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2026.09.18

学校は"仕事"に必要な力を言語化できているか?——求める人材像を、学校のKPIに変える

 

 

はじめに ── 明確な到達像と、足りない「ものさし」

「主体的に学び続ける生徒を育てる」「地域社会に貢献できる人材を育成する」。多くの学校が、こうした人物像をスクール・ポリシーや学校の教育目標の一部として掲げ公表しています。多くの企業が求める、明確な到達像です。

しかし、それを「来年度の1年間で、生徒がどういう状態になっていればよいのか」「3年かけて、いつまでにどのレベルまで到達させるべきなのか」「そもそも、この達成状況をどうやって測るのか」という粒度まで降ろそうとすると、途端に難しくなります。何をもって「主体的」とするのか、何をもって「地域社会に貢献」なのか。

実はこのとき、足りていないのは目標そのものではなく、そこへ向かう過程を測る「ものさし」です。

 

社会が求めるスキルはKGI、学校に必要なのはKPI

この記事で使う2つの言葉

  • KGI: Key Goal Indicator(重要目標達成指標)。学校の言葉でいえば「卒業までにこうなっていてほしい生徒の姿」です。

  • KPI: Key Performance Indicator(重要業績評価指標)。「そのために1年目・2年目で、何がどこまでできていればよいか」に当たります。

企業の経営でいえば、売上高がKGI、商談の回数や、商品を買ってくれそうな見込み顧客数などがKPIです。ゴールだけでは日々の判断ができないため、途中を測る指標を置き、こうした指標を基に人事評価なども行われることが一般的です。

冒頭の「主体的に学び続ける生徒を育てる」や「地域社会に貢献できる人材を育成する」も、経営の言葉でいえば「KGI」です。「グローバルに活躍する人材の育成」もKGIです。これらは「方向」を示してはいるものの、では「今年の一学期に何をどこまでやればよいのか」までは示しません。そこを担うのが「KPI」の役割です。

  
▲最終目標を数値化したKGIを達成するための中間目標やプロセスを評価する指標がKPI

国の事業でも、計画の具体性が問われる場面が増えています。通称「N-E.X.T.ハイスクール」として知られる「令和7年度 産業イノベーション人材育成等に資する高等学校等教育改革促進事業」でも、各拠点校が事業計画を立てています。並ぶ計画名の多くは「〜人材の育成」という到達像、すなわちKGIは示されているのですが、意外にもそれを支えるKPIまで具体的に書かれているケースは限られています。ただ、自校の教育目標をKPIまで具体化する作業は非常に意義があることで、どの学校でも今日から始められます。

中央教育審議会の教育課程企画特別部会では、次期学習指導要領に向けた「審議まとめ(素案)」の検討が進んでいます。素案では、AIの発展で価値が低下したのは丸暗記や定型的な知識の当てはめ、知識量だけを競う評価の方であり、知識そのものの価値が下がったと考えるのは適当ではない、という趣旨が示されています(第17回 教育課程企画特別部会〈2026年8月31日〉資料1-1/4 P.8)。答申・告示前の素案段階の記述であり確定した方針ではありませんが、「知っている」だけでなく「その知識を使って何ができるか」を語れるようにする、という方向は読み取れます。これが国の掲げる「KGI」であるとすれば、各学校においてそこから「KPI」に翻訳する作業は、まさにこれから改めて求められることなのです。

 

仕事から逆算して、必要な力を育成する

では、KPIはどう設定するのでしょうか。お勧めしたいのは、教育の側からではなく仕事の側から逆算するという順序です。もちろん、大学進学を目指す生徒は多いですが、そうした生徒も高等教育を経て最終的には就職します。これは決して「学校が就職予備校化する」という話ではなく、前述の中央教育審議会の審議まとめでも多く言及される「社会の担い手の育成」という、かなり大きな「KGI」に向けて今、先生方がお仕事をされている高等学校として、何を軸に仕事をするのかを定める際に「仕事」から逆算することで「考えやすくなる」ということを提案するものです。

ここでは一例として仮に「半導体分野で活躍できる人材を育てる」という目標を掲げた学校を想定します(実在する学校の取り組みではなく、あくまでも手順を示すためのサンプルです)。農業にも、水産業にも福祉にも、情報にも置き換えられます。

第1段階:現場で実際に発生している業務を並べる。設計、製造プロセスの管理、装置のメンテナンス、歩留まりの分析、品質保証、顧客への技術説明。「半導体人材」という言葉のままでは何も決まりません。誰かが毎日行っている業務の粒度まで下ろします。

第2段階:必要な力を、2種類に分けて書き出す。1つはハードスキルです。IGSはこれを「業務を遂行する上で必要となる、後天的に修得可能な専門知識・技術・実践的な資格・ツールの操作能力」と定義し、職務とスキルを体系的に整理した欧州連合(EU)の「ESCO」や米国の「O*NET」を基準にスキルマップの作成などを行っています。もう1つがソフトスキル。いわゆる非認知能力の領域です。不具合の原因を粘り強く突き止める力、異なる部署の相手に技術を分かる言葉で説明する力、安全のルールを守り抜く誠実さ。現場の方に伺うと、むしろこちらが決め手だという声を多く聞きます。この2つを組み合わせて「この業務ができる状態」を記述したものが、コンピテンシーです。

