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2024.08.13

【セミナーレポート】第26回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(桜丘中学・高等学校 中野先生・内野先生)

セミナーレポート

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2024年2月28日(水)にオンラインで開催した本セミナーでは、生徒の興味や可能性を引き出す探究を推進され、その学習歴をキャリア教育へとシームレスに接続するための工夫を重ねる桜丘中学・高等学校 中野 優先生と内野佑紀先生を講師に迎え、日頃の実践を具体的にご紹介いただきました。

 

探究の成果を示す共通言語の必要性とその効果

 

【講師】

中野 優先生(桜丘中学・高等学校 探究科教科長)
内野佑紀先生(桜丘中学・高等学校 高大社接続推進室室長)

 

 

探究による成長の定量的な把握と評価の足並み揃え

本校は、中学生約500名、高校生約1,000名の生徒を抱える都内にある中高一貫教育校です。圧倒的な経験の機会の中で自分の得意を見つけ、挑戦を繰り返すことによるコンピテンシー、ソフトスキルの育成を重視するキャリアデザインコースを3年前に設立しました。コースをスタートさせたばかりの頃は、次に何をするべきかを考えながら必死に取り組んできましたが、その試行錯誤の中で改めて認識したのは、このコースで育もうとするコンピテンシーは可視化が難しいということ。「手を積極的に挙げるようになった」「プレゼンがかなりうまくなったのでは」などといった感覚で評価することはできても、生徒に関わるすべての教員が同じ物差しで評価することの重要性とともにその難しさを感じ、導入したのが「Ai GROWです。現在は対象学年を少しずつ広げながら、年3回受検を重ねています。

コンピテンシーを育むという目標を掲げても、現状が分からなければ、何をどう育めば良いのか分かりません。ましてや人それぞれ評価の基準が違えば、教員間で足並みえることができません。例えば、同じ状況を見ても、主体性が上がったと感じる教員もいれば、主体性のハードルがとても高く「まだまだだ」と感じる教員もいます。だからこそ、共通言語と共通の指標をもち、感覚だけではなくエビデンス・ベースでしっかりと指導していくことが必要です。また、生徒によって異なる成長や課題を見取り、コンピテンシーを育むためには個別指導不可欠。見取ることが難しいコンピテンシーを可視化し、強みや成長した能力に関する所見が自動で提案される機能など教員の業務をサポートする機能も備えた「Ai GROW」なら、トレードオフの関係にある個別指導の実現と教員の負担軽減を両立させることができます。

 

コンピテンシーを自分事化する受検結果の振り返り

現在は、「Ai GROW」を生徒の「変容の気付きと学びの言語化」を助けるツールとして位置け、受検の直後に、自作のワークシートを活用した受検結果の振り返りを行っています。このワークシートでは、探究を含む学校での学びとキャリア教育との接続を重視。生徒にはコンピテンシー社会で求められる重要な能力であることを実感してもらい、受検結果をいかに自分事化できるかが大切だと考えています。

 

▲自作の「Ai GROW」振り返りシート。
日々の学びとキャリア教育をつなげ、コンピテンシーを自分事化するねらいがある。

 

まずは「Ai GROW」個人レポートで自身の強みや成長した能力客観的に確認し、それがどんな能力なのか、日頃の行動とも結び付けながら考えさせます。希望する生徒は個人レポートを見せ合いながら結果をクラスメートと共有したり、クラスメトから自分の強みに関する振り返りのヒントをもらったりするなど、和気あいあいとした雰囲気の中で、他者からの学びを得る機会にもなればと考えています。

次に、把握した強みを基に、自己PRを書いてみます。実際に大学向けの自己推薦書や企業のエントリーシートの例を見せ、求められる内容を確認したうえで取り組ませます。

以下は高校1年生が実際にまとめたワークシートですが、強みとそれに関するエピソード、進路先での強みの生かし方までしっかり書くことができています。データを基に、ワークシートに沿って先を見据えた振り返りを進めることで、授業1コマでもこれくらいの文量書くことができます。

 

▲高校1年生の「Ai GROW」振り返りシート記入例。
強みを経験と紐付け、その生かし方にも触れた自己PRを書くことができている。

 

また、「Ai GROW」では、25のコンピテンシーとその定義、それらを伸ばすための方法提示されます。意味のある深い振り返りができるのも、各コンピテンシーの定義と伸ばし方がきちんと言語化されているから。教員からもこれを印刷してクラスに掲示したいという要望があり、ポスターも作成しました。

 

