大きな転換を迎えている大学入試。本セミナーでは、湘南ゼミナールで「総合型選抜(AO)・推薦コース」を立ち上げ、総合型・学校推薦型コンテンツ開発の責任者を務める川村一雄氏に、総合型選抜に向けた指導方法(授業や面談)やその指導を行う上で意識すべきポイントについて、具体的にお話しいただきました。
【講師紹介】
川村一雄氏(株式会社湘南ゼミナール 高等部、総合型選抜(AO)・推薦コース 責任者)
武蔵野美術大学卒業後、大手大学受験予備校にて、今まで約7,000人以上の生徒たちの受験指導に関わる。その後、校舎責任者を経て、社内で新規ブランド(総合型・学校推薦型対策)を立ち上げた。また、予備校や個別指導、映像予備校向けの総合型・学校推薦型コンテンツ開発の責任者も務める。個人としては、高校での保護者会や講演会をはじめ、高校生対象のビジネスコンテストでの審査員や、高校生向けプロジェクト(杉並区教育委員会)の立ち上げメンバーを務めるなど、中学・高校生と社会をつなぐ活動にも精力的に取り組んでいる。
総合型選抜対策のニーズは右肩上がり
これまで3つの予備校で総合型選抜コースを担当してきましたが、どれも黒字化できて利益率が高く、それだけ保護者や生徒のニーズが高いと分析できます。従来は、社会的地位が高く、子どもにさまざまな教育を受けさせたいと考える一部の保護者の方が興味を持たれていた印象ですが、私立大学の入学者の半分以上が推薦で合格するという時代になった今、一般選抜だけでなく推薦でさまざまな能力を評価してもらって子どもの可能性を最大化したいという保護者の方が増えています。
一方、生徒や保護者がイメージする総合型や学校推薦型で求められる能力は、リーダーシップ、元気よく話せる、英語力(英語の資格の保有)などです。まったくのハズレとも言えないのですが、実情としては、大学はもう少し多面的に生徒の能力を見ています。
大学が見ているのは、まず「フィット感」。その大学、学部・学科に生徒が入学したら幸せになれるのか、楽しんで勉強できるのか、というところを大学の教授は重視します。これは偏差値帯の上下などにかかわらず、どの大学でも確認することです。次に、面接官はその道のプロですので、その学部・学科の学問をきちんと理解しているかどうかも確認します。最後が、素直さです。自分とは考えの異なる人の意見でも一度取り入れたうえで考え、自分の意見としてアウトプットできるかどうか。さらに、そこにノブレス・オブリージュや社会貢献意識、周囲に対する働き掛けをしたいという思いがあるとベターです。
「その大学が求める能力は何か」をまず理解する
志望する大学が求める能力を知る手掛かりは、その大学が発するメッセージにあります。アドミッション・ポリシー(入学者受け入れ方針)はその筆頭ですが、「教育理念」、「建学の精神」、大学長や学部長や学科長の言葉などからも方向性は分かります。さらに、シラバスを見たり、オープンキャンパスに参加したりして大学のビジョンがどう形に表れているのかまで見ると大学ごとの違いをきちんと理解することができます。
例えば、立教大学の経営学部のアドミッション・ポリシーを見てみると「リーダーシップを発揮する」とあります。リーダーシップはどの大学でも求められるだろうと思われるでしょうが、立教大学の経営学部は「グローバル・リーダーシップ・プログラム」や「ビジネス・リーダーシップ・プログラム」などを提供しているので、本当にこの力を求め、育んでいこうという思いがあることが実施している教育プログラムからも読み取れます。実際、選抜入試において活動実績を提出する際には、活動期間を何年何月から何月までというように事細かに活動の記録を書くことが求められます。
上智大学の経済学部経営学科のアドミッション・ポリシーには「歴史などの社会科の素養」とあります。一般選抜の日本史や世界史の問題も非常に難しいのですが、大学入学後の授業でも、歴史的背景も交えて経営学を体系的に学びます。つまり、入学後の学習に必要な素養や知識が選抜基準にも表れていると言えるのです。
ですので、立教大学と上智大学を併願する場合、おのずと志望理由書に書くべきこと中身、求められるポイントが変わってくるはずで、本当にその大学に行きたいと考えるなら、大学の違いを調べて志望理由書を記載することが求められるのです。
学部ごとに求められるコンピテンシーは異なる
求められるコンピテンシーも学部・学科によって異なります。例えば医療系では、共感・傾聴力、感情コントロール、耐性といったコンピテンシーが特に求められます。「私は貴学に合った人材です」と伝えるためには自己の強みを含む特定のコンピテンシーをアピールする必要がありますので、湘南ゼミナールの「総合型選抜(AO)・推薦コース」では生徒に「Ai GROW」を受検してもらい、結果を見ながら、「こういう仕事でこんな場面があったときに、どんな力が必要かな?」「その力をどう伸ばしていこうか?」と話し合いをしています。生徒との接点は学校が終わった後の2〜3時間ですので、学校の教室や部活動での姿は見えません。そういった部分を、「Ai GROW」の受検結果が補ってくれているという感覚もあります。
