大きな転換期を迎えている大学入試。選抜方式や試験問題が多様化する中、いかに進路保障し、進学実績の維持・向上を図っていけばよいのでしょうか。また、⾃ら課題を発⾒し、学び、考え、判断し、課題を解決する資質・能⼒を育む探究型学習は、総合型選抜はもちろん、考える力、活用する力、表現する力などが求められるようになる一般選抜においても、実績を伸ばしていくために重要な教育機会になることは間違いありません。
2022年11月19日(土)、弊社主催の先生向けセミナーとしては初の対面形式での開催となった札幌での本セミナーでは、大手予備校などで総合型選抜入試に向けた指導で実績を上げるキャリアデザインアドバイザーの川村一雄先生を講師に迎え、総合型選抜入試を活用して生徒の成長を促す具体的な方策をご紹介いただきました。(川村先生には同内容で大阪でもご講演いただきました)
【講師】
川村一雄先生(教育系上場企業、キャリアデザインアドバイザー)
総合型選抜入試を取り巻く現状
拡大する総合型選抜入試。先生方は、総合型選抜入試にはどのようなイメージをお持ちでしょうか。際立つ実績のある生徒向け、生徒会長などアピール材料に事欠かない生徒向けの入試。確かにそのようなイメージを持たれるケースは多いと思います。他にも、スポーツや芸能などでの顕著な活動をアピールする「一芸入試」、さまざまなプログラムに参加できる私立中高一貫校の生徒が有利な入試、大学側が楽に確実に生徒を獲得するための入試、といった声も聞かれます。
大学受験予備校で総合型選抜入試に向けたさまざまなコンテンツを作る担当者として、総合選抜入試が万能であるとか、真の入試であると主張するつもりはありません。実際、前述の声は、一部その通りではあります。しかし、それが全てではありません。
総合型選抜入試の4つのパターン
私は、総合型選抜入試には4つのパターンがあると考えています。まず1つ目は、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)のAO入試のような「とがった人材獲得型」です。強い目的意識を持って行動するだけでなく、客観的な評価(≒実績)も得ている生徒向けで、小手先の受験テクニックで合格に導くには難易度が高いと思います。2つ目は、大学が課した入試課題をこなすもので、名付けるなら「熱意・努力型」。時間や労力がかかりますが、その大学への熱意があればこなせますし、その努力が報われやすい入試方法です。3つ目は、探究型学習や自己研究、部活動での成果など学校内での活動を評価するもので、名付けるなら「学校生活型」。そして4つ目が、学生獲得の手段として実施されているパターンです。今回は、先生方のサポートによって合格の可能性をより高められる「努力型」と「学校生活型」についてお話ししたいと思います。
総合型選抜入試で求められる力
まずここに、上智大学総合人間科学部社会福祉学科(公募推薦)向けの志望理由書(自己推薦書)が2種類あります。より評価される志望理由書はどちらでしょうか。
答えはA。その理由は赤字の部分です。まず、Aには具体的に大学の授業名が盛り込まれ、他の学科の講義を履修できることも書いてあります。学科名のイメージだけで志望しているのではなく、その大学・学部で学ぶ内容(≒学問内容)をきちんと理解していることが伝わります。上智大学は、上記した4パターンの内「熱意・努力型」に分類されると思います。私たちも、総合型選抜入試での受験を希望する生徒には、シラバスまで確認し、学問理解をするよう指導しています。さらに、長所の書き方にも差があります。「リーダーシップがある」など、一般的な長所をアピールするのではなく、長所となる能力を自分なりにさらにかみ砕き、学ぶ分野や自分の将来にどう役立てられるのかということを書いています。イメージだけで済ませずに、きちんと調べる、そしてアピールしたい能力を自分の言葉で置き換える。この2点は、志望理由書における最低限の目標とするべきだと思います。
総合型選抜入試で求められる力には、大きく3つあります。「学問内容の理解」「フィット感」「成長性」です。まず「学問内容の理解」は、調べ方を教えてあげれば誰でもできるようになります。次に「フィット感」ですが、これは大学が掲げるアドミッション・ポリシーで求められている力を理解した上で自己をアピールできるかであり、医歯薬や栄養などの資格系学科であれば専門領域への適性も含まれます。このことに自ら気付ける生徒は少ないのですが、実はここがとても大事です。私は、「みんなが自分の価値観を知ってほしいと思うように、大学もそう思っている。大学や学部・学科が発信するメッセージや情報を読解することで信頼関係が築ける(≒合格)」と、生徒たちに話をしています。「成長性」は、俯瞰(ふかん)的に自分の能力を把握できるメタ認知力と、謙虚に自分の成長に必要な行動を起こせる素直さです。
