2023年12月9日(土)に大阪で開催した本セミナーでは、「やってみたいをやってみる」をキャッチフレーズに、生徒が夢中になる学びの実践を進める京都市立開建高等学校の宮越敬記先生を講師に迎え、生徒の資質・能力の成長を加速させる探究の取り組みと生徒の成長につなげる評価についてご紹介いただきました。
地域社会で学ぶ探究のデザインと評価の工夫
【講師】
宮越敬記先生(京都市立開建高等学校 教頭)
「新しい普通科系高校」として2023年度創設
本校は、2023年4月に開校した新しい学校です。京都市内では、平成11年に堀川高等学校に人間探究科・自然探究科が設置されたのを皮切りに専門学科の設置が始まり、現在は中高一貫教育校、音楽高校、美術工芸高校など、特色が異なる11の市立高等学校がそれぞれの教育を進めています。2021年の国による普通科改革の流れも踏まえ「ルミノベーション科(その他普通教育を施す学科)」を立ち上げてスタートしたのが本校です。
また、生徒たちが希望をもって未来を協創する中で、自分、そして相手についての理解を深めながら自らの成長を実感できる学校にしていきたいと考え、本校では育成したい資質・能力を以下の6つに定めています。
夢中になれる地域での学びが自ら考え、学ぶ力を育む
本校のルミノベーション科は、地域社会に関する学びがベースになります。「高校生の力を地域に活用する」をテーマにこのような学びを推進する学校は少なくありませんが、本校のある京都市は人口減がまだ深刻ではなく、大学や企業を多く擁し伝統文化などの特色もあります。そこで私たちが目指したのは、「地域社会を学ぶ」のではなく「地域社会で学ぶ」学科。地域に実際に出ていき、見えた課題にプロジェクトとして取り組み、未来社会の創造に本気で取り組む大人と協創していく、多様な価値観を多くの人と共有していくという学びを進めています。キャッチフレーズは「やってみたいをやってみる」。学びに夢中になり、さまざまなことに挑戦し、はじまりは自分の興味からでもいずれは誰か、そして社会に貢献できるよう、生徒たちの取り組みをサポートしていきたいと思っています。
カリキュラム開発の3つの柱は、「授業が変わる~学びを楽しむ~」「魅力あふれる京都をフィールドに実践する探究活動」「生徒が夢中になれる課外活動」。授業では「伝える」ではなく「生徒に考えて至らせる」ことを重視し、普通教室4個分の広い空間で約80名の生徒を複数教員のチームによる担任、教科担当制でサポート。授業内容に合わせて学びのカタチを変化させられる環境を整えています。
中核となる「総合的な探究の時間」は3年生の前期まで5単位設置。学びのスキルだけでなく、あらゆる機会を学びのチャンスととらえて成長マインドセットを育むことを重視しています。学びを学校内に閉じず、地域や社会であらゆるものを五感で感じ、本気で挑戦している大人や本物の課題に触れることで、生徒の学びのモチベーションは高まり、はじめて主体的に動けるようになります。教員はその生徒の取り組みに薪をくべ、次の学びへつなげていくジェネレーターのような存在。生徒の「楽しい、やりたい」を重視するため、1年生のカリキュラムはある程度決めていますが、2年生以降は生徒が本当にやりたいことがやれるよう、柔軟なプランを組んでいます。
育成する資質・能力の成長をどう見取るかの課題を解決した「Ai GROW」
しかし、これらのカリキュラムで育む6つの資質・能力をどう評価していくのかということは、私たちにとって非常に大きな課題でした。育みたい資質・能力を40の行動指針に具体化はしても、「謙遜や真面目さなどが生徒の正しい自己評価を妨げることにならないか?」「教員が適切なフィードバックができるのか?」「教員のスキルを高め、さまざまな資質・能力の成長を公平に見取るための体制作りは間に合うか?」などの懸念点が大きな壁として立ちはだかっていたのです。開校までにこれらの解決は難しいのではないかとやや途方に暮れていた頃、東京の私学を視察した際に紹介されたのが「Ai GROW」でした。非認知能力を数値化できることはもちろん、1クラス80名という本校の環境において、相互評価のある「Ai GROW」の仕組みはお互いに関心を持ち合ううえでも良いきっかけになるのではないかと考え、「これだ!」と思ったことを今でも鮮明に覚えています。
2022年度にまず試験的に取り入れてみたところ、見取りが難しい非認知的な資質・能力が定量的に把握できること、他者からの評価によって生徒が自身でも気付いていなかった強みを発見でき、自己認識を深められることなどの効果が確認でき、すぐに正式導入を決めました。そして正式導入初年度となる2023年度は、5月と10月に受検を実施。5月は自己評価のみで10月に初めて相互評価まで行ったため、まだ成長を確認できるデータとはなっていませんが、教員の実感値とも合っていることや、生徒がより他者に興味をもつ傾向が見られるなど、期待通りの効果が得られていると感じています。
今後はさらにデータをためながら活用を進め、ボランティアなど特定の活動に参加した生徒の能力の向上、「Ai GROW」のスコアと狭義の学力との相関関係、「Ai GROW」のオプションである「傾向チェックテスト」で自己肯定感や個人とクラスの心理的安全性も確認していきたいと考えています。また、それらによって明らかになった本校の特長は広報活動にも活用していく予定です。
▲ボランティア活動への興味度合い別にコンピテンシースコアを比較した箱ひげ図
学校としての歩みも、「Ai GROW」の活用も始まったばかり。生徒たちの「やってみたいをやってみる」がどんな成長をみせてくれるのか楽しみにしながら、最高のジェネレーターを目指して生徒たちの学びに寄り添っていきたいと思っています。