教育活動の創意工夫やカリキュラム開発は、まさにこれからの教師や学校にとって不可欠な視点の一つです。実際、今回のフォーラムでも「Ai GROW」はずば抜けてユニークな存在であり、海外でも大きな注目を集めていることを肌で感じました。
フォーラム後、学校に戻ると、生徒たちに「フィリピンで何をしてきたんですか?」と聞かれ、当初の予定にはありませんでしたが、週明けに時間をとって、フォーラムでの経験を話すことにしました。学校の枠を飛び出し、世界で今起こっていることを生徒たちに伝える良い機会にもなり、学校で教えているだけではない教師の姿を見せられるのも大きな意味があるのではないかと感じています。何より生徒たちが、こうして教師の行動に「何か面白いことをしてきたんじゃないか?」「今度はいったいどんな挑戦を?」と興味をもつようになってくれていることが嬉しいです。私の「Ai GROW」活用、そして非認知能力育成もまだ道半ばですが、生徒たちの成長を楽しみに、今回得た知見を生かしながらこれからも取り組んでいきたいと思っています。押忍!