総合型にしても学校推薦型にしても、面談では「あなたの強みは?」と聞かれます。生徒は「コミュニケーション能力が高いです」などと答えがちですが、コミュニケーション能力の中には、傾聴力、多くの人を巻き込んでいく力、一対一での対話力、発問力などが複合的に混ざっています。それを理解しないままアピールすると差別化できません。「Ai GROW」の受検を通じて、コンピテンシーに対する理解を早期から深めていくことも非常に重要です。また、「Ai GROW」は相互評価を採用していますが、普段、高校生同士で互いを評価し合う機会は少ないので、生徒に「評価者視点」を持たせることにもつながります。ここにも大きな意義があるはずです。
ゲーム感覚の自己分析とメタ認知トレーニング
「総合型選抜(AO)・推薦コース」の高校3年生の授業で最初に行うのが自己分析です。一つのミッションを1カ月かけてチームごとに準備して、最後にプレゼンをして、われわれ講師が講評するという流れです。「オリジナル家電量販店を作る」というミッションを例に流れをご紹介します。まず、学校の先生や友達や親御さんなどに、自分がどういう人間なのか、家電に例えたら何になりそうか、なんでそう思ったのか、などを聞いてもらいます。取材をしながら、実際にどういうところで自身の能力が評価されているのかを理解させることが狙いです。それを踏まえ、チームのメンバーの能力を客観的に把握しながら、オリジナル家電量販店のコンセプトを決めていきます。「自己分析」というと、どうしても自分で考えて見方が固まってしまうのですが、「ミッション」という形でチームのメンバーと一緒に進めると、生徒は前向きに楽しく取り組んでくれます。
また、生徒のメタ認知を鍛えるトレーニングも行います。文部科学省も発表しているように、メタ認知は今後の学びに欠かせない能力の一つです。最初の2カ月程度は身近なテーマに関するディスカッション、後半はロールプレイングをします。例えば、「部活動の練習時間を減らそうという案が出ているがどうするか」をテーマに、生徒、保護者、保護者会の会長、監督(先生)などの立場になってディスカッション。監督の立場で話す生徒が「仕事がなくなってしまう、生活がかかっているんだ」と主張したりするのです。このトレーニングのもう一つの目的が面接対策です。自分たちとは違う価値観、違う観点があると分かったうえで受け答えできるかは重要で、教授側もしくは大学側の視点を持てる生徒は、合格しやすいなという印象があります。
非認知能力と学力のバランスを取る重要性
将来学びたいこと、やりたい仕事などを掘り下げるために個人面談も行っています。PDCAサイクルにG(ゴール)を加えたG-PDCAサイクルを用いています。目標設定と過程計画を生徒自身が行えるようにサポートするのはもちろんのこと、非認知能力と学力のバランスがとれた学習計画案も重要です。入試制度が変わるなかで文部科学省は総合型や学校推薦型でも何らかの形で学力を見ましょうという方針を示しており、評定3.8を切った生徒はこれまでより合格率が下がっているというデータがあるためです。
また、イベントやコンテストの情報サイトを紹介するなどして課外活動への積極的な参加を促すことにも力を入れています。フィールドワークも推奨しています。例えば観光系であればリッツカールトンの支配人にアポを取って話を聞いたり、実際に泊まったり、美術系であれば、世田谷美術館の学芸員さんに話を聞いたりといった活動です。
生徒の調査書に書いてもらいたいこと
学校の先生方に調査書を書いていただく際、ぜひ盛り込んでいただきたい要素が二つあります。一つ目が具体性です。「文化祭を頑張った」と書くだけではなく、具体的にどういう取り組みをしたのか、どういう成果があったのかというところまで書いていただくということです。例えば、「クラスの出し物が決まらなかったとき、揉めているポイントを4点に整理して書き出し見える化させることで、考える時間を作ってクラスの合意を取った」といったイメージです。成果に関して分かりやすく書けるように、文化祭などの行事ではアンケートなどで満足度を測る、入場者数をカウントするといった工夫も必要です。
二つ目が必然性です。長所を全部詰め込むのではなく、大学には「強み」を伝えましょうということです。「長所」は、どこの学部でもどの仕事でも評価されるもので、「強み」は、希望する学部・学科において特に求められる自身の長所です。この辺りを押さえて調査書を書いていただけると、同じような経験と実績を持つ生徒でも、大学からの見え方、評価、面接で聞かれる内容が変わり、合格しやすくなると思います。
編集・執筆:株式会社REGION