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2025.09.19

【イベントレポート】IGS15周年企画「AI社会から逆算して考える評価とコンピテンシー」

セミナーレポート

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2025年8月18日、東京の聖徳学園中学・高等学校を会場に行った先生向けイベント「AI社会から逆算して考える評価とコンピテンシー」。弊社の創業15周年を記念した本イベントでは、「Ai GROW」による生徒のコンピテンシー育成と「評価」に焦点を当てた、3名の先生方による講演・実践紹介に加え、弊社の矢部を交えたクロストークを実施しました。本稿ではその概要をお届けいたします。

詳細な内容は、現在、アーカイブ動画の視聴希望も承っております。それぞれの先生の講演やクロストークの詳細をご覧になりたい先生は、ぜひアーカイブ動画の視聴希望をお寄せください。

■講師紹介(講演順)

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髙木俊輔先生 (聖光学院中学校高等学校 教諭、アセスメントデザイナー)

神奈川県の私立中高にて教員として13年間勤務した後、渡豪し、教育評価について専門的に学ぶ。メルボルン大学教育学大学院修士課程教育評価専攻修了。現在は聖光学院中学校高等学校で英語科教諭として働くかたわら、アセスメントデザイナーとして教育評価についての研修や、企業の教育プログラムに関わる評価制度の監修などを行なっている。Google for Education 認定トレーナーとしても活動中。共著書に『エンゲージメント×英語授業 「やる気」と「意欲」を引き出す授業のつくり方』(明治図書)。

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馳川祐子先生(大阪偕星学園高等学校 教頭)

担当教科は国語科で、文部科学省検定済教科書(中学校国語)の編集協力委員なども務めた。東京、埼玉の学習塾や私立中高に勤務の後、宝仙学園中学校・高等学校で探究主任の他、生徒支援部長などを務め、今年度、現任校に教頭として赴任。生徒部長と企画開発グループ長も兼任し、問いと対話による生徒支援、生徒会によるルールメイキングを進める他、校内の社会連携チーム(ゼミやキャリアフェスの企画運営を担う部門)とカリキュラム開発チーム(授業改善や新しい授業づくり・授業案の作成を担う部門)の先生方の頑張りを支援している。

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木村剛隆先生(聖徳学園中学・高等学校 総合科主任)

関西大学大学院総合情報学研究科にて教育工学分野でICTを使った新しい教育やプロジェクト学習の実践について研究。大学卒業後、新卒で屋久島の学校にて教育活動に従事した後、東京へ拠点を移し、現在の勤務校で3校目。聖徳学園中学・高等学校では総合科と情報科の教諭として、中高一貫の探究学習のプログラムの開発と実践に取り組んでいる。学外の活動としては、情報Ⅰの問題集を執筆するなど、「Adobe Creative Educator Innovator2025」のメンバーとして創造的な学びづくりにも参画。

第2部:評価は誰のためのもの?「学習者を支援する評価」のために必要な考え方(髙木俊輔先生)

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学習者を支援する評価の本質とAI時代の教師の役割

教師の役割と評価の多層性

髙木俊輔先生は「AIが発達しても教師は不要にならない」という強いメッセージから講演を始めました。その理由として、トップアスリートですらコーチを必要とすることを例に挙げ、学習者も同様に、自分自身の状態をメタ認知するのは困難であるため、伴走者としての教師が不可欠であると説きました。教師は学習者の良さを見出し、価値付けし、改善の方向性を示す存在であり、その中心にあるのが「評価」です。

この「評価」には、以下の3つの層があると説明されました。
 1.バリューイング(価値付け)
 2.アセスメント(学習過程の改善)
 3.エヴァリュエーション(成果の判定)

また、それぞれの評価の層については、立場や視点によって捉え方にズレが生じることがあると指摘しました。

診断的・形成的・総括的評価の活用

教育評価は以下の3つに整理できると髙木先生は説明しました。
 1.診断的評価:学習前のレディネス(準備状態)を把握し、授業設計に役立てるもの
 2.形成的評価:学習途中で情報を収集し指導改善に生かすもの
 3.総括的評価:一定期間の成果を確認し次の目標を提示するもの

特に強調されたのは形成的評価で、教師だけでなく学習者自身も巻き込み、目標・現状・改善を循環させることが重要であると述べました。また、形成的評価を通じて学習者が自己のエラーを自覚し、改善に向かう主体性を育むことが不可欠だと強調しました。

AIツールと多面的評価の未来

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近年注目される非認知能力の測定についても言及がありました。従来、教師が把握するデータは学業成績など認知的側面に偏りがちでしたが、「Ai GROW」のようなツールを活用すれば、気質や協働性などの非認知的側面も即時かつ多面的に捉えることができると述べました。ただし、誤った「鏡」による歪んだ自己認識は逆効果となるため、質の高いフィードバックが重要です。教師は単なる数値の読み手ではなく、学習者の姿を捉える「鏡」となり、価値付けと支援を通じて成長を導く存在であることが、AI時代においても揺るがない役割であると結論付けました。

第3部:コンピテンシーの成長と生徒理解を促進する評価データの活用(馳川祐子先生)

