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2025.08.15

地方発「探究×DX」の現在地─宮城県中新田高等学校が目指す探究とキャリアの接続

公立高校 DXハイスクール

「学びの教室は加美町」を合言葉に ― 独自類型と学校設定科目で探究を根付かせる 

宮城県の北西部の加美町にある宮城県中新田高等学校は、普通科改革、全国募集、コミュニティ・スクール、遠隔授業、DXハイスクールなどの取り組みを重層的に展開し、地域と結び付いた学びを学校の中心に据えています。その中核を担うのが「教養総合類型」と、学校設定科目「地域創造学」です。教養総合類型では、2・3年生が地域課題に向き合い、行政や事業者と往復しながら「町で学ぶ」ことを常態化させています。同類型で学ぶ生徒の中からは、町の産業・観光・文化資源に踏み込んで課題提言にまで至る事例も出てきたといいます。たとえば2年次の「地域産業Ⅰ」では、加美町から与えられたミッションを下に仮説検証を重ね、最終的に公民館で提言発表会を実施しています。さらに、学校設定科目「地域創造学」には「地域スポーツ学」など実地型の履修も組み込まれ、カヌーやロードバイクなどを教材に地域づくりの視点を獲得するための仕掛けがあります。

同校は学校広報の中でも「学びの教室は加美町」を明言しており、デジタルコンテンツ制作やドローン活用などIT企業との連携授業も取り入れつつ、探究を地域と産業の文脈に接続しています。こうしたカリキュラムの転換は、令和4年度の「類型制」再編や令和5年度からの「地域創造学」開講に始まり、令和9年度には「未来創造科(仮称)」の設置構想まで視野に入れた継続的リデザインとして進行しています。

スポーツイベント企画
▲生徒が企画したスポーツイベントの様子

ドローンショー授業1
▲ドローンショーの準備を行う授業の様子

「放課後まで拡張する探究」をどう評価するか

同校の探究の厚みは授業にとどまりません。放課後の有志による活動「ドローン・ラボ」は、インドア・ドローンショーを外部会場で披露するなど、学びの成果を地域に展開し始めています。生徒が自作したプログラムで10機編隊を制御し、星座やハートを描くショーの様子は、地元のテレビ番組でも取り上げられました。ショーの運営に当たり、ドローンのバッテリー充電が必要な時間をつなぐMCの工夫や、機材・安全管理まですべてを生徒が「実務」としてこなす。ドローン座標のXYZを頭に入れて編隊を組む過程は、三次元での空間把握能力や計量感覚の向上にもつながり、学習指導要領上の「教科横断」の概念が自然に実現されているといえます。

この「放課後まで拡張する探究」の成果を言語化・可視化する評価の仕組みに、弊社の「Ai GROW」が採用され、生徒は非認知能力の成長をクラスの友人からの相互評価の結果から客観的に捉えています。同校の早川健次校長は「従来、面談は模試や定期考査の数字一辺倒になりがちでした。しかし、『Ai GROW』を通した非認知能力の測定により、生徒の強みや伸びている素地を第三者的に提示できるため、教科の成績だけでは還元できない成長を評価しやすくなった」といいます。さらに「従来は三者面談で示された資料で初めて課題を保護者が認識するケースもありましたが、今後は三者面談の前にレポートを生徒・保護者と共有し、面談を『作戦会議』の時間にできるのでは」と早川校長は期待を寄せます。

探究とキャリアの橋渡し

早川校長が重視するのは、「Ai GROW」によって明らかになった生徒の強みを、学びの接続先(教科・専門・地域活動)と有機的につなぐための「次の一手」にすることです。たとえば、協働・主体性の伸びが見えた生徒に「地域産業Ⅰ」での役割設計を任せる、三次元での空間把握能力の芽が出た生徒にドローン編隊の座標設計を託す、対人調整力の高い生徒にMC対応を担わせるなど、非認知能力の成長データを「強みを生かす役割」へと落とす運用は、同校が志向する「面での改革」にも貢献しつつあります。

実際、同校では探究に深く打ち込む過程で、情報系大学への進学を自ら選び取ったり、探究を通した地域活性の現場経験を経て地域により深く貢献できるという理由から公務員を志望する生徒が現れています。校内では3年生で週7時間を割くほど探究が厚く(学校設定科目「地域創造学」を軸にすべての先生が持ち回りで担当する設計)、同校の地域に根ざした探究活動は着実に身を結びつつあります。

面談や学級経営の現場での「Ai GROW」の活用はまだ始まったばかりですが、DXハイスクールや同校の特長的なカリキュラムを通した生徒の成長の「共通言語」にすることで、生徒・保護者・先生が同じ地図を見ながら次の学びを決められる環境が整いつつあります。弊社も、単なるツールの提供とそのサポートで終わらせることなく、探究の評価設計や面談支援、保護者へのフィードまで含めた活用提案を進めています。教室・放課後・地域を貫く探究の厚みを高めるために、微力ながらこれからも同校の挑戦を支援していきたいと思います。