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2026.06.15

【教科×非認知能力 シリーズ 第2弾】物理・化学はなぜ「やりきる力」と結びつくのか ── 数学とは“似て非なる”教科の正体

 「AIに答えを聞いた課題研究は、なぜ失敗したのか」─ 生成AI時代の理科と非認知能力を、3名の先生と考える

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岡田直之先生(群馬県立高崎高等学校 SSH国際部長) 

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大久保邦博先生(徳島県立脇町高等学校 教務課長)

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山口剛寛先生(横浜隼人中学・高等学校 教科・教育推進部 兼 DX推進部)


 IGSが2026年2月にまとめた「非認知能力と共通テストの関係性分析」で、古文(ΔR²=+0.129)に次いで非認知能力の影響が大きかった科目は物理でした。また、化学も物理と非常に近い傾向を示しました。2つの科目の得点に共通して効いていたのは「個人的実行力」「自己効力」「柔軟性」─ひとことで言えば、最後まで“やりきる力” です。


▲IGS「非認知能力と共通テストの関係性分析」の結果、物理・化学と非認知能力の関係に高い相関が認められた

なぜ理科で、やりきる力なのか。物理と化学の傾向に違いはあるのか。そして、類似性を感じる数学とは、なぜ違うのか。今回は、分析にもご協力いただいた群馬県立高崎高等学校の岡田直之先生(SSH国際部長・物理部顧問・物理)、「Ai GROW」を早期から活用し続ける徳島県立脇町高等学校の大久保邦博先生(教務課長・化学)、第1弾「古文 × 非認知能力」の記事に共感し、自ら手を挙げてくださった横浜隼人中学・高等学校の山口剛寛先生(教科・教育推進部 兼 DX推進部・物理)に鼎談形式でお話を伺いました。

 

「データは現場感覚と一致した」 ─3名の先生の第一声


 結果を最初に引き取ったのは、化学を担当されている大久保先生でした。「本校でも独自に分析したのですが、『自己効力』が高い生徒は学力も高く、『耐性』も高い──この点は今回の結果と一致していました。粘り強い生徒は、共通テストだけでなく二次試験まで頑張りきれる。実際、医学部に合格していくのはそういう生徒です」。むしろ意外だったのは、課題解決に関わる力よりも“やりきる力”が前面に出たことだったといいます。

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実験計画から生徒に委ねる徳島県立脇町高等学校のクイズ型実験の様子 

物理を担当されている山口先生もこれに頷きます。「これまで物理を教えていて感じてきた『最後まで問題を諦めない子が伸びる』という感覚が、数値になって出てきた。やっぱりそうか、と」。

物理を担当されている岡田先生は、データを日常の風景で裏づけました。群馬県立高崎高等学校の物理は2年生の4月に開講。一方、物理オリンピックにつながる「物理チャレンジ」は7月がスタートです。「『出たい人は7月までに自分で全範囲を終わらせておいて』と鼓舞すると、10名くらいは本当にやり始めるんです。『できそうだ』と見通せるのは『個人的実行力』、『やってみよう』と思えるのは『自己効力』。2つはリンクしているのだと思います」。実際、同校のデータでは「個人的実行力」の高低で物理の得点に約14点の差が出ています。

さらに岡田先生は、物理に欠かせない力として「柔軟性」を挙げます。「物理は、わかったと思ってから問題を解くと実はわかっていなかった、の繰り返し。自分の中のモデルを永遠に更新し続ける科目です。『柔軟性』がないとモデルを切り替えるのが難しいと思います」。

3名が口を揃えた“理科あるある”もあります。「理科は後回しにされがちなんです。まず英語・数学・国語だろう、と。理科は高3の夏から、みたいな」。だからこそ、独学を支える自走力の差も点差に表れるのかもしれません。

 

「やりきる力」を育てる、3校3様の流儀


では、その力をどう育てるか。3校の先生の答えは、それぞれの学校文化を映して三者三様でした。

群馬県立高崎高等学校の土壌は、1年がかりの文化祭準備を通した「生徒主体の活動」です。「去年の文化祭が終わった翌週には、生徒主体で組織を立ち上げている。バスを勝手に予約してきたり、市役所と勝手に話をつけてきたり。それを温かく見守る土壌がある。『自分でやる』ことに慣れているから、授業も課題研究も『文化祭と一緒だよね』で通じるんです」(岡田先生)。全国大会「Q-1」で最優秀イノベーター賞を獲得した物理部の4名の生徒も、最初から非認知能力が高かったわけではなく、卒業時には校内上位25%に入るまで伸びていたといいます。

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▲群馬県立高崎高等学校の生徒が作成し文化祭で展示したモザイク壁画。その大きさからギネス世界記録にも認定された

山口先生は、「わからない」の言語化にこだわります。「手が止まった子には、まず図を描かせる。『何がわからないのか』を言語化させると、詰まっているところが目に見える。15分の問題なら10分で『相談OK』にして、できる子が教え、できない子が聞きに行く。人に説明できるということは、自分の中で整理できているということ。『わかるというのは、人に伝えられるようになることだよ』と繰り返し伝えています」。学年が上がると、促す前に生徒同士の話し合いが始まるそうです。

