学習指導要領において、体力・技能の向上のほかにさまざまな学びの場として位置付けられる部活動。特に体育会系部活動は、経済産業省が進めるプロジェクト「未来の教室」実証事業でも分野横断的な学びの場として重要視されています。一方で、先生方の働き方改革という側面からも、部活動のあり方は模索されています。そこで、これからの部活動のあり方を探るべく、部活動の教育効果をテーマにオンラインセミナーを実施。第1部では元ラグビー日本代表キャプテンの廣瀬俊朗氏にQ & A形式でお話しいただき、第2部では史上初の高校サッカー3冠を成し遂げたサッカーの強豪校さいたま市立浦和南高等学校のテクノロジーを活用した部活動改革の事例に迫ります。
廣瀬氏が考える「勝つための部活動」からの抜け出し方
Theme 01:リーダーシップの育成
Q.そもそも「リーダーシップ」とはなんですか?
たとえば仲間内で「どこか行こうぜ!」と提案することもリーダーシップで、誰でも素養は持っています。スキルを磨けば誰でもある程度は発揮できるようになるものだと考えています。
Q.リーダーシップを育成するにはどうすればいいですか?
リーダーシップの育成で一番大事なのは「その人が本当に実現したいこと」を見つけるところ。それさえ見つかれば、リーダーシップは発揮できると考えています。また、心の底から「こういうことをやりたい!」と思っていれば、周囲は「じゃ、助けようかな」と動きます。
Q.新型コロナウイルス感染拡大で活動が制限されるなか、部活動のリーダーにどんなアドバイスができますか?
2020年は部活動の練習がなくなってしまい、キャプテンがプレーでリーダーシップを発揮できなくなってかなり悩んでいました。「オンライン・ミーティングでみんなを引っ張れと言われてもどうしたらええねん」みたいな感じで。
そんなとき僕は「そもそも何でラグビーをやっているの?」と問い掛けます。「勝ちたいから」と答える人が多いのですが、「なぜ勝ちたいの?」と問いを重ねると「みんなで何かを成し遂げることが楽しいから」「みんなで喜びたいから」というようなことが出てくる。
「優勝したときに誰と喜びたいの? 試合に出ている人だけで? それとも全員で?」「みんなで喜びたいなら、みんなで喜べるような声掛けをしている?」と、さらに掘り下げると具体的にやるべきことが見えてきて、オンライン・ミーティングで何をすればいいのかという糸口も見つかるはずです。
Q.部活動でリーダーシップを発揮できていない生徒に対してはどう指導すればいいですか?
全員がリーダーになるのはしんどいし、必ずしも全員がリーダーになる必要もないと思います。「良いフォロワー」として生きるのも1つの選択肢です。
良いフォロワーとは、チームの方向性を踏まえて動けること、リーダーの気持ちになれること。ちょっとレベルは高いですが、リーダーのやり方に疑問を感じたらしっかり伝えてリーダーを育成できることも大事です。
Q.キャプテンとして失敗した経験はありますか?
選抜チームや社会人のチームでは、自分より年上の人、うまい人がいる中でリーダーシップを発揮していかねばならず、失敗も多かったですね。東芝ブレイブルーパスのキャプテンだったとき、「前のキャプテンだったらどう考えるか? 何て言うか?」と前任者のまねばかりしていたら自分らしさがなくなり、チームメートもついてこなくなって試合にも負けてしまったということがありました。
そこでチームメートにアンケートを取ったところ、辛らつな意見がたくさん寄せられて。ただ、僕は自分だけが苦しいと思っていたのですが、アンケートを読んだら「みんなも苦しかったんだ」とわかって、僕のせいで申し訳ないと素直に思えました。そこから自分の考えをしっかり発信したり、自分が何を大事にしているのかを自分自身で理解したりするようにしてからは、周囲から助けてもらえるようになりチームとしてもうまく機能するようになりました。
Theme 02:部活動を通した生徒の成長
Q.廣瀬さんが競技スキル以外に部活動の中で身に付けてきたものは何ですか?
目標さえ決まれば頑張れるレジリエンスのようなものはスポーツで培われたと思います。みんなで何かを成し遂げようとするときに、一人ひとりの気持ちの重要性を考えてコミュニケーションするスキルも磨かれたのではないかと。座学で考えるだけじゃなく、動いて体感する大切さを知ったことも、スキルといえるかもしれません。
Q.ラグビーだからこそ身に付いたスキルはありますか?
ポジションが多く、トップレベルのチームだとさまざまな国籍の選手が所属するので「お互いの違いを乗り越えて良い人間関係ができると良いラグビーができる」という意識を持てるようになったと思います。逆に、テニスや水泳など個人種目の選手に比べると「一人で前に出ていく」のは少し苦手な競技特性があるかもしれません。
Q.「生徒が主体的に活動する部活動」を実現するにはどうすればいいですか?
先生やコーチ主導で生徒のスキルを伸ばすとある程度のレベルまで到達しますが、生徒の卒業後の人生を考えた場合、「成果がそこまで出ないにしても自分たちで考えてその時を過ごす」ということが非常に大切です。学校経営の視点では勝つこと(=成功)が大事かもしれませんが、部活動の本来の目的は生徒が自ら考えて学ぶこと(=成長)だ、という価値観を、管理職の先生を含む学校全体で共有する必要があるのではないでしょうか。
一つの部活動だけで取り組んでもうまくいかないし、3年くらい取り組んでようやく文化が変わってくる、そのくらい手間も時間もかかることだと思いますが、当たり前のことを当たり前にやればいい時代ではなくなっていくなかで、部活動を通して考える力を付けるために、取り組む価値のあることだと考えています。
Q.生徒に「部活動の本来の目的」を考えてもらうには?
「勝ち負け以外で、この部活動に何を残したい?」「どんな人間になっていきたいの?」といった問い掛けをします。もちろん勝たないと面白くないのですが、ほとんどのチームは負けるわけですから、「結果以外のものにも価値がある」と生徒自身が感じられるようになるといいですね。
講師:廣瀬俊朗氏(株式会社HiRAKU 代表取締役/元ラグビー日本代表キャプテン)
【プロフィール】
1981年生まれ。元ラグビー日本代表キャプテン。現役引退後は、経営管理修士(MBA)を取得。ラグビーW杯2019では公式アンバサダーとして活動。試合解説をはじめ、国歌を歌い各国の選手・ファンをおもてなしする「Scrum Unison」や、TBS系ドラマ「ノーサイド・ゲーム」への出演など、幅広い活動で大会を盛り上げた。現在は、株式会社HiRAKU代表取締役として、ラグビーに限定せずスポーツの普及、教育、食、健康に重点をおいたさまざまなプロジェクトに取り組んでいる。
編集・執筆:株式会社REGION
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