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2023.05.14

【セミナーレポート】第20回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(岡山市立操南中学校 竹島 潤先生)

セミナーレポート

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各校スクール・ミッションに基づきスクール・ポリシーを策定・公表されていらっしゃる一方、その運用と適切な評価に対するお悩みや課題を多くの学校・先生方から伺います。

では、スクール・ポリシーを起点としてどのようにカリキュラム・マネジメントを適切に行い、教育活動の改善を計画的に図っていけばよいのでしょうか。

2023年3月15日(水)、オンラインで実施した本セミナーでは、岡山市立操南中学校 竹島 潤先生を講師に迎え、スクール・ポリシーに示した育成を目指す資質・能力の成長と各種教育プログラムの効果検証を客観的かつ定量的に行いながら学校教育目標の具現化を進める同校の取り組みを具体的にご紹介いただきました。

 

【講師】

竹島 潤先生(岡山市立操南中学校 教諭)

 

本校は、全校で800名以上の生徒を抱える岡山市内の公立中学校です。「心豊かな自立した生徒を育てる」という教育目標の下、現校長は学校経営方針として「自己実現の支援(自分を高める)」「社会性の育成(豊かな人間性)」「地域との連携(共に生きる)」という3つの柱を掲げています。大切にしているキーワードは「つながる」、そして「よりそう」です。

 

学校経営で大切にしているキーワードを反映したカリキュラムの開発

私が本校に赴任して最初に着手したのは、「総合的な学習の時間」のカリキュラム開発でした。公立中学校では系統立った活動を実施できていないケース、あるいは、学校行事の準備が中心となってしまい本来の学習が成り立っていないケースも多く見られますが、学校として良い目標や取り組みがせっかくあるのだから、それらにつなげていけるより良い総合学習を実現できないか、と考えたのです。

地域と仲間について知ることで愛着を持ち、地域や学区にどのような課題や宝があるのかに気付き、理解を深め、広げていく。本校の大切にしているキーワード「つながる」「よりそう」に合致するのはそのような総合学習だと考え、カリキュラムを組んでいきました。まずは入学直後の1年生向けに、地元の公民館や地域住民、NPOなどと連携した地域フィールドワークを導入。町内会の皆さんと相談しながら新たに作成した6つのコースから1つを選択し、4人班で計画を立て、名所を調べ、地域の方にお話を聞いたり、マップやDVDを活用したりして学びを進めます。SDGs、そして持続可能な街づくりを重視している岡山市では、学校の経営計画でもESD(持続可能な開発のための教育)やSDGs達成につながる教育という視点が求められます。2030年の操南中学区がどうあるべきか、そのために何が必要か、自分たちにできることは何かと考えることを通して視野を広げられるようなカリキュラムを目指しています。

同時に、学校行事もこのフィールドワークを起点とした内容へと見直し、新たな単元プログラムも導入しました。昨年度のプログラムは、身近な海や川を見る中でゴミが多いと感じる、豪雨の時に用水路が溢れるなど災害に対するリスクが高いと感じる、という生徒たちの意識をテーマに採用。取り組みの中で、「誰も取り残さない世界、誰も取り残さない操南中を目指して行動する」というSDGs宣言も採択しました。学んだことや取り組みを公民館や発表会で発信したり、ゴミ拾い活動で拾ったゴミを用いたアート作品を作ったり。今年度は環境省の授業や、他県と共に学ぶ取り組みも導入しました。地域の店舗や地域の人々の協力も得ながら、市内から県内、さらには別の地域へと連携する地域を広げつつあります。

干拓地であることから元来地域的に熱心に取り組んでいる防災についても、勉強会や地域連携行事に参加したり、その様子を広報委員会が発信したり。得た知見を防災サミットや市の危機管理室などと共有する場を持ったりもしました。

 

地域に関する事柄に取り組む中で、生徒たちの目は自然と海外にも向いてきて、英語科を中心としてオンラインでの国際交流会も行っています。ウクライナの緊急支援プロジェクトもかなり早いタイミングで実施し、さまざまな場所で募金を募ったり、大使館やお祭りでペーパークラフトワークを展示する活動も行いました。トルコの緊急支援プロジェクトも全校を挙げて取り組んでいます。このスピード感はこれまでの活動の成果の一つだと感じています。

こんな風に総合学習や学校行事、生徒会活動を連動させたプログラムを実施していくと、それぞれの活動の実行委員にさまざまな生徒が参加してくれます。彼らと一緒にプログラムを作り、発信していくという活動を一つずつ積み重ねていっています。

 

育みたい力の成長を「Ai GROW」で可視化

こういった取り組みを進める中で、学校内では、やることや負担が増えるという声や、どんな効果があるのか?と疑問視する声もありました。通常の授業や部活、生徒指導などもあり、働き方改革も重視される中、これらの取り組みの効果をしっかりと可視化して示すことが必要だと考え、昨年度は自分の担当学年で「Ai GROW」を導入。学校経営計画の中でキーワードになっている言葉「心豊か」「自立」「つながる」「よりそう」などに「Ai GROW」のコンピテンシー項目を当てはめ、成長を確認しました。手ごたえを得て、今年度からは全校で活用しています。

