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【活用事例】「生徒を伸ばしたい」という献身が、数字で裏付けられるまで

市立函館高等学校

【活用事例】「生徒を伸ばしたい」という献身が、数字で裏付けられるまで

 

「生徒を伸ばしたい」という献身が、数字で裏付けられるまで

 市立函館高等学校

 

「コンピテンシーを伸ばす最後のチャンス」という確信─導入の背景と6つの力への紐付け

北海道函館市で唯一の市立高校である市立函館高等学校。探究部長を務める塩村亮先生は、同校に12年間在籍し、「Ai GROW」の導入と運用を牽引してきました。導入のきっかけは3年前。2025年度の3年生が入学時から「Ai GROW」で経年変化を追う一期生に当たります。

塩村先生が「Ai GROW」に着目した背景には、ある研究との出会いがありました。「コンピテンシーを伸ばす最後のチャンスは高校だった。大学に入ってからでは大きな変容は起きにくい」。この知見に触れたとき、高校段階でコンピテンシーを意識的に育てることの重要性を強く認識したと言います。ただし、当初は「ラベリングして測定する」ことの価値が明確に見えていたわけではありませんでした。

同校は、育成を目指す資質・能力として「6つの力」を掲げており、塩村先生は「各教育活動が『6つの力』のうち特にどの資質・能力の成長に寄与する可能性があるのかを意識して、生徒を伸ばそうと思って取り組んでいる」と語ります。日々の教育活動の積み重ねが育てたい資質・能力を伸ばし、「Ai GROW」は、その積み重ねを振り返って「こうだったな」と確認するツールとして位置付けられています。


全国比較で有意に高い数値、ばらつきの収束─3年間のデータが示す「教育の成果」

コンピテンシーの成長
▲計測する12のコンピテンシーの平均値比較。「寛容」「共感・傾聴力」をベースに多様な他者と協働するうえで重要となる「影響力の行使」の他、「表現力」「疑う力」「創造性」を大きく伸ばしていることが分かる。

高校3年間の経年データが示す結果は、特筆すべきものでした。同校の生徒のコンピテンシーは、全国の導入校の平均値を大きく上回ります。特に注目すべきは、入学時点から高かった「共感・傾聴力」「寛容」をベースにしながら、「影響力の行使」「表現力」「疑う力」「創造性」といった、他者との協働に関わる能力が大きく伸長している点です。「優しいだけでなく、必要な場面で相手にしっかりと意見を言えるようになった」という変化が数字に表れています。

さらに興味深いのは、中央値が上昇しているだけでなく、最大値も上がり、最小値も引き上げられ、集団全体のばらつきが収束している点です。「上位層だけが伸びて格差が広がる」のではなく、「集団全体として底上げされている」。この傾向は、学校全体で生徒を伸ばす取り組みが機能していることの証といえるでしょう。

塩村先生自身は、こうした結果を「われわれが生徒と関わるうえでの自信につながっている」と表現します。「何が原因で何が結果か」を特定することは難しいものの、総合型選抜入試の面接指導で「Ai GROW」の結果を活用した際、生徒が自信をもって伝えたいメッセージに焦点化できた手応えがあったと言います。志望理由書がホームページの「パッチワーク」になりがちだった生徒が、「Ai GROW」の結果を見ながら対話することで、自分の強みを言語化できるようになった事例も生まれています。


「Ai GROW通信」と経年変化の可視化─学校文化としての定着に向けた工夫

同校の特徴的な取り組みの一つが、「Ai GROW」を校内に浸透させることを目的に塩村先生が発行する「Ai GROW通信」です。受検結果の傾向や活用方法を、校内に継続的に発信しています。「この生徒はまだ受検していません」と細かく声掛けをしながら、着実に受検率を高め、データの蓄積を進めてきました。

生徒の様子
▲地域探究「函館学」(学校設定科目)の講座で地域課題の解決について話し合う生徒の様子。(写真は同校提供)

一方で、現状の課題も率直に語られました。「ペーパーを返して振り返りのワークを書いてもらうところまではやっている。しかし、それが記憶に残っているかというと、まだそこまでではない」。生徒が過去の結果を見返しながら今回の振り返りをする仕組みを「先生方が手間を感じることなく」継続できるデジタルでの記録方法を模索していると言います。

先生方への浸透についても、まだ道半ばであることを認めます。「私が声を掛けているからやっている、という先生もまだいると思う」と塩村先生は語りますが、その意味や価値が認められつつある手応えも感じているといいます。「今までもコンピテンシーは教員の目で見ていた。経験則で判断していた。もう一つのツールが入ってくることで、生徒を普段とは異なる角度から見ることができるようになる」。この理解が、少しずつ広がりつつあります。


「トップダウン」から「われわれのツール」へ─生徒と教員の献身が生む好循環

塩村先生が次のステップとして見据えているのは、面談などにおける生徒との対話での活用。そのために先生方には生徒との面談の際には「Ai GROW」の個人レポートを「手元に置いてもらう」ことです。現状、面談で「Ai GROW」の結果を活用している先生はまだ限定的。「トップダウンではなく、先生方に価値があるものと思ってもらえるようにしたい」。そのためには、「こういう結果が出ています」「こう使えます」「こんないいことになっています」という情報共有をさらに進める必要があると考えています。

箱ひげ図
▲スクール・ポリシーに掲げる「6つの力」いずれも入学から1年弱の間に大きく成長。中央値だけでなく最小値も大きく上昇していることが分かる。

興味深いのは、同校の生徒が入学時点から自分に自信をもてているかどうかを示す「自己効力」の自己評価の高さ。道内の導入校では進学校も含め、全体的に自己評価が低く、特に「自己効力」の自己評価については、実際に発揮されている能力よりも大幅に低く出る傾向にある中、同校の生徒は最初から「自分ならできる」「学校を楽しもう」という姿勢が見られます。そして、「Ai GROW」の受検とその振り返りを3年間重ねる過程で、自然とメタ認知力が育っている様子もデータから読み取れます。

「本校の教員は、生徒が頑張っているからこそ、生徒により良い教育を提供するために献身的に向き合っている。それは間違いなく言える」と塩村先生は断言します。地域からの探究連携の依頼が後を絶たないほど、同校は地域に開かれた学校として認知されています。その土壌には、生徒と先生の間に生まれる好循環があるのでしょう。

「Ai GROW」は、その好循環を可視化し、先生方に「やっていることは間違っていなかった」という自信を与えるツールとして機能し始めています。特定の施策が数字を伸ばしたわけではない。日々の教育活動の総体が、コンピテンシーの成長として表れている。市立函館高等学校の事例は、第三者的な指標が学校の「強み」を可視化し、言語化するための一要素になりうることを示しています。