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2024.06.14

【セミナーレポート】第27回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(郁文館グローバル高等学校 山名先生)

セミナーレポート

229セミナー

 

2024年2月29日(木)にオンラインで開催した本セミナーでは、探究型学習の推進に教育データを利活用される郁文館グローバル高等学校の山名和樹先生を講師に迎え、日頃の実践の目的や内容とともに、外部指標によって獲得できた客観的な教育データをどのように活用されているのか、具体的にご紹介いただきました。

 

教育活動の効果検証と教育データの扱い方

 

【講師】

山名和樹先生(郁文館グローバル高等学校 統括主任・SDGs推進部 主任

 

本校はLA(リベラル・アーツ)とGS(グローバル・サイエンス)の2コース編成で、最大の特徴は高校2年次に全員が海外留学することです。2024年度からは海外のトップ大学を目指すHonorsコースも新設。私は現在、統括主任・G1(高校1年生)主任・SDGs推進部主任を務めています。

 

本校では、社会で活躍する方々と連携して学びを深めながら各自の研究テーマを追求する「協働ゼミ」という探究型学習を行っています。生徒は「エコロジー」「まちづくり」「Public Policy」「国際協力」「STEAM」「総合人間科学」「ビジネス」「メディア・アート」の中から興味関心に応じて探究するテーマを選択。学年の壁を越え、3学年一緒になって活動しています。

 

▲生徒が興味・関心に応じて選択して参加する探究型学習「協働ゼミ」のテーマ一覧

 

私が担当する「国際協力」ゼミは、NPO法人と連携し、グローバルサウスの実課題の解決に向けた提案をテーマに取り組んでいます。2023年度はインドで活動するNPO法人結び手と協働し、現地の人々の学びの手段として地域新聞を発刊しました。4月ゼミ勧誘を経て新しいメンバーを迎えた後、5月から法人と連携して活動内容を検討8月にはポスター発表、9月には文化祭出展、12月に成果報告会を行い、1月には都内にあるインドネシアの学校で運動会を開催。ゼミ生全員で国際協力とは何かということを考え、話し合いながら学びを深めていっ年でした。

▲「国際協力」ゼミで実施した、都内にあるインドネシアの学校での運動会の様子

 

2022年度まで務めた前任校である聖徳学園中学・高等学校でも長く探究に携わってきましたが、探究活動を通して生徒のさまざまな能力を伸ばすことができたという手ごたえ得られ一方、生徒の成長を経験や感覚に基づいて評価するしかないことにジレンマを感じていました。生徒のためにも、学校としても、そして大事なお子さんを預けてくださっている保護者に対しても、探究による成長適切かつ公平に示すことの必要性を感じていたときに出会ったのが「Ai GROW」。退職後の現在も継続して関わっている前任校での導入に引き続き、本校でも活用しています。

 

「国際協力」ゼミでは協働や実社会での活動を主なテーマとしているため、「Ai GROWで計測できるコンピテンシーのうち「課題設定」「解決意向」「個人的実行力」「興味」「表現力」「共感・傾聴力」「外交性」「影響力の行使」「地球市民」に変化が見られるのではないかという仮説を立てて活動に取り組み、「Ai GROW」で定期的に成長を確認しています。ゼミが始まる前と活動がある程度進んだ9月時点の「Ai GROW」の受検結果を比較すると、「影響力の行使」「興味」「課題設定」の中央値の変化に有意さが認められ、「共感・傾聴力」に関しては改善が必要であることが分かりました。 

 

▲ゼミが始まる前と活動が進んだ9月時点の「Ai GROW」結果比較

 

このようにAi GROWによって探究活動の成果定量的に確認した後、重要なのは数字だけでは分からない、その変化の背景にある理由を考察することです。そこで私は、生徒にアンケートを実施し、その結果と「Ai GROW」のデータを重ね合わせるようにしています。例えば9月に実施したアンケートの「自身の成長に特に寄与した活動を教えてください」という設問には、生徒全員が「課外活動」を、また、そのうち7割の生徒「ゼミ内でのディスカッション」も選択しました。このアンケート結果と「影響力の行使」「興味」「課題設定」が伸びたという結果から、「課外活動への積極的参加やゼミ内で学年を超えたディスカッション展開、影響力の行使、興味、課題設定というコンピテンシー成長に寄与したのではないかと考えることができます。

 

私が実現していきたいのは「ウェルビーイングな探究活動」です。ウェルビーイングの達成に必要なのは、最良の自尊感情、内発的な向上心、あるがままの自分が受け入れられる環境だといわれます。「Ai GROW」のコンピテンシーでいえば、「内的価値」「ヴィジョン」「自己効力」「成長」「共感・傾聴力」「柔軟性」「寛容」などが関与しているのではないかと考えており、これらの能力を伸ばすにはどのような探究型学習を目指すべきなのか模索しています。既存のカリキュラムにとらわれない時間の枠組みの再定義、生徒のファシリテーション力養成、成長と意義を実感できる活動を目指した取り組みと「Ai GROW」による成長の可視化のPDCAサイクルを通してウェルビーイングな探究活動の実現を目指していきたいと考えています。 

 

前述の通り、現在も本校と同じく「Ai GROW」を活用する前任校にも継続的に関わっていますが、両校のAi GROW」の受検データを並べて見てみると、「論理的思考」と「影響力の行使」は比較的どちらも高く出ています。両校ともに探究に力を入れていることから、探究学習はこれらの能力の成長に有意な影響を与える可能性があると考えています。また、本校は「地球市民」「表現力」「創造力」が高い結果となっており、これは本校の大きな特長である海外留学が影響を与えているのではないかと仮説を立てています。

 

総合型選抜入試の拡大など、大学入試も変わりつつあります。総合型選抜入試では、自身の資質・能力がどのような経過で伸び、それを大学の学びを通してどう生かしていきたいのかを説得力をもって他者に語ることが不可欠。探究型学習や留学をなんとなく進めるのではなく、「Ai GROW」やアンケートを活用してコンピテンシー向上につながっている活動とそうではない活動を洗い出し、次の一手につなげる。今後は、このような「成長戦略型の学び」を実現していくことが重要なのではないでしょうか。