その他、時間などの制約がある中で、初対面かつ専門家の大人に自身の強みや可能性をしっかりとアピールできることも大切です。
以前、高校生のうちに起業してかなり成功をおさめていたのに、総合型選抜入試で合格にいたらなかった生徒がいました。総合型選抜の合否は、一見きらびやかな実績だけで決まるのではなく、まさに「総合的」「多面的」「複合的」に判断されます。多くの大学で重視される要素は、受験生の「ここで学びたい」「これを学びたい」という姿勢や可能性です。現時点で「完成された」状態であることよりも、目標に向かって「発展途上」の自分をしっかりと見せられることが求められます。
アドミッション・ポリシーを読み解く
アドミッション・ポリシーについてもう少し掘り下げてみましょう。大学として、そして学部・学科としてのポリシーはもちろん確認すべきですが、入試制度ごとのポリシーを用意している大学もあります。例えば立教大学経営学部では、いわゆる総合型選抜入試である「自由選抜入試」向けに、「経営学部の各学科に関連した高い能力をもつ者、あるいは学業以外の諸活動の分野に秀でた個性をもつ者で、本学ならびに経営学部の教育目的を理解し、そこで学びたいという熱意を提出書類及び面接の内容に多面的・総合的に評価し、選抜することを目的とする」という、指定校推薦入試とは違ったポリシーが用意されています。
「経営学部の各学科に関連した高い能力」とあることから各学科に関する十分な理解が必要なこと、「学業以外の諸活動」とあることから学校外の社会と関わる活動の充実が重要だと分かります。ただ、これならばあらゆる活動をアピール材料とすることも可能なのではないでしょうか。「生徒会をやっていないから」など、経歴の一部だけで自分を評価しがちな生徒も多いですが、生徒にはさまざまな能力が評価されうることも伝えるとよいと思います。
実は一般入試に向けても、このようにカリキュラムや理念を読み、大学や学部・学科に対する理解を進めることは重要です。例えば、同じ経営学部でも、立教大学と上智大学では学内に用意されているプログラムや留学制度などに大きな違いがあります。最終的にどのような方法で受験するかは別として、低学年のうちから大学について調べることで、モチベーションも高まります。「この大学・学部だから行きたい」という気持ちをしっかり持つことは、一般選抜入試に向けても大きな力となります。
総合型選抜入試で合格を勝ち取る生徒とは
それでは、どのような生徒が総合型選抜入試で合格を勝ち取るのでしょうか。具体例を挙げてみたいと思います。慶應義塾大学文学部の総合型選抜入試(自主応募制推薦)に、要約すると「英検準1級に合格した」ということのみをアピールして合格した生徒がいました。ボランティアや留学、社会貢献など、そういった活動に関するアピールは一切ありませんでした。しかし、この生徒は、英検準1級を獲得するための努力を1日単位で記録し、長文読解における成長を1カ月ごとに振り返り、演習不足を解決するなど、並々ならぬ努力を重ね、その過程を深掘りしながら自分の課題発見・解決能力をしっかりとアピールしたのです。慶應義塾大学の精神には「実証的に真理を解明し問題を解決していく科学的な姿勢」として「実学」があります。当然、この入試の試験内容には小論文や英作文もありますので、合格には高い英語力と読解力は不可欠です。その上で、最終的な合否を左右する書類での評価を得るためには、統一感や一貫性に欠ける薄い情報を書くのではなく、大学・学部の求めるものを理解し、ポイントを絞って深掘りした内容を書くべきでしょう。
私は、総合型選抜入試に強い生徒の特長は、コンピテンシーでいえば「課題設定力」と「自己効力」だと感じています。自分が何をやりたいのか、解決するためにはどうしたらよいのかを考える。当たり前と受け入れるのではなく、自分でしっかりと考え、必要なものは取り入れ、そうでないものは捨てる。自分ならできる、今はできなくてもいずれできると考え粘り強く続ける。このような力です。