コンピテンシーへの意識をあらゆる場面に散りばめる

こうした振り返りに加え、コンピテンシーを自分事化するうえでもう一つ大切なのは、学校生活のあらゆる場面にコンピテンシーに対する意識を散りばめていくことです。例えば、本校のビジネス・プランニング・ゼミ(約半年間で社会の問題に目を向け、解決策やプロダクトについて模索し、世の中の仕組みや人の幸せについて考える探究活動)では、シラバスの中でもまず、探究を円滑に進めるために定めている「セブン・ルール(知ったかぶりをしない、広い視点で考える、などといった心構え)」を、それらに資するコンピテンシーとともに生徒たちに提示。さらに、グループの中でお互いの強みを開示し、伸ばしたいコンピテンシーがあるなら仲間にそれを宣言したうえで協働作業を進める授業設計にしています。

また、このゼミの初回の講座では、一人ひとりが上場企業のうち憧れを抱ける一社を選び 、統合報告書を読み解くというワークを行っています。読み解いた情報を整理するマンダラチャートの項目の一つに「求める人材」があります。この項目を深掘りさせていくと、次第に見えてくるのはコンピテンシーです。コンピテンシーという能力を「Ai GROW」の受検と振り返りによってしっかりと理解しているからこそ、生徒たちは企業が求める人物像を具体的に想像することができ、モチベーションを高めることができます。

 

上場企業の統合報告書を読み解いて作成するマンダラチャート。
右上の「求める人材像」を深掘りし、コンピテンシーにつなげていく。

 

さらに、以下は高校1年生が行っている企業インターンの振り返りシートです。高校1年生の1学期でも、感想で終わらせず、コンピテンシーを意識しながら活動を言語化して振り返ることができています。

 

▲高校1年生による企業インターン体験の振り返り。
コンピテンシーを意識しながら体験と今後の成長に向け意識すべきことを言語化できている。

 

感覚に頼らず根拠に基づいたコンピテンシーの育成

前述したビジネス・プランニング・ゼミを実施したクラスのコンピテンシー変容を「Ai GROW」の管理画面で見てみると、特に「協働性」が大きく伸びていることが分かります。当初は生徒一人ひとりでのビジネスプランニングを検討しておりましたが、協働性を育み、クラスのチームワークも高めたいと考えてグループでのプランニングに取り組ませてきた成果が可視化されたのは、大きな励みになりました。その他、「自分たちが盛り上がっていても、顧客も同じ印象を本当にもつのだろうか」「別視点からもう一度考え直さなければいけないのでは」と話し合う生徒たちの姿から感じた「疑う力」の成長、多くの生徒の「ビジネスプランを通して色々な人を幸せにできる可能性があると感じた」という振り返りから感じた「自己効力」の成長、「自分の考えを相手に伝えながらリーダーシップを発揮していくことの重要性を学んだ」という振り返りに感じる「影響力の行使」の成長なども、感覚だけではなくデータからも把握することができました。こうしたデータから得られた知見を今後の探究活動のさらなる改善につなげていきたいと考えています。

▲ビジネス・プランニング・ゼミを実施したクラスの8月間の変容。
もともと高かった「寛容」には大きな変化は見られないが、
特に「協働性」「疑う力」「自己効力」「影響力の行使」などでプラスの変化が確認できる。

 

学内の共通言語の存在がもたらす変化

また、今回の結果で特に面白いと感じたのは、「寛容」に変化が見られなかったことです。寛容がもともと高い集団ではありましたが、グループでの活動を通して真剣に取り組むからこその衝突があり、違う意見を受け入れることが難しい自分に気付いた瞬間でもあったのかなと思います。変化がないのは必ずしも悪いことではありません。その背景にある理由を考え、次につなげることが重要です。これは全体としての変化ですが、個別にみると特定のコンピテンシーを大きく下げた生徒などもいます。そうした生徒に対しては個別に声掛けを行ったり、面談を実施したりして次の学びにつなげてもらえるようサポートしていきたいです。

最近では生徒だけでなく、教員にも「Ai GROW」が浸透し始めています。探究やロングホームルーム、行事の効果検証、指導要録への活用、面談での声掛けのための活用、さらに、コンピテンシーを意識した仕掛けづくりに取り組む教員も増えてきました。まだ道半ばではありますが、コンピテンシーが学内の共通言語となってきたおかげで、生徒も教員もデータを基に活動を具体的に振り返り、共通認識をもって次の行動に変化を生み出すことができています。今後も生徒にとってより良い学びを目指し、「Ai GROW」とともに歩を進めていきたいと思っています。