Skip to content
content.name

2026.10.15

生成AI時代の今、生徒の「考える力」は育っているか:探究で育むAIの活用を左右する力

 

 

生成AIで探究を深めたい学校と、心配する先生

いまは生成AIを使えば、整った体裁の文章やレポート、見やすいスライドを短い時間でつくることができます。

ここ最近、特に理系人材の育成に力を入れる学校から、「生成AIをもっと積極的に使いたい」という声が聞こえてくるようになりました。通称「N-E.X.T.ハイスクール」として知られる「産業イノベーション人材育成等に資する高等学校等教育改革促進事業」に採択された学校からも、文献や論文の調査、データの分析、仮説の検討に生成AIを取り入れて、生徒の探究を深めていきたいという話を伺っています。

一方、生成AIに頼ることで生徒が自分で考えなくなるのではないか、と心配する声も少なくありません。成果物を見ただけでは、生徒がどこまで自分で考えたのかがわかりにくくなりました。発表のあとに「この仮説はどうやって立てたの」と尋ねたとき、生徒が自分の言葉で説明できるかどうか。そこに不安を感じる場面もあるのではないでしょうか。

どちらの立場にも必要なのは、探究や課題研究で生徒の考える力が育っているかを確かめる手段です。この記事では、探究や課題研究を支える4つの力と、その習熟度や成長を全国の学校と横比較可能な形で評価する「数理探究アセスメント」を手がかりに考えます。

 

国の議論と海外の研究が指摘していること

2026年10月5日の中央教育審議会 教育課程部会で取りまとめられた「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」には、総合的な探究の時間でのAIの扱いについて、次のように書いています。

「一見高度に見える探究であっても、実際には資質・能力の育成につながっていないといった事態が生じるおそれ(いわゆる「偽の熟達(false mastery)」)も指摘されている」

同じ箇所では、AIは「仮説を立てる」「論じる」「関連付ける」といった高次の認知機能も代替できる点に大きな特徴がある、という指摘も紹介されています。

   
図1 「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(1/4)」P.329(総合におけるAIの取扱い)。一部を切り抜き、赤枠を追加(加工:引用者)。出典:文部科学省 中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会(2026年10月5日) 
 https://www.mext.go.jp/content/20261005-mxt_kyoiku01-000052360-1.pdf 

審議まとめでは、考える作業をAIに預けすぎて、学ぶために必要な過程が省かれてしまうことを「学習過程の省略」と呼び、注では「いわゆる認知的オフロードが過度となり、意図的な認知的な努力がなされなくなること」とも言い換えています。そのうえで329ページには、総合的な探究の時間でAIを活用する場合の対応として、試行錯誤の履歴としての思考の変遷や、成果の要点をその場で説明して質疑に耐えることなどを重視することが考えられる、としています(詳細の検討は今後に委ねるとしています)。

  
図2 同 P.27(学習過程の省略についての注記)。一部を切り抜き、赤枠を追加(加工:引用者)。出典:図1と同じ

同様の心配は海外でも議論されています。OECD(経済協力開発機構)が2026年1月に公表した報告書「OECD Digital Education Outlook 2026」では、認知的オフロードで学習効果が下がるリスクを指摘したうえで、進むべき道は技術を拒むことではなく、教育的な意図をもって使うことだとしています。

  
図3 OECD「Digital Education Outlook 2026」の概要(文部科学省による整理)。一部を切り抜き、赤枠を追加(加工:引用者)。出典:文部科学省 中央教育審議会 初等中等教育分科会 デジタル学習基盤特別委員会(第11回、2026年10月1日)資料3-3「AIガイドラインの改定に向けた検討状況について」P.8(2026年6月30日の同委員会配布資料を再掲したページ)
 https://www.mext.go.jp/content/20260930-mxt_shuukyo01-000052309_6.pdf

報告書が紹介している研究の1つに、トルコの高校生約1,000人を対象にした数学の実験があります。授業ノートと教科書で学ぶグループ、汎用の生成AIを使うグループ、教育用に調整した生成AIを使うグループを比べたところ、練習の場面では生成AIを使った2つのグループの正答率が大きく上がりました。ところが、何も見ずに解く試験では、汎用の生成AIを使ったグループの成績が、教科書で学んだグループより17%低くなりました。

  
図4 学習成果と汎用AIに関する研究例(Bastani et al., 2024)。一部を切り抜き、赤枠を追加(加工:引用者)。出典:図3と同じ資料3-3 P.10(2026年6月30日の同委員会配布資料を再掲したページ)

ユネスコが2026年9月に公表した報告書「The algorithm in the room」でも、小学校での実践報告として、AIがすぐに答えを示すことで、仮説を立てる、議論するといった「理解が生まれるプロセス」が失われるおそれが紹介されています。 

  
図5 教育分野のAI利活用に関する国際動向(AIセーフティ・インスティテュートによる仮訳・抜粋。UNESCO 報告書は CC BY-SA 3.0 IGO)。一部を切り抜き、赤枠を追加(加工:引用者)。出典:同委員会(第11回)資料3-2「教育分野におけるAIの安全・安心な活用(AIセーフティの確保)に向けて」P.13
https://www.mext.go.jp/content/20260930-mxt_shuukyo01-000052309_5.pdf

