各校スクール・ミッションに基づきスクール・ポリシーを策定・公表されていらっしゃる一方、その運用と適切な評価に対するお悩みや課題を多くの学校・先生方から伺います。
では、スクール・ポリシーを起点としてどのようにカリキュラム・マネジメントを適切に行い、教育活動の改善を計画的に図っていけばよいのでしょうか。
2023年3月15日(水)、オンラインで実施した本セミナーでは、北海道湧別高等学校 校長髙野龍彦先生を講師に迎え、スクール・ポリシーに示した育成を目指す資質・能力の成長と各種教育プログラムの効果検証を客観的かつ定量的に行いながら学校教育目標の具現化を進める同校の取り組みを具体的にご紹介いただきました。
【講師】
髙野龍彦先生(北海道湧別高等学校 校長)
北海道湧別町は、オホーツク海やサロマ湖のすぐ近くにある、第一次産業が盛んな人口約8,000人の小さな町です。湧別町唯一の高校である本校は、連携型中高一貫校でもあり、中学校とさまざまな取り組みを一緒に行っています。全校生徒は118名。国公立大学、私大に進む生徒もいますが、専門学校進学がもっとも多いのが現状です。
地域に根差し、一人ひとりに寄り添う学校
町に一つしかない高校であることから、地域との連携も非常に深くなっています。北海道や湧別について学ぶ「北海道学」、地域の特産物などを活用した授業を行う「地域と生活」など、地域と関連付けた単元の中で、地域の人材や教育資源をできる限り積極的に活用し、教科横断的な取り組みを行っています。生徒や地元の方々からは、「一人ひとりをしっかり見てくれる」「先生と生徒の距離が近い」「親身になって生徒に寄り添う先生のいる学校」という声を多くいただいています。
また、本校では「総合的な探究の時間」を「未来計画」と題し、全学年縦割りでゼミを編成して探究型学習に取り組んでいます。自由にテーマを選び、地域の方に「探究サポーター」として参加してもらって助言をいただいたり、北海道大学と連携したりしながら学びを進めています。
「育成する生徒像」の共有不足、教育目標の形骸化という課題
本校には令和4年度に校長として着任しましたが、先生方が一人ひとりに寄り添った指導や声掛けをしていても「学校として」どういう生徒を育成しようとしているか浸透していないのではないか、学校教育目標や学校経営シラバスが形骸化しているのではないか、といった課題が少しずつ見えてきました。「育成する生徒像」を分かりやすく示し学校全体に共有すること、そして、その「育成する生徒像」を実現していくために教育活動の効果を可視化しながら改善を重ねることが必要だと感じ、「魅力化推進プロジェクト」を立ち上げるととも に、前任校でも活用していた「Ai GROW」を本校でも導入することにしました。
「育成する生徒像」を考える「魅力化推進プロジェクト」
「魅力化推進プロジェクト」は、高校魅力化に向けた中長期的な取り組みを検討するプロジェクトチームです。まず、「どういう生徒を育てるべきか」というところから取りかかりました。現状を分析し、話し合いの中で育成を目指したい資質・能力をピックアップ。導き出した「育成する生徒像」をスクール・ポリシーや学校教育目標と照らし合わせたところ、両者はほぼイコールでした。校内全体にこの「育成する生徒像」を分かりやすい形で浸透させていくこと、そして、個々の経験値によって広く浅く行っていた指導を、組織的に一貫性と一体感をもって行うこと、そして生徒の状況に応じて重点化することで、教育効果を高めることが重要だと思いを新たにしました。
「Ai GROW」によるスクール・ポリシーの定量評価と探究型学習の効果測定
本校ではスクール・ポリシーを以下のように定義しています。
校訓である「自ら求めよ」の精神を生かして、
1.自己実現のため、自ら道を切り拓く力と継続して挑む力を育てます。
2.多様な価値を認め合い、他者を思いやる力と協働する力を育てます。
3.興味をもって地域に貢献する、探究する力と創造する力を育てます。
令和4年度は、これら資質・能力の現状と成長を生徒個別にはもちろん、学年やクラスといった集団で把握するため「Ai GROW」を活用。それぞれの資質・能力を「Ai GROW」で計測できる25のコンピテンシーでどう代替計測するかについては、IGS株式会社からもアドバイスをもらいながら決めました。
