Skip to content
【活用事例】学校経営を支えるデータとその活用——若手教員主体のキャンパスで実現した、客観指標による教育マネジメント

クラーク記念国際高等学校 広島キャンパス

【活用事例】学校経営を支えるデータとその活用ー若手教員主体のキャンパスで実現した、客観指標による教育マネジメント

 

学校経営を支えるデータとその活用ー若手教員主体のキャンパスで実現した、客観指標による教育マネジメント

クラーク記念国際高等学校 広島キャンパス

 

1992年に開校したクラーク記念国際高等学校は、通信制でありながら全日型のスタイルを国内で初めて取り入れた広域通信制高校で、校名は、北海道大学の前身・札幌農学校の初代教頭であるウィリアム・スミス・クラーク博士に由来します。“Boys, Be Ambitious!(少年よ、大志を抱け!)”という言葉はあまりに有名ですが、これを建学の精神とし「夢・挑戦・達成」を合言葉に掲げ、全国に80を超えるキャンパスや連携校を展開。14,000名を超える生徒が学ぶ日本最大級の高校ネットワークです。

広島キャンパスはそのネットワークの一拠点ですが、通信制でありながら通学を基軸としたコース展開が多いのが特徴で、EdTechを活用した個別最適な学びと、地元企業・プロスポーツチームと連携したPBL(Project Based Learning、プロジェクト型学習)を両輪に据えてきました。総合進学、スマートスタディ、そしてB.LEAGUEの広島ドラゴンフライズと提携した男子バスケットボール専攻を含む4つのコースを擁し、2021年度からはいち早く非認知能力測定ツール「Ai GROW」を導入。導入から5年目を迎える今、データはコーチング、クラス編成、広報、そして経営判断を支える「共通言語」へと進化しています。同キャンパスのキャンパス長を務める西本壮志先生に、データを軸にした学校づくりの背景と歩みをうかがいました。



「主観で生徒を見ない」ー客観指標を求めた選択


「Ai GROW」を導入したのは2021年。クラーク記念国際高等学校全体でオンライン中心の「スマートスタディコース」の標準ツールに採用されたことが、きっかけだったと西本先生は振り返ります。

「全国で標準化されているコースで使うのなら、同じものを通学型の総合進学コースにも導入した方が効率が良い。何より、私たちが伸ばしたいと言っている『非認知能力』を、学校独自の物差しではなく、社会的に通用する第三者の指標で客観的に測れることに大きな価値を感じました」

導入を強く後押ししたのは、キャンパスの教員体制でした。広島キャンパスの担任にあたるパーソナルティーチャーは6名。平均教員歴は1.8年と若く、教員1年目のメンバーも在籍しています。1対1のコーチングを軸に生徒と向き合うクラーク記念国際高等学校の教育において、若い教員が自信をもって指導に臨むための「根拠」が必要だった、と西本先生は語ります。

「『この子は頑張っている』『この子はそうでもない』という主観で生徒を見ることに、ずっと違和感がありました。ベテラン教員の勘に頼るのではなく、客観的な指標で生徒を見取れる仕組みをつくる。それが先生方にとっても、生徒にとっても、いちばんフェアなやり方だと考えたんです」



25のコンピテンシーを3年間で8回ー稀有な経年データが教育の手応えに


広島キャンパスの「Ai GROW」の活用は、その規模も特徴的です。同校は「Ai GROW」で計測できる全25コンピテンシーを3年間で計8回測定。これだけ広範かつ高頻度にデータを蓄積している例は「Ai GROW」導入校全体で見てもあまりありません。

実際、3年間のコンピテンシー成長を示すグラフでは、全25コンピテンシーの平均値が学年進行に合わせて緩やかに上昇しており、「ヴィジョン」や「地球市民」など、一般的に伸ばすことが難しいとされるコンピテンシーにも明確な伸びが見られます。

「私たちが目指してきたのは、いわばソーシャル・アントレプレナーを育てるような探究の方向性でした。子どもたちが取り組むテーマや発表内容も、ここ数年で『社会を変えるための一歩』を意識したものへとはっきり変わってきています。データの伸びは、その方向性が間違っていなかったことの『答え合わせ』のように受け止めています」(西本先生)

実際、2024年度はコンテストへの出場や入賞が相次ぎ、全国大会に進む生徒も複数登場しました。総合型選抜入試での大学合格はもちろん、一般入試で国公立大学に進んだ生徒の経年データを見ても、思考力や内省を支えるコンピテンシーが着実に伸びていることが確認できたといいます。

スライド画像
▲25のコンピテンシーが3年間で経年的に伸びている。中でも論理的思考の伸びがもっとも大きく、「疑う力」「解決意向」「内的価値」において顕著な変化が見られた

ひろしまAI部
▲県内企業への訪問などを通してAIの活用可能性を探究する産学官連携の教育プログラム「ひろしまAI部」の集大成として、AIを活用して社会課題等を解決するプロダクトを競う「HIROSHIMA AI PITCH 2026」の本選に出場


