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2023.09.20

【セミナーレポート】第22回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(岡山 / 岡山大学 中山先生)

セミナーレポート

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2023年8月4日(金)に岡山で開催した本セミナーでは、これからの社会を生き抜くために重要となる非認知能力研究第一人者、岡山大学 教育推進機構 准教授の中山芳一先生を講師に迎え、非認知能力の重要性とともに非認知能力の成長に必要な評価についてお話しいただきました。

 

【講師】

中山芳一先生岡山大学 教育推進機構 准教授

 

もともと小学校の先生になるのが夢でしたが、学童保育と出会い、9年間の現場経験の後、教育方法学の道へと進みました。現在は、岡山大学教育推進機構学生たちのキャリア教育や課外活動支援を担当する、全学生必修の初年次キャリア教育の主担当教員も務めています。これまで実践してきた、学童保育とキャリア教育に共通する伸ばしたい力が非認知能力であることに気付いてから、非認知能力の育成に関する研修や講演、執筆活動を行ってきました。現在、その活動は全国36都府県に広がり、中でも17都府県においては教育現場に深く関わりながら先生方とともに課題解決に奮闘しています。

 

非認知能力の3つのグループ

まず、この非認知能力とはどのような力なのか、今一度確認してみましょう。「非」という言葉の意味を考えれば、認知能力ではない部分が非認知能力なのだろう、という想像はできるかと思います。それでは、認知能力とは何でしょうか。これは「客観的な点数にして評価できる力」です。例えば「このクラスの中で一番やる気があるのは誰?」と聞かれても、どうやって比べればいのか、どう証明すればいのか分からないですよね。このような「客観的な点数にして評価できない力」が非認知能力です。

 

非認知能力はアメリカの経済学領域から生まれた言葉です。「学力以外にも大切な力がある」として、偏った学校教育政策に対して警鐘を鳴らすためこの言葉を初めて提唱したのが経済学者のサミュエル・ボウルズとハーバート・ギンタス。その後、就学前の教育プログラムの有無がもたらす影響を長期に渡り検証し、この言葉をさらに広めたのが同じく経済学者であるジェームズ・ジョセフ・ヘックマンです。

 

一方、この考え方は、日本でも「心」として大切にされてきました。豊かな心、たくましい心、強い心、優しい心……しかし、生成AIの急速な進化やさまざまな感染症、気候変動など、先が見えないこれからの時代に羽ばたく子どもたちの心を育むには、漠然としたイメージではなく、心の解像度を高めることが不可欠です。

 

私は、この心の解像度は3つのグループに分けて考えることで高めることができると考えています。自制心や忍耐力などの「自分と向き合う力」、意欲や自信などの「自分を高める力」そして、コミュニケーション力などの「他者とつながる力」です。

 

 

知識やスキルなどの力は高ければ高いほど良いでしょうが、これらの力は、状況に依存する両義的なものです。例えば、自分の可能性を信じ挑戦できるのはとても良いことですが、それが行き過ぎると、無謀な挑戦をするリスクの想定が苦手などというマイナス面も見えてきます。

 

非認知能力の評価が難しいのは、そもそも「非認知」であるがゆえに客観的・定量的な評価が困難であるということに加え、それらがこのように状況依存的かつ両義的な力であるからです。ただ闇雲に伸ばせばいというものではなく、状況に応じて使いこなせるようになる必要があるのです。

 

人格形成にも欠かせない非認知能力

人間には、生まれながらにっている先天的な情緒的特徴である「気質」があり、その気質を基盤として低年齢時に形成される先天的な傾向が強い内面的特徴が「性格」です。それに合わせて、他者との関わりの中で後天的に形成されるのが人格です。

 

 

気質は当然のこと、性格変えることは難しく、また、変える必要もありません。自分のタイプを知り、上手に付き合うことが大切です。「Ai GROW」に気質診断があるのも、この理由からです。人格は、それらを基盤とはしながらも、大切にしたいことを価値観として明確にしていくことで、そして自分を客観視しながら行動を積み重ねていくことで、いつからでも形成していくことができます。

 

人格は他者との関わりのなかで形成されるものなのですから、その形成には非認知能力を引き出すことが欠かせないと私は考えています。教育の本質は、子どもたちの人格形成を助ける営みです。先生方はそれを助ける専門家であり、学校は人格形成をする場です。このようなお話をすると、「うちは非認知能力はやりません」というお声をいただくことがあるのですが、私は人格形成の場である学校において、非認知能力の育成は不可欠な要素だと考えています。

 

非認知能力を定量化するカギは相互評価

非認知能力は、こうなりなさいと押し付けて指導することはできません。生徒がさまざまな出会いの中で学び、自らの意識につなげるということが非認知能力を伸ばす鉄則です。それでは、先生方はただ見守るしかないのでしょうか? そんなことはありません。先生からの、そして生徒同士のフィードバックにより、意識付けを行うことができます。そこで重要なのが、「Ai GROW」の相互評価という仕組みそして、人が評価を行う際にどうしても生じるバイアスや個人による評価の甘辛をできる限り除去するために必要なのがテクノロジーを活用した評価補正なのです。

 

「Ai GROW」は、客観的かつ定量的な評価が難しい非認知能力を、クラスメや部活の仲間、探究を行うグループなど、友人同士で評価し合う相互評価を取り入れることで可視化を実現さらに、各評価者の評価結果AIが補正することで、非認知能力とその成長に関する信頼性の高い客観的データを提供することを可能にしています。私は最初にこの相互評価とAIによる評価補正の話を聞いた時、「なるほどこのステップを踏めば非認知能力も客観的なスコアで評価が可能になるのか」と大きな衝撃を受けました。

 

また、「Ai GROW」受検結果のフィードバックで自己認識と友人の評価の違いを知ることができます。友人に評価されている自分の強みと自分が思う自分の強みの違いを確かめることでメタ認知力を強化でき、友人に評価されている自分の強みを知ることで、自己肯定感も高まります。

 

 

「Ai GROW」は画期的なサービスですが、先生方の指導や声掛けがあって、はじめてその評価が生きるのです。対象となる生徒の現状から、どのような力を育成するのかという方針(Anticipation)ち、実践(Action)し、生徒たちの定性定量的な評価から実践を振り返り(Refletion)、改善へとつなげる。「Ai GROW」活用しながらOECDラーニングコンパスでも提唱されているこのAARサイクルを回し、生徒の成長と人格形成につなげていっていただけたらと願っています。