このソフトスキルをどう考えるかがとても難しいのですが、実は、ここを学校が白紙から考えなくてよい、ということを本稿では提案します。企業が採用の場面で何を見ているかは、すでにデータとして蓄積されており、非認知能力とその成長を定量評価する「Ai GROW」の生徒向け個人レポートには「業界別コンピテンシーモデル」という欄で、金融・メーカー・商業・運輸・不動産・情報・サービス、そして教育という業種ごとに、その業種で特に活躍する人材に共通して高いコンピテンシーが示されています。

たとえば機械・重工では「課題設定」「ヴィジョン」「誠実さ」、IT・通信では「個人的実行力」「誠実さ」「耐性」といった具合です。これは企業向け評価システム「GROW360+」導入企業での受検・分析の結果を基に算出されたもので、同レポートには「『就職人気ランキング』上位企業を中心に、多くの企業で新卒採用試験などに使われています」と記されています。

この一覧を眺めると、業界に関わらず共通して重視されている力がいくつもあることが見えてきます。 

第3段階:到達段階を置き、在学中に目指す水準を決める。「知っている」「指示があればできる」「一人でできる」「人に教えられる」といった段階を置き、卒業時にどこを目指すのかを決めます。ここで初めて、学校の目標は「測れる形」になります。これがKPIです。要は、非認知能力やコンピテンシーの領域において、3年間を通じたルーブリックのようなものを作れば、それ自体がKPIを具現化したものになります。

第4段階:地域の企業や連携先の大学に見ていただき、ずれを直す。採用担当の方や現場の技術者に伺うと、「この力はもう少し早い段階で必要」「これは入社後の研修で足りる」といった修正が入ります。この往復こそが、いちばん重要な部分です。特に実業高校においては、こうした地域企業や特定業界の方とのやり取りが、その学校で育成される生徒の「期待値」を企業側とすり合わせる、という点で非常に重要な意味をもちます。

第5段階:直したものを、学校と企業が共有する1枚の表にする。この表は、学校の指導計画であると同時に、企業から見た採用・育成の見取り図にもなります。こうした「共通言語」をもっている学校の卒業生を、企業は決して放っておかないでしょう。

図1_育成-1
▲仕事から逆算して、必要な力を育成するための5段階

 

立てたKPIを、測れる形にする

ここまでの作業で、KPIは言葉になりました。けれども、言葉のままでは、年度末に「できたと思います」と書いて終わってしまいます。KPIは企業などにおいて人事評価に使われることが多い、とお伝えしました。つまり、「第三者含めて客観的に途中経過が測れること」で初めてKPIといえるのです。やっかいなのは、ここで測りたいものが答案用紙に表れないことです。粘り強さも、説明する力も、誠実さも、点数では捉えられません。

実は、IGSの「Ai GROW」は、この「見えない力」を数値にするための評価ツールでもあるのです。生徒の非認知能力と教育活動の教育効果を定量化し、25のコンピテンシーとその成長を計測できる。第2段階で書き出したソフトスキルの多くは、この25の枠組みに置き換えられます。控えめな生徒ほど自己評価が低く出てしまうため、本人の自己評価に友人3名による相互評価を組み合わせ、そこにAIが補正を加える。設問はリッカート尺度ではなく、行動が具体的に記述されたルーブリック方式です。

結果は全員の受検が完了した翌日から確認でき、コンピテンシーごとの成長グラフで在校期間中の伸びを追えます。「1年目でどこまで」というKPIの進捗を、年度の途中で確かめられます。

 

企業と学校の「共通言語」をおく意味

この「可視化されたKPI」の最大の価値は、学校と企業、そして学校同士が同じ言葉で話せるようになることです。「共通言語」がないとき、双方はすれ違います。企業からは「学校は現場を分かっていない」と見え、学校からは「企業の言うことは抽象的で、授業に落とせない」と見える。どちらも誠実なのに、言葉が違うために努力が噛み合いません。

また、共有のための1枚の表を一度作って配るだけで「共通言語」が身につくわけではありません。同じ「一人でできる」という言葉でも、学校ごとに、また企業の現場と教室とで思い描く姿が少しずつ違うからです。

また、「N-E.X.Tハイスクール」などに認定されている拠点校と協力校の間でも、学校と、その外から取り組みを支える地域の企業や連携先の大学、自治体などの協力者(ステークホルダー)との間でも、事情は同じです。しかも、AIをはじめとする技術の進展とともに仕事の中身や求められる力は変わり続けており、企業の側もこれから必要になる力を見定めようとしている最中です。言葉の意味を確かめ合い、必要に応じて更新していく機会を重ねなければ、コミュニケーションの齟齬は生まれやすくなります。第4段階で触れた企業や大学との往復を一度きりで終わらせず、必要に応じて表そのものも見直していく。そうした密な連携があって初めて、誰にとっても同じ意味をもつ真の共通言語になります。

