奈良県立大学附属高等学校は、2022年に開校した探究科単科の新設校です。1期生の学年主任として学校の開校当初から関わる植田久美代先生と、学務部研究開発課で探究活動を統括する有馬一賴先生に、「Ai GROW」活用の軌跡を伺いました。
同校には「自立・貢献・挑戦」という生徒綱領があります。この綱領について植田先生は、着任時に校長から「これは校則や校訓ではない。生徒自らに身に付かないと意味がない。だから、生徒に身に付けさせるにはどういう授業をしたらいいのか、どういう経験をしたらいいのかを考えていこう」と言われたそうです。同校のスクールポリシーはA4一枚分あり、それを教職員全員が理解して動くのは簡単ではない。だからこそ、3つの言葉に凝縮された生徒綱領を、日々の教育活動に落とし込むことが求められました。その生徒綱領の実現にあたり、植田先生が開校準備の段階で出会った「Ai GROW」がさまざまな面で活用されています。
新設校ならではの「何もない」状況が、同校の文化を形づくりました。植田先生は「1年目は本当に何もなかった。部活動もなかったし、一番強烈だったのは行事予定がなかったことです」と、当時を振り返ります。
その「部活動」は、先生方が生徒に「クラブはどうする?」と聞くところからスタートしました。すると200名ほどしかいない学年から50も60もアイデアが出てくる。先生方も13名しかいない中で、仮部活から本部活に移行する形を取り、6月頃に活動開始。その過程で生まれたのが、データサイエンス部やボードゲーム部、野外活動部といったユニークなクラブです。
有馬先生が顧問を務めるデータサイエンス部では、PythonやC言語でのプログラミングから始まり、ロボット製作で全国大会出場、3Dプリンターを使ったものづくり、生成AIを活用した創作活動へと、生徒の興味に応じて活動が広がっています。ボードゲーム部は、近くの子ども食堂や公民館でボランティア活動を始め、やがて「ボランティア部」の設立につながりました。「最初からカチッと部活があって入るのではなく、生徒が自分たちで作っていく」(植田先生)。この姿勢が、学校全体の文化になっています。
同校の「Ai GROW」活用で特筆すべきは、グルーピング機能の積極的な活用です。グルーピング機能は、「Ai GROW」の計測結果の気質とコンピテンシー分析を生かし、生徒を類似した集団(調和型のグループ構成)やあえて特性の異なる集団(多様性重視のグループ構成)を自動的に作成する支援機能で、植田先生は歴史総合の授業で、「調和型グループ」を設定してグループ課題に取り組んでいます。生徒にも授業の前に「今日のグループはこういう目的で作りました」と説明した上で、思考力を高めるための協働学習を展開しています。
さらに興味深いのは、地理総合での「気候ゲーム開発」プロジェクトです。気候の学習を終えた後、生徒はグループでボードゲームを開発する課題に取り組みます。この時は「イノベーション力を高めるグループ」にするために、設定を工夫しました。「同じ地理総合の授業でも、課題によってメンバーが変わっている。生徒は『これはゲームを開発するために必要な私たち4人なんだ』と思って取り組んでくれる」と植田先生はグループ分けの意義を振り返ります。結果このグループでの取り組みは予想以上の盛り上がりを見せ、最後は他グループのゲームを実際にプレイし、他者評価まで行いました。
▲グループワークを行う生徒の様子。(写真は同校提供)
有馬先生が担当する課題探究Ⅰでも「批判的な思考が高まるグループ」を設定しています。「仲の良い者同士でやると慣れ合いになりがち。ある程度ドライな関係、目的の達成のために集まっている関係の方が、探究活動が進む」とグルーピング機能の活用経験を語ってくれました。グループ編成に頭を悩ませることなく、「Ai GROW」のコンピテンシーに基づいて全自動でグルーピングしてくれる(一部、必要に応じてグループの微調整も可能)のが便利で、ときには、先生方の見方とは異なる組み合わせの方がうまく回ることもあったそうです。
開校4年目を迎え、1期生と4期生の違いも見えてきました。植田先生は語ります。「1期生は何もなかった分、捨て身でやるしかなかった。でも4期生は、ある程度プログラムがある中で、どれだけ『自立・貢献・挑戦』を身に付けてもらうか。だんだん変わってきている」。
現在の4期生は、学習アプリを活用した反転学習と、学校での思考型授業を組み合わせた設計で学んでいます。「戦争の年号や事柄は家で勉強してきて、学校では私が説明しながら思考的なプリントを解く」。いわゆる反転学習ですが、生徒はこれを「攻略ゲーム」のように捉え、グループで攻略法を共有しながら取り組んでいるそうです。
「Ai GROW」の経年データは、こうした変化を言語化する手掛かりになっています。植田先生は、IGSの担当者から示される全国平均との比較や、学年全体のコンピテンシーの傾向が、「ずっと見てきた生徒のありようと非常にマッチングしていた」と語ります。1期生から4期生まで、入学時期によって異なるデータの傾向も見え始めています。
「コンピテンシーの測定結果は、課題探究だけの評価じゃない。学校生活全体の評価なんです」(植田先生)。だからこそ、課題探究で培った力を教科学習にも生かし、グルーピング機能を活用した授業設計を進める。「自立・貢献・挑戦」という生徒綱領を、探究と教科の両面から生徒に身に付けさせる。奈良県立大学附属高等学校の実践は、「Ai GROW」を学校文化を形成する基盤として活用する一つのモデルを示しています。