対照的に、大久保先生は自校の生徒像から語り始めました。「うちは『自ら』動くのが得意ではない生徒、枠にはまった形でやりたい生徒が多い。だからこそ昨年度から、授業の中で非認知能力を伸ばす授業設計を、学校として始めたのです」。無機化学の分野は、生徒自身がスライドを作って発表し、教え合う。実験は「この薬品だけを使って、3つの金属を1時間ですべて特定して」というクイズ型で、実験計画から生徒に委ねる──化学の必然性の中に、考え、決め、やりきる場面を埋め込む設計です。

徳島県立脇町高等学校はこれまで実に6年にわたって、生徒の非認知能力の成長を「Ai GROW」で定点観測してきました。多くの力が年々伸びてきた一方、「伸びづらいのは『創造性』と『解決意向』。そして、もともと『解決意向』が高い子が医学部や難関大に進んでいます」。さらに「『共感・傾聴力』が高い子は、理系文系を問わず教育学部に進む」という進路との相関まで見えてきているそうです。

 

なぜ「数学」では、同じ傾向が出ないのか


鼎談がもっとも熱を帯びたのは、岡田先生の素朴な疑問からでした。「物理と数学って、すごく似ていると思うんです。なのに、非認知能力の効き方は、なぜ物理と化学が似ていて、数学とは似てこないのか」。実際、今回の分析で数学は、物理・化学ほどはっきりした傾向を示していません。

分析を行ったIGSの代表である中里(現在、慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科で教育システムを研究中)は、以下のような仮説を示しました。「今回は数学受験者のデータが少なかったため、明確な結果は出ませんでした。そのため推測にはなるが、数学は完全な抽象の世界で、極端にいえば、高い認知能力だけで押し切れてしまう面があるのかもしれません。以前、同様の分析をした際には『創造性』との関係がありそうだったので、サンプル数を増やしたうえで改めて分析をしていきたい。一方、物理や化学が相手にするのはカオスな現実です。現実をモデル化し、構造化し、プロセスに落とす。だから認知能力と非認知能力の“両輪”が要る。研究の世界でも、物理や化学の論文は机上だけでは成立しにくいと感じています」。

扱う現実の幅が広すぎる理科は、そのすべてを網羅できない教科。だからこそ、自分で選び、自分で進める力が問われるのかもしれません。 

 

生成AIが「いちばん使えない」教科? ── だから、教材になる


生成AIの話題でも、理科ならではの風景が次々と出てきました。

大久保先生が挙げたのは、課題研究の失敗談です。「生徒はすぐ、AIに答えを求めるんです。『バナナの皮でプラスチックを再生する』という先行事例が出てくる。でも、やってみるとできない。どこのデータかもわからないし、化学実験は溶液の濃度ひとつで再現性が変わります。それでも生徒は『書いてあるのに、なぜできないんだろう』と──『疑う力』の弱さが、そのまま出るんです」。ただし、この失敗自体が「AIの特性を理解せずに使うとどうなるか」を体感させる、生きた教材になっているといいます。

山口先生は、授業で東京大学の物理の過去問をAIに解かせてみせました。「それっぽい解答がずらずらっと出てくるんですが、答えは全部間違っている。有料版でもそうです」。生徒に示したルールは明快です。「わからないところを質問する“壁打ち”はいい。でも、答えを聞くのはやめよう」。

岡田先生は「AIを使っていない生徒は、もう存在しない」と言いきったうえで、変化の本質を語ります。「AIに壁打ちすると、のっぺりした一般論が返ってくる。『きれいなことを言う』ことの価値が、相対的に下がったんです。だから、自分ならではの視点がどこに入っているのかを、自分の言葉で語れるように、と生徒には言っています」。最近では、AIの間違った回答にツッコミを入れる授業も試みているそうです。「理科なら『これは現実と合わないよね』と気づける。結構面白い領域だと思います」。

特に物理と化学はAIと相性の良い部分と悪い部分がはっきりと分かれる科目。だからこそ、人間とAIの協業の“お手本”をつくれる科目なのかもしれません。

 

物理と化学は、明確には分かれなかった ── それが今回の発見


物理と化学に違いが見えたのは、「物理は80点なのに、化学は60点」という生徒の話でした。「化学は、式や基本を覚え抜かないと計算までたどり着けない。詰め込んで覚えるためには『耐性』が必要です」。化学はカオスな現実を相手に、やりきる力としなやかさを鍛える科目。それが、データと現場の声が重なって見えてきた、物理と化学の正体でした。

そこで次回は「化学・番外編」として、前述した物理と化学の違いをもう少し深掘りすることを目的として、大久保先生が6年間、学校独自に積み上げてきた経年データの中身と、データを授業に返す実践の詳細をお伺いしたいと思います。あわせてIGSでは、「教科 × 非認知能力」をデータで語り合う教科別の先生コミュニティ(部会・ミートアップ)づくりも進めています。データを用いてさまざまな教育の事象の間にある相関を調べるのが好き──そんな先生方のご参加をお待ちしております。

 

[ニュースレター会員限定レポート] 共通テスト × 非認知能力 詳細解説版(全文公開)

本記事の起点となったIGSの分析「共通テスト × 非認知能力」(全国7校709名)の全結果と詳細解説を、ニュースレターご登録者向けにレポート形式で公開しています。

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