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2026.03.27

「非認知能力白書 2025年度版」―50万件超のデータが示す、日本の中高生の非認知能力の実態

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学校教育現場においても非認知能力の重要性は広く認識されるようになりました。しかし、「実際にどのようなデータが得られるのか」「それをどう教育に生かすのか」については、参照情報がまだ十分とはいえません。

IGSは、非認知能力の測定ツール「Ai GROW」を通じて蓄積してきた大規模データ(511,122件・204,190名・532校、対象期間:2021年4月~2025年11月)を分析し、「非認知能力白書 2025年度版」を刊行いたしました。本記事では、その主要な知見をご紹介いたします。

データの規模と測定の仕組み

分析に用いたのは、全国47都道府県・532校から収集したデータです。「Ai GROW」は、自己評価とクラスメイトによる相互評価(360度評価)を組み合わせ、4領域・25コンピテンシーを測定。本白書では、自己評価・相互評価の双方で有効回答率が高い9つのコンピテンシーを主要分析対象としています。

その9つは、「課題設定」「個人的実行力」「創造性」「論理的思考」「自己効力」「表現力」「共感・傾聴力」「影響力の行使」「決断力」です。各スコアは0~100スケールで示されています。

知見①:中学3年→高校1年の「移行期ディップ」

相互評価は中学1年から高校3年にかけて、全9コンピテンシーで緩やかに上昇します。一方、自己評価に限ると、中学3年から高校1年への移行期に複数項目で段差的な低下が見られます。

これは能力が下がったのではなく、新しい参照集団(比較相手)の中で自己認識が揺らぐ「移行期ディップ」と呼ばれる現象です。中学時代に「自分はできる」と感じていた生徒が、高校入学後に新たな環境の中で自分の位置が揺らぐ。そのギャップは最大で約14ポイントに達します。

放置すると萎縮や意欲低下につながるリスクがある一方、適切な支援によって回復を早めることが可能です。高校入学直後が非認知能力育成において介入効果の高い「タイミング」であることを示しています。

知見②:「影響力の行使」が突出して低い

9つのコンピテンシーの中で、「影響力の行使」は相互評価・自己評価ともに全学年でもっとも低い水準にあります。相互評価でスコア52~56、自己評価でスコア34~37と、他のコンピテンシーと比べても低い水準です。

国際比較では、インドの中高生より5~7ポイント低く、日本が突出して低い領域です。これは授業設計の問題だけでなく、発言・主導・リーダーシップに対する文化的な抑制が背景にある可能性が考えられます。

「伸びないのではなく、今の授業設計では届いていない」可能性をデータが示唆しており、グループ活動での役割付与や意見表明の機会を意図的に組み込む設計の転換が求められます。

知見③:自己評価と相互評価は「別の情報」

83%の生徒が自己評価を他者からの評価より低く見積もっており、その差は平均約10ポイントです。中学1年から高校3年にかけて、相互評価は+2.25ポイント着実に上昇する一方、自己評価はほぼ横ばい(−0.09ポイント)のままで、成長に追いつかない傾向があります。

これは謙遜や誤りではなく、2つの評価が異なる側面を測っているためです。相互評価は「実際にどう見られているか(発揮された能力)」を、自己評価は「自分をどう認識しているか(内省)」を示します。目的に応じた使い分け―成果測定には相互評価、内省支援には自己評価―を設計に組み込むことが重要です。

知見④:「学校が効く領域」と「届かない領域」

スコアのばらつきを「学校間の差」と「個人差」に分解するICC分析の結果、「共感・傾聴力」のICCがもっとも高く(高校8.6%、中学5.2%)、協働・対話機会の設計が学校差にもっとも直結する領域であることがわかりました。

「課題設定」「個人的実行力」もICCが高く、学校単位の施策(カリキュラム・授業設計の標準化)が有効な領域です。一方、「影響力の行使」「創造性」はICCが低く、学校環境だけでは変化しにくい領域として、個別支援や家庭連携の重要性が示唆されます。

知見⑤:活動効果の2つのモデル

学校教育現場におけるさまざまな教育活動が非認知能力に与える効果には2つの異なるメカニズムがあることが示唆されました。

「意識的成長(Model A)」は、探究発表やプレゼンテーションなどを通じて本人が効果を自覚することで成長が促されるモデル。「表現力」「自己効力」「論理的思考」などが向上します。

「環境的成長(Model B)」は、異文化交流や現地体験などの没入体験を通じて、自覚なく効果が生まれるモデル。「影響力の行使」など協働性に関わるコンピテンシーが向上します。

活動の効果を「本人の自覚」だけで評価すると、没入体験を通した潜在的な効果(Model B)を見落とすリスクがあります。振り返りを伴う活動と、没入体験を重視する活動を組み合わせることが望ましいといえます。

政策・実践への提言

【学校管理職・教育行政担当者向け】

  • 「共感・傾聴力」「課題設定」を重点領域として、授業設計の共通フレーム化と協働機会の標準化を推進する

  • 高校入学時に意図的なオリエンテーション・小集団形成支援を実施し、自己評価の安定を図る

  • 評価指標の複線化:成果指標には相互評価、内省支援には自己評価を使い分ける

【先生方・スクールカウンセラー向け】

  • 相互評価と自己評価のギャップを活用したフィードバック面談の定期実施

【教育委員会・政策立案者向け】

  • 「同学年×同時期」での比較設計の標準化と報告様式の統一

  • 「影響力の行使」強化のための制度設計(探究型学習・生徒会・地域連携の「意思決定と発言の機会」としての再設計)

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おわりに

非認知能力の重要性は学校教育現場における共通認識になりました。しかし、それを「どう測り、どう育てるのか」については、多くの学校がまだ手探りの状態です。

本白書は、50万件超という大規模なデータを通じて、「実際にこのようなデータが取得できる」という事実と、「そこから見える傾向」を整理したものです。非認知能力の測定や活用をめぐる今後の検討・対話において、実践的な参考資料としてお役立てください。

「非認知能力白書 2025年度版」のダウンロードはこちら

「Ai GROW」についてさらに詳しく知りたい先生は、以下もご参照ください。

「Ai GROW」の概要はこちら