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【探究への道 第58回】岡部泰基先生(新潟県立海洋高等学校)

探究への道バナー

チョウザメを通じて、地域産業の課題に挑む—飼育・研究・改善・加工・販売・発信をつなぐ探究

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岡部泰基先生




縁の薄い水産業を自分事に。即応の構えを育む「OODAループ」

本校の「資源育成コース」は、ヒラメやアカムツ(ノドグロ)、キャビアで知られるチョウザメなどの増養殖技術を学ぶコースです。本校には県内外の遠隔地から多くの生徒が入学しており、その約半数が地元以外の出身で、当初は縁の薄かった糸魚川の水産業を「自分事」として捉え直していく過程こそが、本コースの探究の出発点となります。育みたい生徒像は、与えられた手順をなぞる作業者ではなく、課題を自ら発見し、科学技術やICTを用いて解決に近づけ、現場の不合理に気づいて改善案を提示し、地域や外部に向けて自分の言葉で活動の意味を語れるようになることです。

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▲チョウザメ実習の様子。地元の養殖会社と産学連携して、養殖を行っている

探究活動の設計の根底には、一般的なPDCAサイクルではなくOODAループ*を置いています。生きた魚を扱う実習は手筈通りに進むことの方が少なく、変化の激しい社会では、固定した計画を回すよりも、観察し、状況を捉え、判断し、動くという即応の構えの方が有効だからです。その姿勢を前提に、題材を「本物の地域課題」に据え、一つの実習が次の実習の足場になるよう連結しています。チョウザメの養殖を行う地元企業との地域連携、日本大学の糸井史朗教授との高大連携が、現場で意味のある問いを支えています。

*OODAループの4ステップ
 1. Observe(観察):現場の状況や情報を客観的に収集する。
 2.
Orient(状況判断・方向づけ):集めた情報を分析し、現状を把握して次の方針を決める。
 3. Decide(意思決定):具体的な行動計画(どう動くか)を決断する。
 4. Act(行動):実際にアクションを起こす。



雌雄判別の確立から商品開発まで。自走する生徒が創り出した「地域への貢献」

平成27年度より続くチョウザメ養殖において、雌雄判別の正確性が長年の課題でした。1年目に簡便なDNA抽出法とPCRによる雌雄判定法を生徒主体で確立し、切開法と100%一致する精度を得るとともに、雌のみとされた集団に30%の雄が含まれることが判明しました。2年目には、出荷分別における紙台帳照合の非効率に生徒が気づき、タブレットとGoogleスプレッドシートでデータ化することで、1回の実習で扱える個体数を40から150へ拡大。雄個体は、産学連携先である能水商店でフィッシュ&チップスやバーガーとして販売し、抱卵個体からは約2.2kgのキャビアを試作。廃棄される鱗を活かすアクセサリー開発も生徒発案で立ち上がり、各地で販売やワークショップを定期開催しています。

研究成果は校内・地区・全国の各発表大会で最優秀賞を受賞しました。こうした変化は外部指標による測定の結果にも表れ、本コースでは短期間で伸びにくいとされる行動特性(コンピテンシー)に向上傾向がみられます。課題を「自分事」として引き受け解決していく経験が、生徒の意識を飼育者から地域産業の担い手へと変えています。「先輩から引き継いだチョウザメをようやく出荷できた」という言葉が、その変化を物語っているのです。

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DNA分析実習の様子。生徒と一緒に、DNA分析法によるチョウザメの雌雄判別法を開発した



地域の課題を「生徒に届く問い」へ

珍しい題材を扱うことが探究の質を決めるのではありません。地域の中に課題を見つけ、それを生徒の手に届く問いへ分解し、一つの活動が次の活動の足場になるように設計することが要です。教員は答えを与えるのではなく、問いと現場と専門家を生徒に手渡す立場に立つことです。本校にとってチョウザメは、珍しい魚を育てるだけの教材ではなく、地域産業の課題を発見し、科学・ICT・加工・販売・発表を通して解決に近づけていく探究の入口です。同じような入口は、どの学校の足元にもきっと見つかるのではないでしょうか。

新潟県立海洋高等学校
https://kaiyou-h.nein.ed.jp/
航海日誌
http://koukai-nisshi.com/
新潟県立海洋高等学校アンテナショップ「能水商店」
https://www.nousui-shoten.com/

 

※内容はすべて2026年6月当時の情報です。