Ai GROW等の学校での活用事例

【活用事例】「6つの学習者像」を自分で選び、語り、伸ばす文化へ

作成者: Ai GROW 運営事務局|Oct 15, 2025 2:48:36 AM

 

「6つの学習者像」を自分で選び、語り、伸ばす文化へ

 武蔵野大学中学校・高等学校

 

「理念を定着させる」から「自分で選び取る」へ─六波羅蜜を「6つの学習者像」に翻訳し、学校全体の共通言語に

武蔵野大学中学校・高等学校でスクール・ポリシーの再定義と運用の舵を取るのは、副教頭の野澤清秀先生です。出発点は「理念の定着」。同校には、創立当初から仏教に根ざした六波羅蜜(布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧)に対応する6つの徳目が受け継がれてきましたが、職員の間でも「言葉としては知っているが、指導や生徒の具体行動に結び付けきれていない」という課題がありました。そこで同校は、徳目を「6つの学習者像」として生徒向けの表現に落とし直し、校内に浸透させるための「翻訳」を進めます。

この「翻訳」を実装するツールとして選ばれたのが「Ai GROW」でした。野澤先生は、管理職としての視点と、かつて学級担任として実地で運用を試した経験の双方から、「理念の運用」に必要なのは「定義」「可視化」「語り直し」の3点だと語ります。まず、「6つの学習者像」にどのコンピテンシーが対応するかを学校側で設計(「Ai GROW」側のカスタマイズ性を活用)し、「この力を伸ばすには、こう行動する」という行動例をポスターやワークシートに明記。次に、自己評価と相互評価を組み合わせながら生徒の手元に自身の「現在地」を返し、振り返りと面談で自分の言葉で語る機会を作る。最後に、集団の傾向を教員が把握し、学校経営の意思決定(カリキュラム・行事・生徒指導の観点付け)に反映する。理念は「掲げるもの」から、「日常の対話を変える運用仕様」へ。その変化を支えるのが「Ai GROW」で可視化される「コンピテンシー」だという位置付けです。

導入の道のりも段階的でした。2023年度、当時の中学2年で学年試行を行い(当時は「自己理解・他者理解・社会理解」という学年テーマに応じて対応するコンピテンシーを選定)、そして、2025年度から本格導入。全学年で共通運用するに当たり、学年単位のテーマ配当ではなく学校の価値(バリュー)である「6つの学習者像」に一本化し、「6年間を貫く言語系」として設計し直しました。これにより、小さな成功体験や行事単発の「点」が、生徒自身の語りと評価で「線」に接続されていく構造を整えています。

「オーナーシップ」を教育目標の中心へ─目標設定・2分プレゼン・自己/相互評価で「選ぶ→語る→検証する」を回す

武蔵野大学中学校・高等学校が大切にしているのは、「生徒が自分で選び、約束し、言葉にする」という点。学習者像に紐付くコンピテンシー群の中から、生徒は自分が重点的に伸ばしたいコンピテンシーを宣言し、数値目標を設定。そのうえで、面談や2分間のプレゼンテーションで「なぜそのコンピテンシーなのか」「どのような行動を通してそのコンピテンシーを伸ばすのか」「どの機会にどう実践したことで、コンピテンシーの成長にどうつながったのか」を保護者・学校と合意します。ある意味、成績表と並ぶ「第二の評価軸」を作るともいえる試みですが、単に高い数値を目指すことは求めていません。狙いは「選択の根拠を言語化できる力」を身に付けることなのです。


▲生徒は「Ai GROW」の結果を活用し「高校生活×私の成長」をテーマに三者面談で2分間のプレゼンを実施。具体的な場面や行動やエピソードと紐付けながら自分の成長を言語化している。


測定の設計も段階を踏みます。春の自己評価に始まり、初夏にはクラスの友人3名から相互評価を受けます。事前に位置付けや目的を丁寧に説明したことも奏功し、生徒は「自分では気付いていない強み/ギャップ」を比較的スムーズに受け止めたと言います。この受け止めの土台にあるのが、教室に掲示されている「6つの学習者像」の定義と対応コンピテンシー、そして力を高める具体行動がセットで示されたものです。


▲各教室に掲示されている「6つの学習者像」とこれに関連するコンピテンシー、そのコンピテンシーを成長させるためのアドバイスをまとめたポスター。これにより生徒は「6つの学習者像」を日常的に意識できるようになる。


「Ai GROW」の受検結果の振り返りでは「伸ばしたいなら何をするか」を目で見て判断できるように設計。観念語を行動語に引き下ろす「見取り図」を常設することで、受検を「やりっぱなし」にせず、「行動計画→実践→ふり返り」の一連に接続しています。

さらに同校では、文化祭・探究・委員会・部活動といった場を意図的な実践の舞台に位置付け、活動の振り返りを「Ai GROW」の言語(計測するコンピテンシー)で行います。「この役割で、どの行動を積み、どの力が伸びたのか」を本人が説明できるようにすることが、学校推薦型・総合型選抜入試につながる「ストーリーの連結」を生み、将来の志望理由書や面接で「点ではなく線」として語る素地になるからです。野澤先生は「『答えが無限に存在する世界で、自分で選んだ答えに納得のいく理屈を付す力』を自校の独自価値にしたい」と明言します。「Ai GROW」は、その「選ぶ→語る→検証する」を回すための共通の物差しなのです。

