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【活用事例】広島県教育委員会:個別最適な学びに関する実証研究事業から見えたデータ活用のあり方

広島県教育委員会

【活用事例】個別最適な学びに関する実証研究事業から見えたデータ活用のあり方

※本記事は2022年7月28日に開催した「自治体向け IGS教育フォーラム 2022夏」の講演内容を基に作成しています。

 

講師:広島県教育委員会 義務教育指導課 主任指導主事 村田耕一先生

 

個別最適な学びに関する実証研究事業から見えたデータ活用のあり方

平成31年4月、広島県教育委員会内に「個別最適な学び担当」が設置され、私を含め指導主事など4名が在籍することになりました。教育長からは、「広島県が考える個別最適な学びとは何か、1年間研究してほしい」というミッションをいただきました。右も左も分からないという状態からのスタートでしたが、視察をしたり、有識者とお話しさせていただいたりするなかで、目指す姿は全ての児童・生徒の主体的な学びの実現であり、その方法として子どもたちに選択肢と自己決定場面を提供したらいいのではないかということが見えてきました。しかし、子どもたちの実態として、小学校で1割、中学校で2割の生徒が、主体的に学ぶことが難しい状況にあること見えてきました。

なぜ主体的に学ぶことが難しいのかを考えた結果、以下の仮説を立てるにいたりました。

・学びの選択肢が少ないために自分に合った学びがない、もしくはできないのではないか。
・そのため、学ぶ楽しさやできる喜びを感じた経験が少なく、自己肯定感が低下し、主体的に学ぼうと思わなくなってしまったのではないか。
・そうであれば、子どもたちに多様な選択肢を提供することができれば学びの好循環が生まれ、自己肯定感が向上し、主体的に学ぶことができるのではないか。

 

6つの小・中学校で実証研究事業をスタート

年間の研究結果を冊子にまとめたところで、その取り組みが県全体に広まるとまではまったく考えていませんでしたので、いくつかの学校で実証研究事業を行うことを決めました。

実証研究事業は、子どもたちが教科書やAI型タブレットなど、多様な選択肢から自分に合った学習方法を選択して学習を進める「自由進度学習」や、子どもたちが自ら学習プランを作成し、試行錯誤しながら自己を調整する力を伸ばしたり、協働者を活用して課題解決を目指したりしていく「単元別プロジェクト学習」などに取り組むものです。実証校は立候補制でエントリーシートを提出してもらい、面接なども行いながら6校に決めました。

実証研究事業を検証する上で、説得力のあるデータが必要なのではないかと考えていました。課長を除き3名しかいない指導主事などがどう学校に入り込み、何を実行できるのかが課題でしたが、そこで挙がってきた案が、外部リソースの活用です。検証が難しいといわれる資質・能力を可視化できる「Ai GROW」を活用したら良いのではないかという話になりました。

 

「本当に伸びているのか?」の疑問が「Ai GROW」で解消

実際に1年間学校に入り込んで取り組みを進めていくと、子どもたちの姿が本当に変わってきて、これはいいなと思いました。子どもたちに選択肢を提供した結果、学ぶ楽しさ、できる喜びを感じて自己肯定感が伸び、主体的に学び続けるようになったのです。各実証校の先生方もそういった手応えを得ることができていました。他方で、「本当に学力は付くのか」「本当に資質・能力が伸びるのか」という質問がよく出てきます

そういった疑問を解消するのに「Ai GROW」が非常に役立ちました。事業を実施した2年間で資質・能力はどのように伸びていったのか、設定した資質・能力と学力の関係はどうだったのか、こちらが取得したデータを「Ai GROW」のスタッフも一緒にチームになって分析してくれて、検証しました。資質・能力と学力テストをクロスしながらデータ分析していくなかで、「やっぱり学力、伸びてますよ」「資質・能力が伸びてます」みたいなことが明らかになってくると、私たちとしても他の学校に対して、「こんな取り組みをしたら学力がしっかり伸びますよ、資質・能力が伸びますよ」という話ができます。また、予算化していますので、事業の成果を財政部局などに報告する際にも子どもたちの成長を多面的に定量化し、相互評価の結果から客観性も担保された「Ai GROW」のデータがとても役立ちました。こういった取り組みを県教委が発信していくことで、他の市町からも「やってみたい」という声が挙がってきており、広がりが見えてきているところです。

 

データは「継続的に取得する」ことでメリットが最大化

この事業は単年ではなく2年の設定だったのですが、取り組み内容はどんどん進化していくので、それに合わせて資質・能力のようなデータを継続的に可視化したことが非常に重要だったと思っています。データは常に右肩上がりではなく、上がったり下がったりするのですが、変化の原因を継続的に検証できていました。具体的なデータを基に、実証校の先生方と、どうすれば良いのかといったことを常に一緒に考えられたことはすごく良かったのではないかと思っています。

また、私個人としては、資質・能力と学力が一緒に伸びていくわけではなく、定期考査で測る学力は資質・能力が伸びた後に伸びるものだと考えていました。そのため、2年間を通じて、1年目に資質・能力が伸びた後、2年目に学力が伸びたことを検証できたことは非常にありがたかったです。

 

「対話」と「ブレない芯」で予算を確保

私たち自身がこれだけ予算を確保して実証研究事業を実行できた理由には、「個別最適な学び担当」を教育長が“一丁目一番地”だと言ってくれたことで色々と動きやすかったということが一つあります。また、私を除く3名のうちの1名が主査だったのですが、主査の動きがすごく良かった。私は元々、小学校の教諭なので教育行政はあまり詳しくなかったのですが、主査は教育行政に関する事務や、教育委員会の仕組みをよく知っていて、財政部局にどのように説明すればよいのかも熟知していました。予算取りするときにも、財政部局と事前に交渉しながら、「なぜ、この取組を行うのか」「この事業を行うことで、どういうメリットがあるのか」ということを丁寧に協議していきました。このようにさまざまな方々と対話をし、同時に自分たちが何をしたいのかについてブレずに進められたのが、予算を確保できた一番大きな要因ではないかと思っています。