トップへ
content.name

2024.01.05

【セミナーレポート】第24回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(東京 / 青翔開智中学校・高等学校 田村先生)

セミナーレポート

スクリーンショット 2023-10-25 11.29.57

 

2023年12月2日(土)に東京で開催した本セミナーでは、早期から探究型学習を推進されてきた青翔開智中学校・高等学校の田村幹樹先生を講師に迎え、探究を通した生徒の成長を定量的に把握することで、探究の高度化とともに業務負担の軽減を実現された実践についてご紹介いただきました。

 

探究的な学びの加速に必要な評価とその指標

 

【講師】

田村幹樹先生青翔開智中学校・高等学校 探究部主任

 

 

探究を中心とした学びのデザイン

本校は全校生徒300名弱の小規模校ですが、「図書館の中に学校がある」というコンセプトの下に設計され、 いつでもどこでも情報にアクセスしながら探究ができる環境に恵まれています。また、6カ年の探究中心のカリキュラムにより、 教育方針として掲げる「探究」「共成」「飛躍」の具現化を目指しています。鳥取県は一時期SSH指定校が存在していない時期がありました。鳥取県にもSSHを作りたいという思いでSSH事業を立ち上げ、現在は探究部主任として全6学年の探究型学習に携わっています。

本校の探究は、中学1年生から高校1年生まではチームで「アイデアを出す楽しさを味わい、デザイン思考のフレームワークを獲得し、誰かの幸せやウェルビーイングのために課題を解決する意義を知り、テクノロジーを使った課題解決ができるようになる」というストーリーを段階的に深めていきます。高校2年生からは個人で、キャリアデザインを意識しながら、どんな人間になりたいか、どんな仕事をしたいかということをベースに課題を設定し研究に取り組みます。探究に必要なスキルは各授業の中で育み、探究を軸に学校行事なども含めて学校生活全体で生徒のコンピテンシーを伸ばしていきたいと考えています。

 

「評価と指導の一体化」とは

本日は「評価」に重点を置いてお話ししますが、私は、探究は「生徒の可能性を引き出す具体的な手段」、そしてその評価は「そのような探究を実施した結果、生徒たちがどう成長したか、どんな可能性が引き出されたのかを知る手段」と考えています。「指導と評価の一体化」の必要性は新学習指導要領でも明確化され、参考資料ではその手順も

実態に合わせて評価規準を設定
活動に合わせて評価基準を設定
評価して生徒へ返却する

と説明されています。これだけを見ると、学校へ帰ったらすぐにできそうな気がします。しかし本当にそうでしょうか一つひとつをよく見てみましょう。

まず、「実態に合わせて評価規準を設定」するについては、「学校ごとに目標にリンクした評価規準を作成しましょう」と記載されています。お飾りの目標では意味がありません。こんなことが、本当にすぐにできそうでしょうか

次に、「活動に合わせて評価基準を設定する」については、最近はやりのルーブリックを作ればいいのかもしれません。しかし、ルーブリック作成は、やってみたことがある先生ならお分かりになると思いますが骨の折れるかなり大変な作業です。得意な方でも、いざ他の先生が作られたものを見たら疑問がわいたりすると思います。これは、帰ってすぐにはできなさそうだ、と自信がなくなってきます。

そして、「評価して生徒へ返却する」については、活動ごとに評価しましょう」「ある期間の活動を振り返りましょう」「生徒の記述から見取りましょうなど、多様な評価データ収集と物理的な作業時間が必要だということが分かります。ここまでくるともう帰りたくなくなってきてしまうのではないでしょうか。

目標や規準が不明確なまま評価を行えば、誰のために、何のために評価するのかというもっとも大事な点を見失ってしまいます。また、日々忙しい教員が個々の頑張りで評価しなければならないということになれば、さらなる疲弊を招くことは避けられません。そして現場では「生徒のために当たり前のことをなぜやらないのか?」「クラスだけでなく部活の指導など色々ある中評価に多くの時間を割けない」など、教師の働き方に関して感情を含んだ多様な意見が表出します。

 

探究中心の学校を体現する評価システム作り

きちんと行った評価結果が生徒の自己理解の材料となり自己調整の指針になること、そして評価の質を高めても教員が疲弊しないこと、この両立が、評価における理想です。現在本校で開発を目指しているのは、評価規準と評価目的を明確にした、教員の負荷をこれ以上増やさない評価システムです。

 

 

本校ではまず、学校の教育理念がどのように成り立っているのかを言語化し、育てたい資質・能力を明確にしました。  しかしそれらをアナログな方法で集めるには、絶望的な作業量が生じます。また、教員によって見取る力も異なるため、質の担保も大きな課題です。本校ではこの大きな壁を乗り越えるため、外部指標を取り入れることにしました。生徒が全員持っているiPadで実施でき、なおかつ受検後すぐにフィードバックを入手できる評価ツールを探していたところ、IGS社の「Ai GROW」と出会ったのです。「Ai GROW」で計測できるコンピテンシーを本校の育てたい資質・能力と照らし合わせていくと、労力や客観性の問題で評価が難しいと思っていた部分にデータが入り、可視化することができるようになりました。

 

しかし、この数値は本当に生徒の実態を示した数値なのでしょうか。 実際に見てみるまではそのような疑問もありましたが、「Ai GROW」の管理画面でクラスや学年単位での能力の成長が分かる箱ひげ図やレーダーチャートを見ていくと集団としての成長や強みが確認でき、全学年の探究を担当している私の実感比較しても納得感が得られる結果でした。さらに、生徒個人の実際のコンピテンシー・スコアと私が直感的に付けたスコアの絶対値の差も確認。その結果、約1.5程度と大きな差はなく、さらに生徒との関わりが多ければ多いほどこの差は少なくなる傾向にあることも分かりました。 日々の学校生活の中でどうしても発生してしまう教員と生徒の関わりの濃淡も「Ai GROW」ならカバーできるのかもしれないと感じています。

 

誰もが使える評価システムを目指して

評価システムはいまだ開発途中であり、面談や探究の評価自体には活用できていないため、現在はまだ、「Ai GROW」を直接的・効果的に活用できているとはいえない状況です。しかし「Ai GROW」を活用することで、教員に新たな負荷を加えず、疲弊させることなく探究型学習の客観的かつ校内で足並みを揃えた評価が実現でき、生徒に対しても自己理解と自己成長を促すフィードバックを提供できそうだと感じています。れは重要な成果だと考えています。

私は教育評価の専門家ではありませんが、現場で実践を重ねながら、評価がどうあれば良いのかということを日々模索しています。そして、理想は特別な評価の仕組みではなく、誰であってもしっかりと評価ができる仕組みです。評価システム開発はSSH指定校のミッションでもあります。そのような評価システムを本校だけでなく多くの学校が活用できる未来を目指して、これからも評価と向き合っていきたいと考えています。