「学校経営×コンピテンシー」の視座─教学マネジメント・差別化戦略・卒業生データまで見据えた拡張計画

野澤先生の視線は、学級運用を超えて学校経営におよびます。少子化による市場環境の変化、教学マネジメントの要請(教育目標の達成度を可視化・検証する流れ)、近年広がるアドミッション・ポリシーとの適合要求。こうした潮流の中で、偏差値一本で勝負するのは合理的ではない。だからこそ、「全人格的な成長=『6つの学習者像』」を明確に掲げ、「Ai GROW」で実績を可視化することが、私学としての差別化戦略になります。

経営視点での展望は三つ。
第一に、教員の指導の観点付けの統一です。通知表や評定だけでなく、生活指導・生徒会活動・行事運営などあらゆる接点で同じ語彙を用い、集合的に育てたい力に焦点を合わせる。

第二に、入試広報への接続です。学年・学級の傾向データや、行事前後での伸びの実例をスクール・ポリシーの成果エビデンスとして整理し、「この学校に入ると、こう伸びる」を「理念→観点→行動→変化」の鎖で示す。

第三に、卒業生追跡の構想です。社会で活躍している卒業生に協力を仰ぎ、在学時の学習者像(or 類似観点)と現在のパフォーマンスの共通性を見取り、「大学合格でピークアウトしない」人材像を学校として定義していく。こうした情報が開示されれば、保護者にとっても貴重な情報になるでしょう。


▲生成AIを活用した受検結果の振り返り例。AIと壁打ちをしながら生徒は自身の強みや成長について「6つの学習者像」ベースで振り返りつつ、今後の行動目標を具体的に立てることができる。


この拡張を支えるための運用の知恵も語られました。目標管理の素地を学校に移植する際のボトルネックはフィードバックの人手不足です。クラス40人の生徒が立てた目標に、毎回担任が質の高い壁打ちを返すのは現実的でないと、野澤先生は「生成AIによる壁打ち」を試行しています。生徒が書いた目標文をAIに投げ、観点の明確化・行動の具体化・評価指標の言語化を促す第一ラウンドをテクノロジーに委ね、人による面談は第二ラウンドに集中させる。「お膳立てをし過ぎず、生徒が自分で考え、行動し、内省できる仕掛け」をどう作るか。ここに、民間経験をもつ管理職ならではの野澤先生の視点が光ります。

もちろん、すべてが数値で語れるわけではありません。野澤先生は「高スコアだから評価する」という短絡を拒みます。数値は地図であって、目的地ではない。重要なのは、学習者像に対して自分で選び、自分で語り、自分で検証する営みが学校文化になること。その文化が学力にも連動する手応えもすでにあると言います。同校は2019年度に中学を、翌2020年度に高校をそれぞれ共学化。共学化を機に伝統である仏教精神は変わることなく大切にしつつ、新しい学校文化に切り替える取り組みを多数行ってきました。そこに一番の当事者として関わった共学化一期生の生徒が2024年度に卒業を迎え、過去最高の実績を残すことができたのがその好例です。ただし結論を急がず、理念の運用を積み上げる姿勢を貫く。ここに、改革を継続させるリーダーシップが見えます。

「観念語を行動語へ」─日々の場面を変える「Ai GROW」の実装ディテール

最後に、現場での手触りを感じている事例を3つ示したいと思います。
第一に、掲示の設計。各教室のポスターは「6つの学習者像」の「定義→対応コンピテンシー→行動例」の三層で構成され、「Ai GROW」の受検結果の振り返りの際はここを見るという「習慣」になっています。
「寛容を伸ばしたいのなら、役割分担の場でこう振る舞う」といった行為レベルにまで落とし込まれているため、面談や自己PRの際に必要な要素も自然と揃っていきます。

第二に、面談・プレゼンの設計。2分間のプレゼンテーションという短くも負荷の高い宣言機会を置き、本人のコミットメントを明確化。「自己評価→相互評価→振り返り→次回の目標設定」というPDCAを学期サイクルで回す。

第三に、行事の前後測。文化祭や探究発表の前に目標を宣言し、後で証拠(行動・成果・周囲の観察)とともにどの観点がどう変化したかを共通の指標で記述する。教員が誘導して書かせるのでなく、生徒自身が線で語る構造を意識的に作ります。

野澤先生は、将来的には管理画面の見やすさや学年・学級の傾向を俯瞰し、これを学校経営の会議体に接続し、教育活動のデザイン判断(例:どの学年でどの実践を強化するか)に生かしていくことまで構想しています。武蔵野大学中学校・高等学校の「Ai GROW」運用は、「観念の定義理解→測定→測定結果と行動の紐付け→自分の成長の『なぜ』を語る」という観念語を行動語へ落とすことに貫かれています。「偏差値だけが子どもの力ではない。自分の人生にオーナーシップをもち、選び、語れる人を育てたい」。野澤先生の言葉は一貫してそこに向いています。数値はその歩みを確かめる物差しであり、学校と生徒が同じ地図をもつための共通言語、というスタンスです。武蔵野大学中学校・高等学校は、「6つの学習者像」×「Ai GROW」で、静かに、しかし着実に進化しています。