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2024.05.08

【セミナーレポート】第27回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(熊本県立宇土中学校・宇土高等学校 後藤先生)

セミナーレポート

229セミナー

 

2024年2月29日(木)にオンラインで開催した本セミナーでは、探究型学習や課題研究の推進に教育データを利活用される熊本県立宇土中学校・宇土高等学校の後藤裕市先生を講師に迎え、日頃の実践の目的や内容とともに、外部指標によって獲得できた客観的な教育データをどのように活用されているのか、具体的にご紹介いただきました。

 

教育データを用いた進路モデルの開発

 

【講師】

後藤裕市先生(熊本県立宇土中学校・宇土高等学校 探究部長・進路指導主事)

 

熊本市の南に位置する宇土市にある本校。少子化、都市部への生徒流出という課題を抱える中、特色や魅力ある学校作りを目指し、中学ではさまざまな体験プログラムに力を入れています。高校は2013年から文部科学省事業のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定され、企業や地域とも連携しながら探究活動に重点的に取り組んできました。現在、第Ⅲ期の2年目を迎えています。

探究活動を実践するに当たり、本校ではLOGICと称した5つの観点(論理性、客観性、グローバル性、革新性、創造性)を伸ばすことを目標としています。校内でルーブリックやガイドブックを作り取り組んできましたが、主観や経験則に頼り切らず客観的な評価を実現できないかという声の高まりを受け、3年前に「Ai GROW」を導入しました。前述したLOGICという5つの観点に合わせて「Ai GROW」で計測するコンピテンシーを選択し、グループで課題研究を進める場合は同一グループ内で、一人で課題研究を行う生徒については類似テーマで学ぶ生徒同士で相互評価を行わせています。課題研究スタート時と中間発表時におけるコンピテンシーの変化を確認し、「『疑う力』が全体的に伸びているのは、より多視点で考察するよう声掛けしてきた成果ではないか」といったように、指導の振り返りや評価に活用したり、「『耐性』のばらつきが大きくなっているのは、粘り強く取り組めている生徒とそうではない生徒の差が出たからではないか」など、以降の声掛けや指導の参考にしたりしています。

私はこれまでSSHの研究主任を務めてきましたが、2023年度からは進路指導主事も兼任。進路指導において大きな課題であると感じているのは、模擬試験や探究活動、通知表、活動歴などさまざまなデータがそれぞれの形でアウトプットされているため、まとめて扱いづらいことです。また、キャリア教育はどうしてもゴール(希望進路)から逆算した指導が多くなりますが、本校でも力を入れている探究活動は、生徒の興味・関心から将来につなげていく学びです。大学入試も多様化する中、志望理由書や自己推薦文の重要性も高まっていますが、それらにおいては自らの経験や資質・能力をどうアピールし、将来につなげるビジョンを描けるかがとても重要です。探究活動とキャリア教育をうまく融合させる中で、「Ai GROW」で測定しているコンピテンシーも活用していくことはできないか? と考えるようになりました。

そこで、既存の評定や模擬試験などの他にコンピテンシーも並列して加え、さまざまな項目を一元管理できるよう作成してみたのが以下のシートです。

 

▲評定や模擬試験の結果などにコンピテンシーも加え、さまざまな項目を一元管理するために作成したシート



一元管理ができるシートを作った背景には、管理や教員同士での共有を容易にすることはもちろん、学校全体でコンピテンシーを意識する空気を作りたいという意図もありました。

進路検討会ではこのシートを基に意見交換を行いました。例えば、薬学部を志望している生徒については「評定が高いから推薦を狙ってみるのはどうか?」「『課題設定力』が高いので、将来の目標を明確に考えさせてみてはどうか?」といったような議論、「疑う力」や「課題設定力」が高い別の生徒については、「総合型選抜入試や一般選抜入試に向けて課題研究での研究テーマを明確に語ってアピールできるよう準備してみてはどうか?」といった議論、コンピテンシーが全体的にとても高い生徒については、自動車業界に興味をもっていることも受け「国内にとどまらずグローバルな活躍を目指せるのではないか?」などといった議論をコンピテンシー・ベースで行うことができました。


こうしたキャリア教育の取り組みはまだスタートしたばかりですが、データと活用を積み重ねていくことにより、その生徒にはどんな入試形態が合うのか? 拡大する総合型選抜入試や学校推薦型入試はどのようなタイプの生徒に向いているのか? 活躍の場を海外に広げるべきか? など、根拠を基にさまざまな可能性を提案できるようになるのではないかと考えています。コンピテンシーはこれを実現するうえで必要不可欠な要素。コンピテンシー成長データを含む教育データのさらなる活用とその共通理解を支える環境作りにより、これからも未来にはばたく生徒たちをサポートしていければと考えています。