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生徒の強みを見出し対話を変える評価の実践

多様な学校文化と評価の導入背景

馳川祐子先生は、勤務してきた2つの学校の文化の違いを踏まえながら、それぞれの学校現場で「Ai GROW」を活用した実践を紹介しました。前任校では偏差値や進学実績が重視される一方、現任校では日常の中で生徒のエネルギーをどう発揮させるかが課題となっているとのこと。前任校では探究活動の効果測定を目的に導入した「Ai GROW」ですが、やがて生徒との対話や保護者との懇談を深める強力なツールへと発展していきました。

360度評価と対話の深化

「Ai GROW」の最大の魅力は360度評価によって多角的な視点を得られる点だと馳川先生は語りました。生徒自身が評価者を選び、仲間から肯定的なフィードバックを受けることで、自信をもつ姿が生まれたようです。また、保護者との懇談では、生徒同士の評価や活動写真を共有することで、学校での姿を実感してもらうことができ、三者面談が「教師主導」から「生徒が自ら語る場」へと変わっていったと述べました。この過程で、生徒は自らの強みを言語化する力を身に付け、自己評価と相互評価のギャップを埋めながら成長していったと強調しました。

強みに基づく成長支援の視点

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馳川先生は、教師が欠点ではなく可能性に目を向ける姿勢をもち続けることの重要性を繰り返し語りました。生徒が今できていないことを否定するのではなく、「これから変わっていける」と未来志向で関わることが、学級経営や保護者との協働を支える基盤になるといいます。「Ai GROW」はその補助線となり、生徒の言葉や態度を変えていく手助けとなります。評価を通じた「強みの発見と共有」が、生徒・教師・保護者をつなぎ直し、学校文化を活性化する原動力となったことが、馳川先生の実践から浮き彫りになりました。

第4部:コンピテンシーの成長を促す取り組みの今と今後の展望(木村剛隆先生)

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コンピテンシー教育を支える探究と評価の挑戦

学校全体での探究と創造性育成

木村剛隆先生は、Apple認定校でもある現任校で探究型学習やコンピテンシー教育を推進している取り組みを紹介しました。創立100周年を控えた学校では、映画祭や食堂メニューの開発、ボードゲーム制作など、生徒の創造性を引き出す多様なプログラムを展開しています。こうした活動の中で重視されるのは「人やモノとの関わり合いによる成長」であり、コンピテンシーを育む教育の核に据えられています。

コンピテンシー評価の課題とAi GROW活用

木村先生は、総合型選抜入試の拡大に伴い、生徒が自己分析や強みの言語化に苦労している現状を指摘しました。その解決策として「Ai GROW」を導入し、診断・振り返り・面談を通じて学習プロセスを可視化する仕組みを整備。実際に全学年での診断を実施した結果、先生と生徒の気質傾向が一致するなど、学校文化の「鏡」としての側面が明らかになりました。一方で、創造性や表現力の数値が低下する傾向も見られ、PBL(Project Based Learning - 課題解決型学習)を本物の文脈でデザインし直す必要性が浮き彫りになったと語りました。

共通目標の策定と学びの深化

木村先生2

木村先生は、学校全体で「どのようなコンピテンシーを育てたいか」を共有することが不可欠だと強調しました。そのためには教育理念を基盤にルーブリックを策定し、授業改善や公開授業を通じて校内で共通言語をもつことが重要です。また、教師同士の対話の場をカフェ形式で設けるなど、横のつながりを広げながら時間をかけて文化を醸成していく必要があると述べました。「Ai GROW」はあくまできっかけにすぎず、最終的には生徒が「どんな関わり合いの中で何ができるようになったか」を語れる学びを目指すことが、コンピテンシー教育の核心であるとまとめました。

第5部:クロストーク

クロストーク

対話を軸にした評価の未来と学校文化の変革

評価の多様性と対話の重要性

クロストークでは、3名の講師に加え弊社の矢部が登壇し、評価の意義や課題について意見を交わしました。登壇者に共通していたのは、絶対的に正しい評価は存在せず、教師の視点には常に恣意性や限界があるという認識です。そのため、生徒との対話や同僚との共有を通じて多様な視点を取り入れることが不可欠であると確認されました。特に「評価にはある種の暴力性が伴う可能性があるということを教師が自覚しておく必要がある」という髙木先生の指摘は印象的で、教師の見方を絶対視せず、多様な見方を受け入れる柔軟な姿勢が強調されました。

生徒・教師・保護者をつなぐ仕組み

馳川先生は、生徒との対話を通して評価を一方的に押し付けるのではなく、「私はこう見えるが、あなたはどうか」と問い掛け続ける姿勢の大切さを語りました。木村先生も、評価ツールを単なる数値化の手段ではなく、対話のきっかけとして捉える重要性を指摘しました。こうした実践は、生徒が自己理解を深めると同時に、保護者や他教員との信頼関係を築くことにもつながり、学校全体の文化変革を支える基盤となることが共有されました。

学校文化の違いと改革の方向性

矢部さん

討議の中では、学校ごとに文化が大きく異なる実態も明らかになりました。民主的で個人主義的な文化の学校では仲間を少しずつ増やしていく「太陽アプローチ」が有効であり、一方でトップダウン型の学校では、改革の必然性をどう共有するかが鍵になるとされました。また、生徒の変化が教師を動かすという視点も示され、生徒の成長を起点に改革を進める戦略の有効性が議論されました。最終的に、評価を軸とした「対話」と「共通目標の共有」が、学校文化をより良い方向に導く道筋であるとの合意が得られました。