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2023.10.03

【セミナーレポート】第23回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(横浜 / 横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校 栗栖先生)

セミナーレポート

横浜

 

2023年8月21日(月)に神奈川県横浜市で開催した本セミナーでは、10年以上にわたって探究型学習を推進されてきた横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校の栗栖 裕先生を講師に迎え、生徒の資質・能力の成長を加速させる探究の取り組みの先行事例と生徒の力を育むための評価についてご紹介いただきました。

 

【講師】

栗栖 裕先生横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校 主幹教諭、サイエンス・グローバル事務局主任

 

探究を深める年次ごとのステップ

 

本校は、2009年に開校した比較的新しい学校です。2017年には附属中学も開校。横浜市の進学指導重点校でもあり、毎年、国公立大学に現役で100名程度が進学しています。

 

開校2年目からSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定され、第3期の4年目を迎えました(2023年度)。私が所属する「サイエンス・グローバル事務局」では、SSHをはじめとする課題研究や各種研修、学会発表に加え、小・中学校を対象としたサイエンス教室、「Ai GROW」をはじめとする外部指標の運営を担当しています。

 

本校における課題研究の名称は「サイエンス・リテラシー(以下、SL)」。共通プログラムで探究の基礎を学ぶSLⅠ(高校1年次)、6つの分野に分かれ個人研究と年3回の発表を行うSLⅡ(高校2年次)、研究をさらに深め、学会発表や進路実現につなげるSLⅢ(高校3年次)と、学びを段階的に進めていきます。予測不可能な状況でも問題の本質をとらえ、チームで協働して知識を知恵につなげ、正解のない問いに対して最適解を模索できる人材を育成することを目標としています。

 


 

SLⅠ(1年次)では、例えば「紙と糊だけで3階の高さから落としても生卵が割れない容器を作る」というようなテーマに、5人一組で取り組みます。2週を一つの単元として、ディスカッション、実習・実験(仮説の検証)、結果の考察とプレゼンテーションを行います。SLⅡ(2年次)では、生命科学、ナノテク材料科学・化学、物性科学、情報通信・数理、天文・地球科学、グローバル・スタディーズという6つの分野に分かれ課題研究に取り組み、年2回の発表を行います。発表では大学の先生からアドバイスをいただき、各分野から優秀生徒を選出します。SLⅢ(3年次)では、SLⅡの課題研究をさらに深めます。コロナ禍で現在は国内(沖縄)になっていますが、以前はマレーシアへ修学旅行も兼ねて研修に行き、現地の連携校で生徒全員が英語でポスター発表を、優秀生徒は現地の大学でも発表を行っていました。

 

SLⅢでは、文部科学省とJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)が主催する「SSH生徒研究発表会」での成果発表も行います。2022年度の発表会では、本校の研究発表が最高賞となる「文部科学大臣表彰」に選ばれました。今後に向けてのご指摘もいただきましたが、分かりやすい発表や日頃の疑問からのテーマ設定、1年以上の粘り強い課題研究、批判的思考などが「すべての高校が行う課題研究のモデル」として、高く評価されたのではないかと考えています。

 

探究の成果把握に欠かせない外部指標

 

このような研究発表の場で高い評価を得られたことはもちろん素晴らしいことですが、「失敗も含めた研究プロセスこそが大事」「生徒の主体的な取り組みを尊重すべき」という考えも主流になりつつあります。しかし、そこで問題になるのが、これらの適切な評価。プロセスや取り組みへの態度を評価するうえで欠かせない課題発見力、探究心、ねばり強さなどといった能力・資質の変容は、可視化が難しいからです。客観的な評価を実現するためにも、SSHの成果を定量的にまとめるためにも、非認知能力を測定する外部指標を導入したいと考えました。

 

 

初年度に導入した外部指標は、受検に時間がかかり、フィードバックの内容が薄く、データの「活用」に大きな課題がありました。受検料を負担する保護者の視点から見ても納得性は低いであろうと考え、この評価ツールの活用は1年で終了しました。その後、費用対効果や指導に活用するうえでの有用性の観点から再検討を進め、2021年度から活用しているのが「Ai GROW」です。

 

「Ai GROW」は、受検が完了すると管理画面や個人レポートから成長記録をすぐに見られるだけでなく、エクセルでデータを加工することなく、学年や性別、出身中学校別にデータを簡単に比較できるなど、日々の指導での活用に必要な機能が揃っていて、とても助かっています。また、「Ai GROW」で計測できるコンピテンシーは本校がSSHの課題研究で育みたい力と親和性が非常に高いだけでなく、その評価データは教員の実感値と近く、信頼が置けると考えています。そのうえで費用も初年度に導入した評価ツールの半分以下に抑えることもできました。

 

本校はマレーシアのプトラ大学との国際共同研究の取り組みで、2023年度のSSH重点枠指定校にもなっています。本校の生徒とプトラ大学の学生で共同研究チームを編成し、オンライン・ミーティングを定期的に行いながら研究・実験を進め、長期休暇にはマレーシアでの研修も実施。言語や文化の違いを越えて多様な他者と当たり前のように共同研究のできる人材になってくれることを期待しています。

 

この共同研究に参加している生徒たちの「Ai GROW」の結果を見てみると、決断力、自己効力、共感・傾聴力、表現力といったコンピテンシーが他の生徒よりも高い結果となっています。

 

 

これが共同研究による成果なのか、共同研究のメンバーに選出されるうえでこれらのコンピテンシーが重要な要素になっているからなのかについては、データを積み重ねていかないとはっきりと分かりませんが、引き続き「Ai GROW」を活用して共同研究による生徒の成長を明らかにし、エビデンスに基づいたプログラムの改善、他校への成果の普及を行っていきたいと考えています。