今年度からの全校導入に向けては、非認知能力の第一人者である岡山大学の中山芳一准教授による職員研修を行い、子どもたちに育みたい力、現校長が掲げる3本の軸がうまく実現できているときの生徒の姿を具現化するワークショップを実施。最終的に「自己実現力」「社会性」「共生力」の3つのキーワードを教育目標につながる構成要素として導き出し、生徒たちのこれらの力の成長を「Ai GROW」で可視化しています。「自己実現力」は「個人的実行力」と「自己効力」と「決断力」、「社会性」は「表現力」と「共感・傾聴力」、「共生力」は「創造性」と「影響力の行使」と「地球市民」によって測定。それぞれの力をどのコンピテンシー項目で測るのかということについては、ワークショップで確認した具体的な姿を基に、IGS株式会社にも相談しながら決定しました。新年度からは、「社会性」に「誠実さ」も加える予定にしています。

      

 

「Ai GROW」の受検結果を学年全体で見てみると、7項目でプラスの変化が。総合型学習のカリキュラム改革というこの方向性は間違っていないと確信を得て、これからも頑張っていこうと思いを新たにしました。特に、「表現力」と「創造性」が統計的に有意に伸びている結果を受け、学年会議でも、生徒自らが課題を設定し、思考、表現する学習活動を重視していることや、地域と世界、個人と社会、思考と行動などを往還させる取り組みを継続していることが良かったのではないか、という話などが挙がりました。学年団の先生でこのような具体的な振り返りを行い、意識を共有できたこと自体も、「Ai GROW」導入後の大きな変化の一つです。

また、「一つでも実行委員会に参加した生徒」という切り口で見てみると、「個人的実行力」「表現力」が大きく伸びていました。取り組み内容を発信したり、全体のために動いた経験が力の伸びに貢献しているのではないかと考えています。最近では、リーダータイプの生徒だけでなく、これまでこのような活動に積極的に参加したことがない生徒たちも実行委員会に多く参加してくれるようになり、とても嬉しく思っています。

取り組みがメディアに取り上げられることもあり、これらの取り組みがもたらす効果について、メディアや地域の人から質問を受けることも。そのようなときには、「Ai GROW」のデータも提示しながら説明しています。特に、閉じた環境では伸びにくいと考えられる「共生力」がしっかり伸びていることは、外部に説明する上でも、取り組みを続ける上でも大きな自信になっています。

 

生徒自身が強みを掘り下げ、言語化するための振り返り

「Ai GROW」の活用においては、このような教育目標に対する成長の見える化、教育プログラムの効果検証はもちろん、生徒にとって自身の強みや良さを自覚し、伸ばす機会になるように、ということも重視しています。単なるスコアの確認で終わらせないために自作のシートを活用した生徒自身による受検後の振り返りを実施し、「どのコンピテンシーを伸ばしたいと思うか」、「その力を高めるためにどういう場面でどういうことをしていったらよいか」を考え言語化させることを大切にしています。また、せっかくの振り返りも時間が経つと忘れてしまうため、さまざまな活動の中に「Ai GROW」の個人レポートを見直す機会も盛り込むようにしています。「Ai GROWが強みや良さを見つめ直す機会になっているか」というアンケートを生徒に取った際、高かったクラスでは86%、学年平均では75%程度の生徒が「はい」と回答しました。この数値をもっと上げていけるよう、振り返りについてもさらなる工夫を進めていきたいと考えています。

 

 

生徒の資質・能力の可視化が学校にもたらす効果

教育目標から資質・能力を構成要素として明確化する。それらを「Ai GROW」のコンピテンシー項目と紐づけて、受検結果から成長を見とる。伸ばしていきたい力を高められるような単元学習プログラムを作る。本校の中では、「Ai GROW」による資質・成長の見える化により、このサイクルがうまく機能し始めています。教育目標の具現化、その評価、改善を根拠を持って行えること以外にも、教員としての手ごたえや見取りに客観性を加えられること、生徒に関する情報を他の先生方とも共有しやすいこと、一人一台の端末を有効活用できること、生徒の仲間に対する意識が高まっていることなど、さまざまな効果を実感しています。

来年度は、3年間の「Ai GROW」データを活用した「操南中学校の3年間全体で伸ばせる力」の可視化や、生徒が自身の強み・成長を見とる力の向上にも力を入れていく予定です。「生徒の自己理解」と「教育の効果検証」の両面で「Ai GROW」の活用を押し進め、教育目標である「心豊かな自立した生徒」の育成を目指し、一歩一歩取り組んでいきたいと考えています。