では、視点を変えて、一般選抜入試で結果を残せるのはどういう生徒なのでしょうか。もちろん記憶力なども重要だとは思いますが、自己点検ができたり、粘り強く前向きな学習姿勢を備えていたりする生徒を思い浮かべる先生も多いでしょう。それは、言い換えれば前述のようなコンピテンシーで説明がつくのではないでしょうか。目指すべき目標を見つけて計画を立て、自ら工夫しながら勉強する力、模試で良い結果が出なかったときにも最後まで頑張ろうと思えるような力です。自分で勉強して難関大学に合格するような生徒はこの能力がすでに身に付いていますし、まだ発展途上の生徒も、こうした力があれば、学力は伸びていきます。総合型選抜入試と一般選抜入試で求められる力は、根幹の部分では同じなのではないでしょうか。
教育効果の最大化と教育工数の最小化
この「共通する能力」を育むという視点を日常的な指導で持てるかどうかで、指導の質や効率性が変わります。「教育効果の最大化」と「教育工数の最小化」の両立は、総合型選抜入試や探究型学習など大きな変化の時期を迎えている中等教育が避けては通れない命題です。その際にポイントになるのが、共通の能力を伸長させる指導だと考えます。私は、学力を伸ばすために必要な力と、自分のやりたいことに向かって主体的に行動する力の根底は、共通していると思っています。例えば、一般選抜では一見不要と見なされそうな「周囲を巻き込む力(協働性)」は、受験期に先生や友人からアドバイスをもらえる、受験校に関して家族の理解を得られるなど、理想的な学習環境を自ら作り出す際に必要です。また、他者に対して論理的に説明する能力は、未知の新単元を脳内で整理して理解する力と同様です。このように、各科目の知識面ではなく、下支えとなる能力を注視して指導することで、どの入試制度にも対応できる普遍的な学力を育むことができます。
能力を把握し、深掘りし、補強し、変化を知るサイクル
私は、総合型選抜入試に向けた準備で生徒に能力の深掘りをさせる際、「状況・思考・行動・影響」の4点で考えさせるようにしています。強みや能力をアピールできるのは、この4点がそろっているときです。特に、大学側は状況の5Wの中のWHY(なぜ)、行動のHOW(どのように)を重視します。ここに、価値観と能力が表れるからです。
また、長所と強みは違うということ、長所を聞かれても強みを答えるようにするということも伝えています。長所は優しい、忍耐強い、などの一般的な項目ですが、強みといえるには、その能力で生み出せる成果や、学問探究や仕事への適性アピールというレベルまで伝えることが必要です。これにより、1日に何人もの生徒を見なければならない面接官の中での印象の残り方が変わります。
このように、総合型選抜入試において強みのアピールは不可欠ですが、多くの生徒はそもそも求められる能力の名前や種類をそれほど知りません。能力名を知ることは多様な評価基準を知ること、そして、自分でも気付いていない自身の強みや課題の把握につながります。定期的な受検によりその成長も可視化できるアセスメント・ツール「Ai GROW」があれば、生徒はまず、コンピテンシーに触れ(能力の種類を知り)、評価される能力はさまざまあることを知ることができます。前述のように、ここで測ることができる能力は、総合型選抜入試だけでなく、一般選抜で求められる力でもあります。さらに、受検結果から自分の能力と課題を知り、対話を通して深掘りし、補強する体験を意識的に積み、再度受検し変化を把握する、というこのサイクルを繰り返すことによって、自身の強みや魅力を他者に根拠をもってしっかりと、具体的にアピールできるようになります。「Ai GROW」によって先生と生徒の双方が早期に能力を把握して育成できれば、面接で肝になる自己アピール部分に対する指導や推薦書作成など、先生方の労力も削減されるでしょう。
私がもし、高校の先生になったなら、計算力や暗記力など「一見」学力向上に直結しそうな能力ではなく、学力に対する「姿勢」を育てることに重点を置きます。総合型選抜入試で求められる力と、一般選抜で求められる学力向上につながる学習姿勢は、根幹は同じ能力です。この姿勢が備われば、生徒は自分で課題を見つけて解決し(疑う力、課題発見・解決力)、また次の課題に向かう(自己効力・個人的実行力)ことができるはずです。勉強・部活動・探究活動など、高校での活動すべてを通してコンピテンシーを高められれば、総合型選抜入試と一般選抜入試のどちらへも切り替えられます。大学合格は最終目的ではなく、ましてや総合型選抜入試は大学の入試方法の一つに過ぎません。総合型選抜を、部活動や探求学習などの学校内外での充実した活動のすべてを生かした入試と捉え、一般選抜にもつながる能力を育む取り組みを、今後も続けたいと思います。