探究への道

【探究への道 第55回】上野裕之先生(佼成学園中学校・高等学校)

作成者: IGS株式会社|2026/03/16 4:03:36

職員室が「共育」の場に。生徒の熱量が学校の空気を変えた、探究文化の成熟



上野裕之先生



「How」より「Why」から。教員同士の議論で定めた10の資質・能力

本校では2019年度より中学1年から高校2年までの「総合的な学習(探究)の時間」に、課題研究を主軸とした探究型学習を取り入れました。立ち上げに際し、タスクフォースとして探究学習推進委員会(現在は探究学習推進部という恒常的な校務分掌に変更)が組織されました。検討の第一歩は「どう探究をやるか(How)」という方法論ではなく、「なぜ探究をやるか(Why)」、すなわち探究を通してどのような生徒を育てていきたいのかを教員同士で議論することでした。そこで出た意見を取りまとめ、整理して作られたのが下図に示す「10の資質・能力」です。自ら問いや課題を見出し、解決に向けて行動する経験を通して、自らの特性を知り、将来を切り拓いていく人材に育ってほしいという、本校教員の想いが詰まっています。




▲育成を目指す10の資質・能力と、その策定に向けて探究学習推進委員会で議論する当時の様子


中学は「楽しく幅広く」、高校は「学術的に深く」。5年間の段階的カリキュラム

本校では、中1から高2までの5年間をかけて探究リテラシーを段階的に身に付けるカリキュラムを構築しています。中1と中2はトレーニング期間と位置付け、自然観察に基づく探究的な実験、自然と地域社会のつながりに関する調査、地域社会課題解決に向けたプロジェクト活動、地域社会の歴史や文化の文献調査というように、自然科学・社会課題・人文社会学の3タイプの探究にシームレスに触れることで視野を広げます。中3ではテーマの枠を設けず、生徒の興味・関心や課題意識に基づくテーマを設定し、ゼミ活動の中で1年間かけて自身の探究活動に取り組みます。この中学3年間は探究のメソッドの厳密さよりも、生徒に「楽しく」取り組んでもらうことを最重視しています。

高校に進むと高入生も合流。高1の前半では、探究のメソッドやリテラシーを協働的に学び直します。そのうえで高1の後半では自分のテーマに関する先行研究の調査とリサーチクエスチョンへの焦点化を半年間かけて丁寧に行います。これを土台に、高2の1年間で自分の探究活動をゼミ内で深掘りし、最後に修了論文としてまとめます。高3では「総合的な探究の時間」の設定はありませんが、探究を継続したい生徒や、探究の経験や成果を総合型選抜入試などに生かしたい生徒向けに個別講習を開講し、教員や探究チューターの支援を受けながら自分の未来につなげるサポート体制を整えています。


▲探究リテラシーを段階的に身に付ける5年間の探究カリキュラムのイメージ


生徒の没頭と変容が探究に対する学校の空気を変える

2019年度の導入当初は、生徒そして教員の間でも探究の意義が浸透しきらず、「なぜ探究をやらないといけないのか」という戸惑いの空気もありました。しかし、その中でも自分のやりたいことを見つけ、探究に没頭していった生徒たちが、全国コンテストで入賞したり、総合型選抜入試で自分のやりたいことを学べる大学・学部に進学したりという成果を出し始めました。何より印象的だったのは、探究に没頭した生徒たちは、自分のテーマについて語り出すと止まらなくなるほど楽しそうに、自己肯定感に溢れた姿へと変容していったことです。普段の授業ではおとなしい生徒が、探究になるといきいきと輝く姿に、職員室でも驚きの声が上がるようになりました。

こうした生徒たちの姿が年々増えるにつれ、教員側の戸惑いも薄れ、先輩の事例に憧れて探究に励む生徒が増えるなど、徐々に校内に探究文化が根付いていきました。目に見える成果としては各種探究コンテストでの全国入賞件数や、探究を生かした総合型選抜や公募推薦での合格者数が大幅に伸長したことが挙げられますが、これはあくまで副産物であると捉えています。

探究は決してコンテストでの入賞や大学合格のためではなく、生徒一人ひとりが探究リテラシーを身に付け、自分の興味・関心や特性を見出してキャリア形成に生かしていくための教育活動です。探究を通して自分のやりたいことを定め、それを大学で深く学び、社会に貢献し、自分のWell-beingにつなげていく、そんな生徒が一人でも多く育つことを願っています。


▲年度末の探究発表会で代表生徒がプレゼンテーションする様子


生徒の探究を、先生も一緒に楽しもう!

われわれ教員自身が、生徒と一緒に探究を楽しみ、悩み、考え、探究を進める生徒の「伴走者」に“自然と”なれるとよいと思います。本校で探究が根付くようになった一つのきっかけは、職員室へ探究の相談にくる生徒が増えたことでした。職員室内の生徒対応スペースで生徒と教員がディスカッションをはじめると、その熱量にひかれた他の教員も様子をのぞきに来て、自然と議論の輪が広がるという場面がよく見られます。これは、教員にとって「やらされている労働」ではなく、知的好奇心から生まれる「豊かな時間」なのです。


 職員室には生徒が自然と集まり議論の輪がどんどんと広がっていく

私は生物の教員ですが、ここ数年で深く関わった探究テーマは、鯱、飛行機、マルウェア、笛、河童、餃子、パルクールなど多岐にわたり、ときどき自分の担当教科がわからなくなります(笑)。これらのテーマについても、私以外の先生方も一緒に関わりながら、生徒との対話を通して探究を深めてきました。自分の専門分野はもちろんですが、専門外の知識が増え、視野が広がるので多様なテーマの探究に伴走するのは本当に楽しいものです。探究の伴走は、教員にとっても学びの多い「共育(きょういく)」だと実感しています。

自分の好きなことを究めている生徒の姿、そして生徒同士、あるいは生徒と教員間で互いにリスペクトし合う姿が多く見られるようになった、いまの教室や職員室を、私はとても素敵な空間だなと感じる今日この頃です。ぜひ、先生方も楽しく、自然体で生徒の探究に関わっていきましょう。


佼成学園中学校・高等学校
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探究プログラム
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