Ai GROW等の学校での活用事例

【活用事例】工業高校から変わる「非認知能力教育」─Ai GROWが生んだ先生方の変化

作成者: Ai GROW 運営事務局|Nov 21, 2025 3:59:13 AM

 

工業高校から変わる「非認知能力教育」─Ai GROWが生んだ先生方の変化

 滋賀県立彦根工業高等学校

 

学力だけでは測れない「人間力」を育てる

滋賀県立彦根工業高等学校では、文部科学省の「マイスター・ハイスクール(次世代地域産業人材育成刷新事業)」の指定校として「人間力」をキーワードに、就職を中心とする生徒の未来を支える教育を進めています。その中核にあるのが、非認知能力の育成です。前任の学校長が「社会で活躍するには学力以上に非認知の力が必要」と提唱し、数年前から本格的な取り組みが始まりました。宮村新奈先生はこう語ります。「卒業後にさまざまな年代や国籍の人と働くうえで、協調性や柔軟性、粘り強さが不可欠です。学力だけではなく、社会で活躍できる力を育てたいんです」。

その思いを受けて、マイスター部門の推進メンバーである杉山莉玖先生も「人間力=非認知能力」と位置付け、「Ai GROW」を活用した全校的な育成体制を整えました。学校のウェブサイトによれば、学校設定科目「近江マイスター」「少人数カンパニー制」「バイオプラスチック・地域企業との連携プロジェクト」など、産業界やSDGsを意識したカリキュラム構成も進められています。今では全校生徒約600名が年5回、「Ai GROW」の測定を行い、行事や授業の節目ごとに自分の成長を振り返っています。




キー・コンピテンシーの精査─学校目標と連動した「見える指導」

導入初年度は11項目のコンピテンシーを計測していましたが、学校の教育目標と計測コンピテンシーの完全一致を図ることを目的に翌年度からは6項目(ヴィジョン、耐性、表現力、共感・傾聴力、寛容、誠実さ)に再編。「学校目標から逆算して、本校の生徒に今、本当に必要な能力を測るようにしました」と杉山先生は話します。

この絞り込みは単なる簡略化ではありません。計測する能力を減らすことで先生方の共通理解が進み、指導への落とし込みがしやすくなったようです。学校が公開している報告書では、カンパニー制活動や企業デュアルシステム、バイオマス・プラスチック開発などを通して、「変化への挑戦(Challenge for Change)」を掲げる新たな教育スタイルが明記されています。宮村先生も「データを見ていると納得感がある」と語ります。部活動でリーダーシップを発揮する生徒は「表現力」が高く、就職面接で課題を指摘された生徒は「表現力」が低めに出る傾向がある。こうした「データと実感の一致」が、指導の説得力を高めています。さらに、成果報告会での企業側からのコメントでも「企業を巻き込んだ成果が出ている」と評価されており、産業界との関係構築も成果につながりつつあります。


▲現高校3年生の6項目のコンピテンシーの変容。
 (SN-1:2024年7月受検、SN-2:2025年2月受検、SN-3:2025年7月受検)




「授業が変わる」─若手教員の挑戦と生徒の変化

「Ai GROW」の導入効果は、測定データ以上に授業者の意識の変化として表れています。宮村先生は、家庭科の授業で「表現力」をテーマに、生徒が主体的に学ぶ授業を設計しました。「カップ焼きそばのアレンジレシピを考えて発表する」という一見ユニークな授業では、普段は控えめな生徒が積極的に発言し、クラス全体が笑顔に包まれたといいます。「小さな成功体験の積み重ねが、自己肯定感を高め、非認知能力の伸びにつながるのだと実感しました」と語ります。

こうした実践の積み重ねを支えているのが、校内の若手教員チームです。定例会で「Ai GROW」のデータを共有し、行事や授業にどう落とし込むかを議論する文化が根付き始めています。先の報告書でも、生徒の「体験からの振り返り」や「企業との実践型の学び」が重視されています。外部講師として関わる中山芳一先生(All HEROs合同会社代表)も「現場の先生方が自らの授業を変えようとしている点に大きな意義がある」と評価されています。



教員文化を変える─非認知能力を「語れる」学校へ

非認知能力の育成を全校に広げることは容易ではありません。興味関心をもつ教員は全体の約4割、実際に授業で活用する教員は2〜3割というのが現状です。しかし、わずか1〜2年でここまで到達したことは「早い浸透スピード」だといえます。「データで可視化されることで、感覚ではなく根拠をもって生徒と話せるようになりました」と杉山先生は話します。若手中心のプロジェクトが作り出した「対話の文化」が、少しずつベテラン層にも広がっています。

「非認知能力を伸ばすこと」は、もはや抽象的な理想ではなく、授業・面談・行事の中で共有される共通の実践言語になりつつあります。「Ai GROW」はその「共通辞書」として、同校の文化を変え始めました。先の報告書にも「自走化に向けて、企業・自治体・学校の三者連携の仕組みづくり」が今後の鍵として挙げられており、まさに学校を軸とした「地域人材育成エコシステム」の構築が視野に入っています。

宮村先生は最後にこう締めくくります。「非認知能力の可視化はそれを伸ばすためだけでなく、『語れる』ようにするための第一歩。『Ai GROW』は、私たち教員がそれを言葉にするための道具でもあります」。


【中山芳一先生からのコメント】

▲中山先生を講師に行われた教員研修の様子

高校生の時期に、何らかの非認知能力を後天的に伸ばしていくためには、「意識して行動を変容または維持すること」が必要です。その行動が習慣化していけば、何らかの非認知能力が「伸びた」または「高い」といった評価へとつなげられます。

滋賀県立彦根工業高等学校の取り組みは、「Ai GROW」により生徒個々の非認知能力の現状評価(アセスメント)をして、以降の「意識~行動~習慣」へと生徒自身ができるようにするとともに、教師側も生徒への伴走支援を可能にしているといえるでしょう。

「Ai GROW」を活用した非認知能力の評価にとどまることなく、この評価結果を具体的な生徒支援(実践)へとつなげていくための示唆を与えてくださったと思います。今後は、この取り組みが若手の先生方の努力で完結するのではなく、「チーム彦工」の取り組みが加速していくことを願っています。