2022年10月27日に「Ai GROW」ご採用校の先生向けオンラインセミナーを開催。柔軟かつ自由な「個別最適化」の実現を目指し、共通言語化したコンピテンシーを軸に一人ひとりに寄り添った学びを提供している上野学園中学校・高等学校の藤井亮太朗先生に講師としてご登壇いただき、「Ai GROW」の活用方法を具体的にお話しいただきました。
【講師】
藤井亮太朗先生(上野学園中学校・高等学校 教諭)
本校は1904年に女子高として創立され、2007年に共学化した東京都台東区にある私立中高一貫校です。優しく創造的な人を育てるという教育目標の下、共学化以降、学びの形を少しずつ進化させています。上野という立地もあり、学校生活のさまざまな側面に音楽や芸術が溶け込むようなカリキュラムをベースに、対話による温かな愛情に満ちた人間関係、根拠に基づいた双方向の学びの環境を教育特性としています。
軸となる「探究的な学び」と「対話」
学校全体の学びのビジョンの幹となる縦軸には「探究的な学び」があり、これを横軸である授業や行事をはじめとする学校内外の活動で広く展開しています。探究を通した教育活動の中で、本校では「対話」を大切にしています。単なる面談ではなくきちんと「対話」となるように、話をした後に考え方がバージョンアップしているか、ということをひとつの指針としています。学校内のいたるところに「対話」がある状態を目指して取り組んでいるため、年間45回の対話記録がある生徒もいます。
形式は1on1で行う場合も複数名で実施する場合もあり、学校全体で無理に一律化するようなことは行っていません。そのため、対話の実施回数も生徒により異なりますが、平等性の観点には留意しつつも生徒の主体性や生徒同士の高め合いを大切にしています。自ら「対話」の機会を求める同級生に刺激を受け「対話」を希望したり、先生の都合がつかないときは生徒同士で話してみたりするなど、近年は「対話」の「エコサイクル」が学校全体で少しずつ回り始めているのを感じます。
「対話」を重視するようになった背景にあったのは、生徒募集、進学実績、学習到達度など、本校が抱えていたさまざまな問題です。当初、これらの課題を解決しようと徹底的に学習の詰め込みを行い、その学習や受験対策の管理方法として個人面談を行っていた時期がありました。しかし、あれこれ管理することで先生も生徒もやらされ感を強く感じるようになり、さらなる問題が発生するようになってしまったのです。
目指すべき主体性や創造性とはかけ離れたその状態をどう立て直すか、その解決の糸口として導入したのが「探究的な学び」です。一人ひとりと向き合うというこれまで重ねてきた面談の良い経験値を生かしつつ「探究的な学び」を導入したことで、「対話」を通した本校なりの個別最適化が見えてきました。すべてを個人に合わせるというのではなく、何を感じ、どんな思いで、どう選択するのかというプロセスに視点を置いた、柔軟な個別最適化です。
教育活動の分析から「対話」を支えるツールとしての「Ai GROW」活用の広がり
その柔軟な個別最適化をさらに進化させていくには日々の教育活動の有効性を改めてしっかりと分析することが必要だと考え、3年前に導入したのが「Ai GROW」です。これにより、教員の経験知だけでなく生徒一人ひとりの視点、行動特性の成長を踏まえ、Aiによる補正と客観的評価を取り入れつつ教育活動を多面的に分析できるようになりました。その中で、「対話」はさらにその重要度を増していったのです。
当初はこのような目的で導入した「Ai GROW」ですが、「対話」の重要度が上がるにつれ、その受検結果は「対話」をする上でのデータやネタとしても不可欠なものになっていきました。本校における対話軸には「先生to先生」「先生to生徒」「生徒to生徒」「生徒to先生」という4方向があり、現在、「Ai GROW」はこのすべてにおけるコア・ツールとなっています。「Ai GROW」を軸に、あらゆる場所に「探究的な学び」と「良質な対話」がある学校へと生まれ変わりつつあります。
さらに、ICTを活用しながら行う「探究的な学び」の諸活動と「対話」の位置付けを学校全体でしっかりと確認できるようにするため、全活動を一枚にまとめたビジュアルサマリーも作成しました。これにより「対話」の要となっている「Ai GROW」の立ち位置を明確にできたことで、先生方の中でも「Ai GROW」に関する理解が進み、学校全体でより活用しやすくなったと感じています。
「Ai GROW」で「対話」の解像度を上げ、情報鮮度を高める
「Ai GROW」は、行事や学期の前後で受検させ、結果の変化を確認しています。本校における「Ai GROW」活用の大きな特長は、受検後にリアルタイムでフィードバックされる個人レポートを「対話の解像度を上げるツール」として活用していることではないでしょうか。「対話」の際には、「Ai GROW」の個人レポートをデジタルデータで用意し、生徒も先生もそれぞれそこに書き込みを行いながら話をします。
このような「対話」を粘り強く続けることで、目に見える変化も。探究のポスター作成でも、学期を振り返るエッセイでも、半年間で劇的な変化が見られるようになっています。その変化の前には「対話」があり、教育があり、そして変化の後にまた「対話」があります。この一連の流れを支え、さらに高めるためのツールとして不可欠な存在となっているのが「Ai GROW」なのです。
以前は、私自身も最高の指導計画を立てることがもっとも重要だと考えていましたが、状況に合わせて変更していくことの重要性が高まっている、必要なのは、最高の指導計画よりも最新の情報ではないか、という思いに変化してきました。「対話」の中にこそ最新の情報はあります。「Ai GROW」の結果を基に毎週のように行っている「対話」が、情報の鮮度を高めてくれるのです。
学校内の「対話」から、その先へ
クローズドの環境で行われていた面談と違い、「対話」は生徒が選べるとはいえ、オープンスペースでの実施も増えてきました。学年の先生、担任の先生など関係なく、色々な先生とたくさん「対話」ができる環境を作っています。柔軟性と自由度を保ちつつも、先生はしっかりと「対話」の記録を取り、先生間で共有できるようにもしています。まだまだ発展途上の状況ではありますが、生徒たちが目を輝かせて自分や将来についてたくさん語ってくれるような、そしてその周りには仲間がたくさんいるような学校になりつつあると感じ、嬉しく思っています。
ここ数年で、私たちを取り巻く環境は大きく変化していますが、学校教育もそれに合わせ変わっていく必要があるのではないでしょうか。今まではパブリックな空間とプライベートな空間が物理的に隔てられ、先生も生徒も狭いコミュニティごとにコミュニケーションを取れば良かったのですが、その境目があいまいになり、先生も生徒もひとつの空間で外側、内側のあらゆるコミュニケーションを取らなければならなくなっています。
これにより従来の教育手法も変わっていく必要があるのではないかと思います。私自身も、授業での反応が変わってきていることを実感しています。人間関係の構築や対話方法に関しても、意識的な工夫が必要なのではないでしょうか。あらゆる場面においてコンピテンシーを意識することの重要度が上がっている、今はその過渡期にあると感じています。今後は校内だけではなく、学校の枠を超えた「学びの越境」にもぜひ取り組んでいきたいと思っています。