そのうえで、はっきりさせておきたいことがあります。この作業は、評価ではなく翻訳です。生徒を点数で並べたり、先生の指導を採点したりするための道具ではありません。データが見えることには、使い方を誤れば先生の手足を縛る危うさもあります。何のために可視化するのかを見失わないことが、この取り組みを続けられるかどうかの分かれ目です。

では何のために可視化するのか。その大きな答えの一つが「再現性」です。特に実証事業などの拠点校でうまくいった取り組みは、「あの学校だから」「あの先生だから」できたと受け止められてしまうことが多いのですが、これでは協力校にも、県内の他校にも、県外にも広がっていきません。どの力がどの時期に、どんな活動を通してどれだけ伸びたのか。取り組みの前・途中・後で同じ枠組みを使ってデータを取っておけば、他校も自校の生徒の姿と照らし合わせながら「何を取り入れ、何を変えるか」を判断できるようになります。データを取るのは生徒や学校を比べて並べるためではなく、うまくいった取り組みを他校でも生かせる形にするためです。「Ai GROW」が生徒の資質・能力に加えて「教育活動の教育効果」の定量化を掲げているのも、この再現性を支えるうえで大きな意味をもちます。

 

コンピテンシーが先生の指導の足場になる

実は、「Ai GROW」の導入校の中には、実際にこうした作業を進められている学校が多数あります。そして、それを経験した先生方からは、「思っていたほど、特別なことはしていなかった」という声をよく伺います。

業務から必要な力を書き出し、コンピテンシーの水準まで翻訳してみると、そこに並ぶのは、粘り強さや、説明する力や、段取りする力です。工業科の実習でも、農業科のプロジェクト学習でも、普通科の探究でも、すでに日々の指導の中で育てられているものばかりです。ただ、それを具体的にKPIとして測定し、言語化している学校の数はまだまだ少ないのです。

しかし、これは新しい取り組みを一から始めるということではありません。むしろ、やってみると、これまでの指導は間違っていなかった、自分がやってきたことが卒業後の仕事のどこにつながるのかが見えた、という、先生が自信をもって生徒の前に立つための足場になります。
その足場は、生徒ごとに特に高い資質・能力と成長が認められる資質・能力について所見を自動で提案し、調査書の「行動の特徴、特技等」や指導要録などを通して「根拠のある記述」として生かすこともできます。この足場は先生だけのものではありません。年度の途中で測った結果を生徒と一緒に見返せば、何が伸びたのか、次に何を伸ばしたいのかを話し合うきっかけにもなります。

  
▲スクール・ポリシーの達成状況を負担なく定量的に評価することが可能

 

おわりに ── 自校で生きる言葉をもつこと

国の事業に採択されているかどうか、大きな予算があるかどうかは、この作業の前提ではありません。必要なのは、自校の教育目標を、仕事から逆算した具体的な力の組み合わせとして書き出してみることです。

とはいえ、いざ書き出すと、どの粒度まで業務を分けるのか、到達段階をいくつに区切るのか、企業の方に何をどの順番で見ていただくのか、といった手が止まる場面が必ず出てきます。そこで、実際のスキルマップがどのような形をしているのか、到達段階の書き方にはどのような選択肢があるのかを、実物に近い形でご覧いただけるページをご用意しました。あわせて、業界ごとに求められる力の一覧や、それを生徒の側で測る「Ai GROW」の詳細資料もお渡しできます。自校に置き換えて考えるときの、確かな手掛かりになるはずです。

一部の学年やコース・学科から試してみたい、まずは進め方だけでも聞いてみたい、といったご相談でも構いません。KGIの達成を見据えた自校の教育活動の推進に向け、まずはお気軽にお問い合わせください。


弊社代表コメント

AIの進展に伴い、仕事の内容や人の役割は変わり続けています。求められる力の変化も速く、企業も「これから何が必要か」を模索しています。だからこそ、学校と企業が対話を重ね、学びと社会のつながりを一緒に考えることが大切だと思います。

仕事で必要な力に目を向けると、日々の授業や実習が、社会のどこにつながるのかが見えてきます。そこで育まれる力は、進学後の学びや地域での活動、自分の人生を選ぶ場面でも生きるものです。大切にしたい力を共有しながら、それを発揮する場面や学ぶ機会を、社会の変化に合わせて考えていく必要があります。

「どんな経験が成長につながったのか」
「次は何に挑戦してみようか」

評価データを、先生方と生徒がこうした対話をする手掛かりにしていただければと思います。生徒一人ひとりが「できるようになった」と実感し、自分の可能性を広げ、未来を選び取っていけるよう、先生方とともに支えていきたいと考えています。


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中里 忍
(Institution for a Global Society株式会社 代表取締役社長 COO)

 

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