「令和の宮の森型教育」を支える非認知の可視化─データと教師の目が重なるとき
札幌市立宮の森中学校
「モヤモヤしていた部分」を形に─導入の背景と「令和の宮の森型教育」
札幌市立宮の森中学校で「Ai GROW」の活用を推進する宍戸洋介先生(教務主任)は、「Ai GROW」導入の経緯をこう振り返ります。「生徒が自分の好きや興味・関心、自分の魅力を認識することが大事だとずっと思っていた。その中で学力にとどまらないさまざまな成長を子どもたちにフィードバックしたり、自信をもたせたりしてきたつもりだった。でも、それが具体的な数値や形で見えるものではないだけに、なんとなくモヤモヤしていた部分があった」。
同校は令和4年度から「令和の宮の森型教育」を掲げ、学校づくりの見直しに取り組んできました。キーワードは「つながり」と「挑戦」。生徒だけでなく教職員も新しいことにまず挑戦してみようという土壌が、3年かけて醸成されてきました。「Ai GROW」の導入は、その文脈の延長線上にあります。
導入のきっかけは、現校長の井上博文先生が前任の小学校で「Ai GROW」に触れていたこと。中学校への異動後、「ここでもうまく使えるのではないか」と考えたのが出発点でした。宍戸先生自身も、それまで活用していたアセスメントツールでは「データを分析しきれない」「活用するところまでいかない」という課題を感じていました。「何らかの客観的なものを加えた方がよい」という問題意識が、「Ai GROW」との出会いで形になったのです。
「会ったことのない生徒の話ができる」─データの信頼性と伴走支援の価値
宍戸先生が「Ai GROW」の価値として繰り返し強調するのが、IGS担当者の伴走支援です。「担当者が一緒にデータを見ながら『この子だったらこんな風に見られます』『この成長はこういう経験を積んだからかもしれませんね』と話してくださる。担当者はその生徒に会ったことがないはずなのに、あたかも共通の知り合いの話をしているかのようなやり取りができる。そこに驚きと感動があった」。
全国のさまざまな学校のデータに触れ、先生との対話を重ねてきた「データを読める人が読めば、そこまで見えてくる」という実感。それは、データへの信頼を育てると同時に、「自分たちもそう読めるようになりたい」というモチベーションにもつながっています。宍戸先生はIGS担当者から受けた助言も校内の先生方に共有しています。「どんなデータであっても教師の目を超えることはない。ただ、教師の実感とデータが一致すれば後ろ盾や自信になる。差異があればそこから気づきにつながる」。この言葉が、「Ai GROW」活用の大前提として先生方で共有されています。

▲学校教育目標の達成状況を「Ai GROW」で定量的に把握。
面談・学校祭・学びの支援─現場での多角的な活用
同校では、教育相談(面談)での活用を軸に据えています。「担任だけでなく教科担任も、学習の仕方の得意不得意や特性を見てほしい」と宍戸先生は校内の先生方に呼び掛けています。特に印象的だったのは、初任の先生からの声でした。「『この子、ちょっと関わり方に悩んでいて、このデータを見てもらえますか』と、校内情報共有の仕組みを通じて相談があった。若い先生が根拠をもって他の先生に助けを求められる。それは『Ai GROW』があったからこそ」。
学校祭後の活用も特徴的です。同校の学校祭は学級単位ではなく、学年内で部門に分かれてクラス混合で行う形式。学校祭後の測定では、「担任に関係なく、自分が部門で担当した子どもたちの結果を見て、もし力が伸びていると思ったら、具体的なエピソードと合わせて担任に伝えてください」と呼び掛けました。数字だけでなく、ストーリーやエピソードと結び付けてフィードバックすることで、生徒の自信につなげる工夫です。
▲生徒のコンピテンシーの成長を示すデータは研究発表会などを通じて外部にも積極的に発信している(画像は同校提供)。
「学びの支援」の領域でも活用が広がっています。今年度から学びの支援委員会を月1回に増やし、教務部の管轄として運用を見直しました。担当の先生は、支援対象の生徒の「サポートファイル」に「Ai GROW」の結果を自発的に組み込んでいます。さらに、夏休み明け、一般的に子どもたちの命の危険が高まるといわれる時期には、「自己効力感が下がっている」「繊細性が少し高いかもしれない」といった観点から、教師の目では見えにくい生徒をピックアップする参考指標としても活用されています。
「伸ばす」視点と学校評価への接続─今後の展望
宍戸先生は、従来のアセスメントツールと「Ai GROW」の違いをこう表現します。「従来のツールは『どこが危ないか』という視点になりがち。でも『Ai GROW』は『ここを伸ばそう』という視点で活用できる」。ポジティブな会話のツールとして機能することが、先生方のモチベーションにもつながっているようです。
今後の展望として、宍戸先生が見据えているのは「学校の自己評価」との接続です。各部・各学年の年間計画と評価を、生徒の姿や行動の変容で捉え直す取り組みを進めています。「今まで教師の目で『こんな風に成長したかな』とフワっと評価していた部分に、『Ai GROW』の定量的な数値が入ってくると、教師にとっても自信や励みになる」。
同校は生成AIの活用にもパイロット校として取り組んでいます。「まずは使ってみよう」というスタンスで、ルールを先に固めるのではなく、使いながら学ぶ姿勢を大切にしています。GIGAスクール構想でChromebookが入ったときも同様のアプローチでした。「中学生が間違うべき使い方の間違いはちゃんと間違う。間違えばその都度教えればいい」。この「挑戦」の文化が、「Ai GROW」の活用を支える土壌にもなっています。
「先生方にはいろいろやってもらっている。それが子どもたちの成長として目に見えてくると、やりがいや喜びにつながる。前向きなモチベーションが回っていくといい」。宍戸先生の言葉には、データを「教師の仕事の裏付け」として生かしたいという思いがにじみます。「令和の宮の森型教育」の歩みは、「Ai GROW」という新たなレンズを得て、次のフェーズに向かおうとしています。

