文部科学省の高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)により、全国の高等学校でデジタル機器やネットワーク環境の整備が進んでいます。しかし、採択から1年、2年と経過する中で、多くの学校で共通して直面しているのが「ハードのその先」という問題です。
「機器は揃えた。でも、それをどう使えば生徒の学びが変わるのか」「生成AIが話題だが、授業にどう取り入れたらよいのか」「情報Ⅰの内容を、情報科以外の先生も知っておくべきでは」―。そんな先生方のお声に応えるべく、IGSでは複数の採択校に各校のニーズに即した実践型の研修を実施してきました。
本記事では、その中から3校の事例をご紹介いたします。それぞれの学校の状況や課題に応じた研修設計と、参加された先生方の生のお声をお届けいたします。
事例1:大阪府立松原高等学校(大阪府)
「生徒の成果物をどう評価するか」―先生方の切実な課題に応える2日間研修
大阪府立松原高等学校では、先生方向けに2日間の研修を実施しました。
1日目は、先生方自身が受検した「数理探究アセスメント」の振り返り。まず先生方がデータを「自分ごと」として体験し、生徒が受検したときにどんな感覚をもつかを理解することから始まりました。
2日目は、オンラインで実施した生成AI活用研修です。同校の先生方が特に課題として感じていたのは、「生徒が生成AIを使って出す成果物を、どう評価すればよいのか」という点でした。レポートやプレゼン資料を生成AIで作成した生徒と、手作業で作った生徒を同列に評価できるのか。生成AIの出力に依存した成果物と、本人の思考が反映された成果物をどう見分けるか―。これは、生成AIが急速に普及する中で、多くの学校が感じている共通の悩みです。
研修では、生成AIとの共存を前提とした評価の考え方や、「何を評価するのか(AIの出力ではなく、生徒の思考プロセス)」という視点を共有しました。参加された先生方からは「評価対応についての納得感があった」との声があり、今後は校内で話し合って評価の指針を決めていくとのことでした。
また、研修中に体験した「Gamma」を使ったスライド作成は先生方に好評で、「こんなツールがあるのか」という驚きとともに、教材作成の可能性を実感された先生方が多かったようです。

▲生成AIモデルの違いを活用シーン別に学ぶ先生方の様子
事例2:三育学院中等教育学校(千葉県)
DXハイスクール採択2年目―先生向け・生徒向けの双方向研修
三育学院中等教育学校は、DXハイスクール採択2年目。先生向けの研修と生徒向けのワークショップの両方を実施している点が特徴的です。
先生向け研修:2年にわたる段階的プログラム
先生向け研修は2025年と2026年の2回にわたり実施しています。1回目は、提案書の標準プログラムに沿った生成AIの基礎から活用までの内容。2回目は、1回目の内容を踏まえた上で、先生方の生成AI活用状況をヒアリングしながら、「授業の中で生徒にどう生成AIを活用させるか」という実践的なテーマに踏み込んでいます。
このように、単発の研修で終わらず、学校の状況に合わせて段階的にプログラムを組み立てられるのが、IGSの研修支援の特長です。
生徒向けワークショップ:フィールドワークで「DX」を体験
生徒向けには、慶應義塾大学院特別講師の西野瑛彦先生のご協力の下、「風水害」をテーマにしたフィールドワークを実施しました。班ごとにペルソナを設定し、実際に学校周辺を歩いて調査を行います。
DXとの関連として特徴的なのが、フィールドワーク中のGPSログデータと写真データの紐付けです。生徒たちは自分たちの移動ルートや気になった箇所をデータとして可視化し、そのデータを基にアイデア出しを行います。最後に西野先生からフィードバックを受けるという流れで、2回のワークショップを実施しました。
三育学院の生徒は寮生活を送っており、普段学校の周りを探索する機会が少ないそうです。今回のフィールドワークでは、生徒たちが非常に積極的に参加し、「データを取る」という行為自体が新鮮な学びとなったようです。
▲フィールドワーク後のアイデア出しにも生徒は積極的に参加