また、スクール・ポリシーの定量化だけでなく、「未来計画」(探究型学習)における成長も同時に可視化したいと考え、ルーブリックを参考に以下の5つのコンピテンシーを追加。計15のコンピテンシーを「Ai GROW」で計測しました。
1年生を例にとり、9月と12月に実施した「Ai GROW」の受検結果を比べてみると、課題設定、興味、自己効力、個人的実行力、組織への働きかけ、などが伸びていることが分かります。
また、「Ai GROW」の管理画面に設けられた「学校コンピテンシー」機能では、複数のコンピテンシーを組み合わせて独自の資質・能力を設定・登録し、その成長をエクセルなどを加工することなくすぐに確認することができます。この機能を活用して本校のスクール・ポリシーの成長を確認してみたところ、「多様な価値を認め合い、他者を思いやる力と協働する力(「Ai GROW」では自己効力、影響力の行使、寛容、柔軟性の組み合わせで定量化)」「興味をもって地域に貢献する、探究する力と創造する力(「Ai GROW」では創造力、興味、地球市民の組み合わせで定量化)」の中央値や最小値にポジティブな変化が認められました。スクール・ポリシーの成長を可視化できたことにより、学校全体で共通認識をもつことができるようになり、校内で一段深い議論ができるようになったと感じています。
新たに掲げた「育成する生徒像」とその評価を担う「Ai GROW」
令和5年度に向けては、「育成する生徒像」として「自主・自律・自走」を掲げ、すでに全教職員に共有しています。「自主」を選んだのは、令和4年度の「Ai GROW」の受検結果から主体性や表現力に課題が認められただけでなく、先生方からも「内弁慶なところがある」「公の場で力を発揮できない」「自己肯定感が低い」という声が挙がったためです。「自律」はスマホやゲームへの依存を減らし、コミュニケーション・スキルをもっと高めていってほしいという願いから、「自走」はものごとに受け身ではなく能動的に取り組んでほしいという願いから選択しました。これらが生徒に備わり、受動的で一方的で浅い学びだったものが主体的で対話的で深い学びになれば、先生方も「教え育む」ことにもっと注力できるようになるはずです。また、行事や部活動、探究型学習でも生徒が自走できるようになり、指導方法の改善や教員の働き方改革にもつながるのではないかと考えています。
この「自主・自律・自走」の評価にも、もちろん「Ai GROW」を活用する予定です。3項目すべてに「自」がついているので、個人的実行力(自らの意思によって行動を起こして計画を進め、何事にも自ら取り組むことのできる能力)をキー・コンピテンシーとしてベースに据え、それぞれ「Ai GROW」で以下のように計測していく予定です。
本校の教員は平均年齢が31歳と若く、13名のうち9名が初任という状況。経験に頼らず、表面的には見えづらい部分まで生徒の資質・能力を客観的に可視化できる「Ai GROW」の存在は、日々の指導においても大きな力になっています。
客観的データを基にしたさらなる魅力化で選ばれる学校に
これからさらなる魅力化を目指すに当たり、ベースとなるのはやはり校訓「自ら求めよ」、そして、「自主・自律・自走」であると考えていますが、令和5年度の終わりにもまた「Ai GROW」を受検させ、客観的なデータを基に振り返りを行い、必要に応じて「育成する生徒像」も取り組み内容も変革していきたいと思っています。
これまでは、保護者からも中学の先生方からも「就職なら本校」「進学なら地域の別の学校」という見方をされてきましたが、これからは「一人ひとりを大切にする」というすでに浸透している強みに加え、「Ai GROW」の客観的なデータを基に「自主・自律・自走」に向けて生徒をしっかりと育む教育内容で選ばれる学校を目指します。また、探究型学習においても地域の協力的な大人と関わることで学びを深める仕掛けなど新たな試みを導入しつつ、学習を通した成長を「Ai GROW」で可視化しながら生徒の自己理解の促進と教員の指導力向上を図っていく予定です。拡大傾向にある総合型選抜や学校推薦型選抜での進学率向上など、新たな目標への道のりもこの取り組みの先に見えてくることでしょう。