学習指導要領において、体力・技能の向上のほかにさまざまな学びの場として位置付けられる部活動。特に体育会系部活動は、経済産業省が進めるプロジェクト「未来の教室」実証事業でも分野横断的な学びの場として重要視されています。一方で、先生方の働き方改革という側面からも、部活動のあり方は模索されています。そこで、これからの部活動のあり方を探るべく、部活動の教育効果をテーマにオンラインセミナーを実施。第2部では史上初の高校サッカー3冠を成し遂げたサッカーの強豪校さいたま市立浦和南高等学校のテクノロジーを活用した部活動改革の事例に迫ります。
第1部「元ラグビー日本代表キャプテン廣瀬俊朗氏に聞く部活動の可能性」の記事はこちら
廣瀬さんも言及されたように、部活動の最大の目的は「生徒の成長」です。その実現には、勝敗の結果を見るだけでなく、資質・能力の伸びを可視化して評価できるようにすることが必要です。そこで今回は、テクノロジーで部活動の教育効果を可視化し改革に生かすさいたま市立浦和南高等学校の事例をご紹介します。
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[ICT導入プロジェクト概要]
目的:テクノロジーの力を活用することで部活動の教育効果を最大化する
実施時期:2019年度〜2020年度
実証校:さいたま市立浦和南高等学校
◆「SPLYZA Teams」の導入
サッカー部、女子バスケットボール部、男子ハンドボール部、女子ハンドボール部に、「SPLYZA Teams(チームスポーツ向けの戦術分析アプリ/株式会社SPLYZA提供)」を導入。生徒が自ら練習や試合をスマートフォンなどで録画、コメントを書き加えるなどして動画編集し、自主的に振り返ることができる環境を整える。
◆「Ai GROW」による調査でビフォー・アフターの教育効果を可視化
「SPLYZA Teams」と部活動の教育効果を調査するため、期間を空けて生徒に「Ai GROW(生徒の資質・能力と教育活動の教育効果を定量化するアセスメント・ツール/弊社提供)」を受検してもらう。
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「学力に直結する力」も伸びていた体育会系部活動
サッカーの強豪校として知られるさいたま市立浦和南高等学校は、テクノロジー活用によるスポーツ事業創発コンソーシアム「Sports-Tech & Business Lab」に高校として全国で唯一参加しています。「ICT導入プロジェクト」では、部活動および「SPLYZA Teams」の効果測定のため、体育会系・文化系部活動に所属する生徒、部活動に所属しない生徒を含めた全校生徒に「Ai GROW」を2度受検(初回:2020年7月〜8月、2回目:2020年11月〜12月)していただきました。
2度の受検の結果、「学力の3要素」の思考力に相当する「論理的思考」は、サッカー部、ハンドボール部に加え、他の体育会系部活動でも標準偏差、最小値、中央値が向上していました。思考力は学力と相関の高い能力ですが、体育会系部活動でも伸ばせることが確認できたといえます。
「主体性」に関しては、女子ハンドボール部の生徒は最小値が向上して底上げされました。その一方で、男子ハンドボール部では平均値、最小値が下がり、最大値が伸びていました。このように、同じ部活動で異なる成長や変化が確認された場合は、「部活動」というレイヤーより一つ下げて、生徒一人ひとりの受検結果を見て、「特に成長したのは誰なのか?」「練習メニューをどのようにこなしていたか?」などを分析することで、有効な部活動への取り組み方が明らかになっていきます。
「協働性」は、サッカー部、女子バスケットボール部、その他の体育会系部活動、文化系部活動を含めて大きな向上が見られ、部活動を通して他者と協働する力が養われることが明らかになりました。今回のセミナーのテーマでもある「リーダーシップ」も、多くの部活動でかなりポジティブな変化を確認できました。また、「耐性」「感情コントロール」は、多くの部活動で成長していることが確認できた一方、部活動に所属しない生徒さんは全体的にスコアが下がってしまっており、耐性を高める、感情コントロールを養う、という意味においても部活動が有用に働いていると考えられます。
「始める」にも「やめる」にも必要なのはエビデンス
セミナーにも参加いただいたさいたま市立浦和南高等学校の先生方からも「生徒が自分を客観視できるようになった」「自分たちで課題を見つけられるようになった」「部活動内でのやり取りが活発になった」という声が聞かれ、同時にさまざまなコンピテンシーが伸びたことが確認できました。ここから見えてくるのは、生徒が自ら考えられる環境を整える重要性です。これは、先生方の働き方改革にもつながります。
また、ハンドボール部には、特に伸ばしたい能力(キー・コンピテンシー)をあらかじめ設定し、キー・コンピテンシーを伸ばすための月1回のPBL(Project-Based Learning)にも取り組んでいただきました。その結果、設定した「思考力」「感情コントロール」が両者ともに伸び、「伸ばしたい能力を事前に決めて対策を行うことで効果的に成長させられる」こと、それが部活動で可能だということが明らかになりました。
生徒の資質・能力の変化に関してデータを取得することは、部活動はもちろん、日頃の教科指導、学校行事などでも生かすことができます。何か新しいことを始める際にも、これまでやってきたことをやめる際にも、データを基にしたエビデンスを獲得し、自信を持って改革を進めていただければと考えています。
【先生からのコメント】勘と経験から脱却し、データを生かした教育を
(さいたま市立浦和南高等学校 教頭 橋 功先生)
コンピテンシーに関してはこれまで数値化することが難しく、われわれが勘と経験に頼っていた部分ですが、数値を出して、それを基にさまざまなことを検討していけるのは非常にありがたいと感じています。最初は私も「本当にこれで生徒の資質や能力が数値化できるのか」と疑問はありましたが、実感値と非常に高い相関性があるということが確認できました。今後、取得したデータをわれわれ教員がどう生かしていくかが非常に大事だと考えています。
編集・執筆:株式会社REGION