▲西野先生からフィードバックを受ける生徒の様子
事例3:上野学園中学校・高等学校(東京都)
「データ活用セミナー」全2回 ― データ分析から生徒指導のヒントを得る
上野学園中学校・高等学校では、「データ活用セミナー ~生徒の360度評価・BIG5を読み解き、学習成果につなげる~」と題した研修を全2回、各2時間で実施しました。対象はデータ分析初心者~初級者レベルの先生方です。
第1回:統計の基礎+ハンズオン演習
第1回は、統計の基礎講座です。代表値(平均・中央値・最頻値)やばらつき(分散・標準偏差)など基本的な統計指標の説明から始まり、先生方は、「Ai GROW」で得られた実際の生徒の非認知能力と気質データ(匿名化済み)をExcelで操作。平均や標準偏差を計算し、ヒストグラムを作成するハンズオン演習を行いました。
併せて、生成AIを補助的に活用する体験も導入。「この平均・標準偏差について初心者向けに解説」といった指示でAIに要約文を作成させ、その結果を先生自身が確認・修正するというプロセスを体験しました。「正しい取り入れ方」を学ぶことが、生徒に教える際の基盤にもなります。
第2回:相関分析と他データとの組み合わせ
第2回は「応用編」として、相関分析の基礎と実践に取り組みました。相関係数(Pearson)の意味や因果関係との違い、散布図の読み取り方を学んだ上で、実際に「コンピテンシー評価×中間テスト」「BIG5の特定因子×テスト科目」など、学校現場のデータを組み合わせた相関分析を体験しました。
グループワークでは、相関結果を踏まえた仮説や指導アイデアを先生同士で共有。「データから見えたことを、明日の授業や面談にどう生かすか」を具体的に議論する、実践的なセッションとなりました。
また、データ活用のメリットとリスク(プライバシー管理、分析担当者の育成など)についても触れ、今後の展開として出欠状況や課題提出率、部活情報などとの組み合わせの可能性も提示しました。

▲「Ai GROW」で得られた生徒の成長データを使いながら統計の基礎から実践的な分析方法について学ぶ先生方の様子
IGSの研修プログラムの特長
IGSが提供する研修プログラムは、大きく2つのセッションで構成されています。
セッション①:情報Ⅰの基礎とAI活用(約150分)
「生成AI禁止から共存へ」と題した導入セッションでは、生成AIの仕組みと教育における活用の考え方、そして情報Ⅰのカリキュラムの概要と学習項目(情報社会の問題解決、コミュニケーションと情報デザイン、コンピューターとプログラミング、情報通信ネットワークとデータの活用)について学びます。
セッション②:実践的スキルの習得と授業設計(約210分)
生成AI、Canva、Miroなど複数のデジタルツールを組み合わせた授業デザインの方法を学びます。その後、情報Ⅰのカリキュラムに即した実践演習と、先生方同士で「自分の担当教科でICTや生成AIをどう活用するか」を話し合う振り返りセッションで構成されています。
各学校の状況や要望に応じて、セッションの組み合わせや時間配分を柔軟にカスタマイズできる点も特長です。上野学園中学校・高等学校のようにデータ分析に特化したプログラムや、大阪府立松原高等学校のように評価対応にフォーカスした内容など、「その学校がいまもっとも必要としていること」に応える研修を設計します。
参加された先生方の声
研修に参加された先生方からは、教科を問わず多くの反響をいただいています。その一部をご紹介します。
「生成AIといえば、ChatGPTやCanvaと思っていたが、他の生成AIを教えていただき使ってみることができてよかった。生成AIを活用すると自分では発想できなかったアイデアに出会えるところがありがたく思う。データ分析についても勉強になった」(国語科)
「色々な生成AIがあることを知り、実際に活用の仕方を知ることができた。今後の授業の資料作成に大いに活用できると思う」(英語科)
「他の国に比べ日本は偽情報に触れた際に自分で真偽を判断できる環境が整っていない、誤情報に踊らされてしまう可能性が相当高いというデータを見て驚きました。情報教育の大切さを我々も意識して生徒にも伝えていかねばならないと思いました」(数学科)
「ChatGPTは今まで使用したことがありませんでした。これから授業準備などで積極的に使用し、時間を有効活用したいと考えています」(保健体育科)
「データ分析に関心があります。学習状況のアンケートなど、面談に役立てたりしたいです。生成AIのメリットをしっかりと理解し、うまく組み合わせながら教科指導、担任指導に活用したいです」(英語科)
「情報Ⅰの学びを少し経験できただけでも意義深い時間だった。なかなか自分だけでは情報Ⅰでの勉強ができないので、この研修の機会を活かして自分自身もアップデートしていきたいです」(国語科)
「意見交換の中で、いろんな先生方がすでに小テストの作成などに生成AIを利用されていることが分かった。データ分析の活用については今後是非やってみたいと思いました」(理科)
おわりに
「ハードからソフトへ」―DXハイスクール採択校の多くが今、機器整備の次のステップとして「活用」のフェーズに入ろうとしています。
その「活用」のかたちは、学校によってさまざまです。生成AIの評価対応に悩む学校もあれば、データ分析を生徒指導に結び付けたい学校もあります。生徒にデジタルを体験させたい学校もあります。IGSでは、それぞれの学校の状況に合わせた柔軟なプログラム設計で、先生方の「その先」を一緒に考えていきます。
研修の詳細やお見積りについては、こちらからお気軽にお問い合わせください。