「答え合わせ」と「新発見」ーデータが生徒と教員を支える


データの存在は、若手教員のコーチングのあり方も変えています。

「新人の先生でも、面談で『あなたはこの力がすごく伸びているよ』と具体的に伝えられる。そう言われた生徒は『じゃあこのまま行こう』『もっと伸ばそう』と前向きになる。データは、生徒の課題を指摘するためではなく、褒める材料を増やすためにあると考えています」

この考え方は、教員自身の「見立て」の精度を高めることにもつながっています。データには、ベテラン教員の勘にあたる部分を裏付ける「答え合わせ」の役割と、普段の授業では見えにくい一面を発見する役割の両方があると西本先生は話します。

実務での活用も広がっており、初任の教員が指導要録の所見作成に「Ai GROW」の結果を参照したり、新年度のクラス編成にコンピテンシーのデータを活用したりするケースも出てきました。「感覚に頼らず、データに裏付けられた共通の土台のうえで、先生が個性を発揮できるようにしたい」というキャンパス長の方針が、現場の運用にも浸透し始めています。

探究学習
▲ソーシャル・アントレプレナーの育成をテーマとした探究学習で社会課題解決のアイデアなどを出し合う授業の様子



自律分散型の組織で、生徒全体の平均値を底上げする

広島キャンパスの取り組みで特筆すべきもう一つの点は、「突出した1人」ではなく、生徒全体の平均値が押し上げられていることです。

「学校によっては、ずば抜けた1人の生徒の活躍によって学校全体の評価が動く、というケースが少なくありません。広島キャンパスは、そうしたスター型の伸びではなく、いろいろな生徒がいろいろな場面で活躍することで、学年全体の数値が上がっています。これはなかなか見られないことです」(西本先生)

その背景には、西本先生が意識的に進めてきた「自律分散型」の組織づくりがあります。同校ではあるタイミングで生徒会を無くしたそうですが、これは固定したピラミッド型の組織運営体制にせず、行事ごとに実行委員を立てて複数の生徒にリーダー経験の機会を設けることを大切にしたからとのこと。その結果、近年の学校説明会の実行委員には、在籍生徒の3分の1以上が手を挙げることもあったといいます。地元企業との商品開発ゼミなど、企業・地域と連携したPBLの機会が豊富にあることも、こうした分散型の運営を支えています。

「多様な機会、さまざまなチャンスを意図的に用意しています。教員も『今度はこれにチャレンジしてみない?』と背中を押すタイミングを設計している。その積み重ねが、結果としてコンピテンシーの平均値の底上げにつながっているのだと思います」

スクリーンショット 2026-04-13 123810 (1)
▲実行委員型のプロジェクト運営や企業連携PBLが、生徒一人ひとりの主体性を引き出している

ミチシルAI
▲ひろしまAI部(広島県内の高校生がAIの基礎から活用方法までを学び、実社会の課題解決に挑戦する新たな部活動)の本大会で生徒が実際に開発した進路支援AIのプレゼンテーションをする様子



入り口設計から一貫した「学校経営×データ」の考え方


データの活用範囲は、生徒指導の現場にとどまりません。広報や中長期の方向性決定といった、いわゆる「学校経営」の領域にこそ、「Ai GROW」が有する経年データの強みが生きていると西本先生は語ります。

「『非認知能力を伸ばします』『探究をやります』と語る学校は増えていますが、実際にどう伸びたのかを可視化できている学校はまだ多くありません。だからこそ、エビデンスを示せることが説得材料になりますし、『この方向で進んでいいんだ』という組織としての確信にもつながります」

入学を検討する保護者や生徒に向けた広報物にもコンピテンシーのレーダーチャートを掲載し、「ここではこういう力が伸びる」という方針を明確に打ち出してきました。入り口の段階で期待値が一致した生徒が集まり、入学後の伸びがさらに学校の特色を強めていく—そうした好循環が、ここ数年で形になりつつあります。

事実、昨年度は出席率や英検取得率、進学先の質といった指標が総じて上向き、コース変更を選ぶ生徒の数は二桁から一桁にまで減少しました。データに基づくマネジメントが、生徒の学習・進路・在籍の安定という具体的な成果として現れ始めています。



次なるステージへー比較と発信のフェーズに


データを軸にした学校経営は、次のステージへと進もうとしています。西本先生はこう語りました。

「主観や感覚だけに頼らず、客観的なデータを共通の土台にすると、組織は驚くほど動きやすくなります。特に若手の教員にとっては、自信をもって生徒に向き合うためのよりどころになる。データを活用した学校経営は、決して大規模校だけのものではないと思います」

西本先生のリーダーシップの下、データを共通言語として学校を動かす広島キャンパスの試みは、教員の若返り、特色化、広報、そして学校経営という、全国の高校が共通して抱える課題に対するひとつの実践例として、これからさらに注目を集めそうです。