 仮説を立て、確かめ、やり直す。省かれやすいと指摘されているのは、まさに探究や課題研究の中核を成す大切なプロセスです。 

 

探究・課題研究を支える4つの力

「数理探究アセスメント」は、西村圭一先生(東京学芸大学大学院 教育学研究科教授、学長補佐)監修の下で開発した、生徒自らが問いを立て、文理を越えて考え、新しい価値を生み出す力を、実践的な課題への回答から測るアセスメントです。測るのは次の4つの力です。

4つの力

内容

課題設定力

客観的に検証できる問い(仮説)を立てる力

実験計画力

結果を狂わせる「ノイズ」を制御し、再現性のある計画をつくる力

考察力

提示されたデータにだまされず、バイアスを排除して多視点から分析する力

創造力

独自性と社会貢献性を兼ね備えた具体的な解決策をデザインする力

 その多くは、審議まとめが紹介している、AIが代替し得るとの指摘がある高次の認知機能(仮説を立てる、論じる、関連付ける)と重なります。実際に「数理探究アセスメント」で出題した過去の問題を見てみます。 

 

問題例1:検証可能な仮説を立てられるか(「課題設定力」を問う問題)

  
図6 「数理探究アセスメント」過去の問題(「課題設定力」を問う問題)

LEVEL1の回答例は、意見としてはわかりますが、実験で確かめられる形になっていません。LEVEL4の回答例は、南部鉄器があえて「さび」を利用して製品の劣化を防いでいることを手がかりに、確かめられる問いを組み立て、使い道まで見通しています。

生成AIに頼めば、もっともらしい仮説はいくつも返ってきます。しかし、その中のどれが実験で確かめられるのかを見分け、自分の知っていることとつないで問いを組み立てる力は、生徒自身の中にしか育ちません。

 

問題例2:多視点から考察できるか(「考察力」を問う問題)

  
図7 「数理探究アセスメント」過去の問題(「考察力」を問う問題)

記事の印象に引きずられずに、判断に足りない情報は何かを考えられるかが問われています。

 

問題例3:独自の解決策を考えられるか(「創造力」を問う問題)

  
図8 「数理探究アセスメント」過去の問題(「創造力」を問う問題)

発見をどこまで社会貢献性と独自性をもって課題の解決につなげられるかが、レベルの差になっています。

「数理探究アセスメント」を受検したSSH(スーパーサイエンスハイスクール)採択校約40校の生徒を含む全国の中高生の回答を分析すると、「検証可能な仮説が立てられない」「結論を急ぐあまり、一つの視点から安易に結論を出してしまう」「データを批判的に捉え、データに基づいて考える意識が低い」「独自性のないありきたりな課題解決になってしまう」といった課題がはっきりと見えてきます。いずれも、生成AIに考える作業を任せたときに起こりうることとも重なります。

 

生成AIを取り入れた判断を、データで振り返る

前述のトルコの研究が示しているのは、生成AIを使っている間の成果だけを見ていると、生徒に残った力を見誤るおそれがあるということです。生成AIを積極的に取り入れる学校にとっても、慎重な学校にとっても、生徒自身の回答から考える力を測ることには意味があります。

方法は、探究や課題研究の前後で測ることです。生成AIを取り入れた探究の前と後で4つの力を測り、力が下がっていない、むしろ伸びていることが確かめられれば、生成AIを取り入れた学校の判断が妥当だったことを裏付ける材料になり、生徒や保護者、教育委員会への説明にも使えます。ただし、前後の差には生成AI以外の学習や学年の進行による伸びも含まれます。どの段階で生成AIを使ったかを学校側で記録しておき、結果と合わせて読み取ることが大切です。「数理探究アセスメント」の受検結果を事業の成果を確かめる外部指標として、研究開発実施報告書に記載しているSSH指定校も少なくありません。

反対に、伸びていなければ、探究のどの段階を生成AIに任せすぎたのかを見直す材料になります。

「数理探究アセスメント」の受検結果は学校全体・学年・クラス別にまとめられ、全受検校、SSH指定校、他の「N-E.X.T.ハイスクール」拠点校や協力校などと横比較することも可能です。また、採点と分析はIGSが行うため、先生方の作問や採点に関わる負担は一切ありません。結果は受検完了からおよそ1週間で返却され、付属の評価基準とレベル別の回答例をまとめた解説書と、振り返り用のワークシートにより、探究・課題研究を支える力の測定だけでなく、その力の成長を効果的に促すこともできます。

 

おわりに:禁じるのでも、任せきるのでもなく

生成AIは、これからの生徒にとって当たり前の道具になります。禁じても社会に出たあとの備えにはならず、任せきれば考える力が育たないおそれがあります。その間にある道は、使いながら確かめることです。

「数理探究アセスメント」の監修者である西村圭一先生は、次のように述べています。

「探究は、知識を構成・創出するための手段。問いや仮説を立てることからはじめ、仲間と知恵を出し合い、検討をクリティカルに重ねた結果として、新たな知や解決を創出するためのコンピテンシーを育むことができます。学校教育における「探究」は、プロセスが重要といわれる所以がここにあります」

探究や課題研究の推進や深化に生成AIを活用しようとする学校ほど、そのプロセスで何が育ったのかを確かめる仕組みが、取り組みを支える力になるのではないでしょうか。