地域と大学がつながる「科学の土壌」─ジュニアドクター育成における「Ai GROW」と「数理探究アセスメント」の融合的活用
鳴門教育大学
「科学する心」を地域で育むSTELLAプログラム
鳴門教育大学では、徳島県内の大学・高等専門学校・教育委員会と連携し、次世代を担う科学者の育成に取り組んでいます。国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の「次世代科学技術チャレンジプログラム」に採択された事業は、「徳島県高等教育機関連携型 次世代科学者発掘・養成講座」として、県内の小学校5~6年生および中学生を対象に実施されています。
この講座は、いわゆるSTEAM(Science、Technology、Engineering、Art、Mathematics)教育を通して「探る・究める・発見する」という問いの資質・能力を継続的に育むことを目的に設計されています。その取り組みの内容について、講座の設計や運営の中核を担う鳴門教育大学大学院 高度学校教育実践専攻の教授である早藤幸隆先生にお話しを伺いました。早藤先生は2000年代初頭から地域の科学教育に携わり、「ふれあいサイエンス2000」など長年の地域実践を経て、2017年度から本格的な大学主導プログラムである本事業へと発展させていきました。
「単発のイベントでは子どもの成長の芽を継続的に伸ばせません。大学と地域、そして教育委員会が連携し、科学を探究する文化そのものを根付かせたいのです」と早藤先生は語ります。こうして鳴門教育大学が主導する「鳴門教育大学STELLAプログラム」が誕生しました。プログラム名には、「科学者(Scientist)・教師(Teacher)・探究者(Explorer)・学習者(Learner)・指導者(Advisor)」が協働して光を放つという意味が込められています。
選抜と育成をつなぐ「数理探究アセスメント」と「Ai GROW」
プログラムでは、受講前の一次選抜に弊社の「数理探究アセスメント」を導入し、子どもたちの「課題設定力」「実験計画力」「考察力」「創造力」を定量的に可視化。続く二次選抜・中間評価では同じく弊社の「Ai GROW」を用い、受講生の「自己実現力」「俯瞰的探究力」「柔軟な独創力」「再帰的思考力」「コミュニケーション力」などを測定されています。
「アセスメントで得られるのは『能力の座標軸』、『Ai GROW』で見えるのは『人としての成長曲線』です」と早藤先生は語ります。両者を連動させることで、単なる選抜評価ではなく、探究活動の過程そのものを科学的に可視化する仕組みが実現しました。
また、「Ai GROW」における相互評価は、講座の中盤に実施されます。顔と名前を覚え、仲間の強みを認め合える関係ができてからでないと、意味のある評価にはならないからです。さらに本事業では「受講前・中間・修了」の3回にわたり、大学生の教育実習生も同席した上で保護者とともにフィードバックを行う「三者+学生」形式の「面談」も実施しています。「大学生が子ども目線で伝える言葉は、教員にも新しい発見をもたらします」と早藤先生は言います。その面談でもこうしたアセスメント結果が活用され、世代を超えた学びの循環がデータやエビデンスを基に生まれています。

▲講義を受講する参加者の様子

▲「3Dプリンタによるもの作り入門」の様子
データが示す「柔軟な独創力」─数値に裏付けられた成長の証
講座の成果は明確に表れています。「数理探究アセスメント」の分析(令和6年度後期)では、「課題設定力」「実験計画力」「創造力」の領域で約70%の受講生が成長を示すレベルアップを記録しました。特に「柔軟な独創力」の向上が顕著で、社会的な意義を踏まえたアイデアを自発的に生み出す児童・生徒が増えたといいます。同じアセスメントを受講した上級生との比較でも、本事業の受講生がより高い指標を示しているケースも少なくなく、プログラムを通して子どもたちが確かに成長していることが伺えます。
早藤先生は、「高校生になると『正解』を求めすぎる傾向がありますが、小・中学生にはまだ柔らかさがある。数値的にもその創造性が明確に出ている」と語ります。受講生の自由な発想は研究室の大学教員をも驚かせ、県内のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校や高等専門学校への進学者も増加傾向にあるようです。「才能よりも人間性。科学への興味を『個性の表現』として捉え直せた子どもたちは、これからのSTEAM時代を切り開く力をもっています」と、早藤先生は受講生の成長に確かな手応えを感じているようでした。
▲講座参加者のコンピテンシーの比較。23年度と24年度の参加者でそれぞれ強みが異なることが分かる。
(SN-1:23年度の参加者24名、SN-2:24年度の参加者43名)
教員養成大学としての社会的ミッション─科学を通じた人間教育へ
本講座は、次世代科学者育成と同時に、教員養成大学としての教育研究の場にもなっています。大学院生や学部生がメンターとして受講生の成長を観察し、データを解析することで、教育評価のリテラシーを実地で学ぶことができます。
「数字と実感を往復しながら子どもを見る経験は、将来の教員にとって非常に重要です」と早藤先生。今後は事後測定や修了生追跡も行い、地域の科学教育エコシステムとして発展させたいとしています。
「Ai GROW」と「数理探究アセスメント」は、講座の効果を検証するだけの単なる測定ツールではなく、「地域全体で科学する文化を可視化する共通言語」として鳴門教育大学の教育哲学を体現しているのです。

