探究の成果の言語化が学びと未来をつなぐ
本校は、東京都北区にある、私立の中高一貫教育校です。「勤労」と「創造」を校訓とし、考え工夫しながら学び続けられる人材を育てるべく、日々、生徒たちと向き合っています。また、時代の変化に合わせて女子校から共学化し、全国に先駆けて一人一台タブレット端末のICT環境を整備。他にも生徒の希望する進路の実現に合わせた4コース制の導入など、学校自体も変化しながらまもなく創立100周年を迎えます。
探究の成果を表す共通言語の必要性
本校では探究科を設置するなど、早くから学校全体として探究型学習に取り組んできました。しかし、その中で、探究を通じて「伸ばしたい力」「伸びている力」が校内ではっきりと言語化されていないこと、探究に関わる教員間で認識や意識が少しずつ異なることに課題を感じていました。そんなとき、「Ai GROW」に出会い、探究による生徒の成長だけでなく、探究に関わる一連の課題も可視化・言語化できるのではないかと期待して導入を決めました。また、他社のアセスメントに比べ、計測できるコンピテンシーが25種類(掛け合わせによってさらに多様な資質・能力の測定も可能)と豊富で、それらがどのような能力なのか具体的に明示されていることも導入の決め手の一つとなりました。得られるコンピテンシーのスコアもわれわれ教員が感じている印象と近く、安心して活用できると感じています。
まずは高校の1コースのみで試験的に導入し、今年度(令和5年度)からは中学1年生を除く5学年で「Ai GROW」を活用。探究以外にも行事の効果測定、面談、総合型選抜や推薦型選抜入試とからめたキャリア教育、学校広報などに活用の場を広げ、コンピテンシーを校内の「共通言語」にしていけたらと考えています。例えば、これまで本校の生徒は「落ち着いた」「優しい」などと抽象的に形容することが多かったのですが、「Ai GROW」を活用し生徒一人ひとりの強みをコンピテンシーという具体的な能力として知ることで、生徒たちの特性をより正確に理解することができるようになりつつあります。われわれ教員が生徒に対して何となく抱いていたイメージを言語化できる効果は測りしれません。また、行事なども、「盛り上がった」「楽しかった」で終わらせるのではなく、伸ばしたい能力を考え共通認識をもって取り組み、その成果を可視化することができるようになるはずです。学校生活のさまざまな場面でコンピテンシーが話題に上がり、自身の強みや成長を実感しながら、伸ばしたい能力を具体的に意識して行事や活動に取り組む生徒とそれを支える学校の姿をイメージしながら、さらに活用を進めていきたいと思っています。
探究においても「Ai GROW」が浸透し始めています。高校2年生で取り組んでいる「ビジネスプランニングゼミ」では、まず、探究を円滑に進めるために定めている「セブン・ルール(知ったかぶりをしない、広い視点で考える、などといった心構え)」を、それらに資するコンピテンシーとともに生徒たちに提示。グループの中でお互いの強みを開示し、伸ばしたいコンピテンシーがあるなら仲間にそれを宣言したうえで協働作業を進める授業設計にしています。お互いの能力や強みを意識し合えるようにすることで、他者への理解が深まることを期待しています。ゼミの終わりには、宣言したコンピテンシーが本当に伸びたのか、どのようなコンピテンシーが伸びたのかを確認し、評価にもつなげていきたいと考えています。
同じく高2で取り組んでいるクラウドファンディングのプロジェクトでは、終了時に「〇〇の達成に向けチーム(または自分)がしたこと」「もっとできたと思うこと」などをコンピテンシー名とその理由をワークシートにまとめさせる振り返りを実施。生徒と共通認識をもつことで、次に向かうための声掛けがしやすくなったと感じました。探究の授業もさまざまですが、それぞれに合った形で授業設計から評価まで「Ai GROW」を活用し、コンピテンシーをより浸透させていくことができればと考えています。
コンピテンシーを自分事化する
本校では、探究を含む学校での学びとキャリア教育との接続も大切にしています。コンピテンシーはいうまでもなく社会で求められる重要な能力。ただ、それをどう生徒に本当に実感してもらうのかが重要だと考えています。
キャリアデザインコースでは、「Ai GROW」の個人レポートを返却する前に独自で作成した「キャリア・マップ(下図を参照)」を活用しています。理想的な未来やそれを実現するための進路を記入したうえで自分のコンピテンシー・スコアを確認し、その未来や進路に向かうためにはどのようなコンピテンシーを伸ばすべきかを考えさせるワークシートです。このワークシートを作ったのは、自身のコンピテンシーのスコアに一喜一憂するのではなく「自分にはなぜこのコンピテンシーが必要なのか」を考えることが重要だと思ったからです。コンピテンシーを自分事として捉え、「コンピテンシーが必要だ」と自ら思える瞬間があるからこそ、それを成長させることができるのではないでしょうか。
また、先日、前述の「ビジネスプランニングゼミ」をスタートさせた際、上場企業各社の統合報告書を読み解く活動を行いました。生徒には統合報告書の膨大な情報を整理できるようマンダラチャート(下図を参照)を作成して配布したのですが、その中に「求める人材」という項目も加えました。この項目について整理してまとめる生徒たちからは「コンピテンシーばかりだ」「社会で求められるのもコンピテンシーなんだ」という声が多数挙がりました。このようなアプローチからもコンピテンシーの重要性に気付いてもらうことができるのだと分かり、新たな発見と生徒たちの気付きに嬉しい気持ちになりました。今後も活用していけたらと考えています。
探究の課題解決に役立つフレームワーク(思考法)
本校では、「Ai GROW」とともに、探究などで課題を解決するために有効な思考法が学べる「GROW Academy」も導入しています。一つの思考法を数分の動画とワークシートの組み合わせで習得できるため、スポットで使いやすく、教科指導の中でも活用できるため、探究のスケジュールにあらかじめ組み込むのではなく、生徒たちの状況を見ながら活用しています。先日ある授業でグループワークをしたところ、一部の生徒の影響力に引っ張られ意見が偏ってしまうなど、バイアスにとらわれていると感じる場面がありました。そこで、「GROW Academy」の「バイアス」を学ぶ動画を生徒たちに視聴させ、バイアスの存在を理解させたうえで改めてグループワークを行いました。その後の授業では、生徒たちの会話の中で「バイアス」というワードが流行。バイアスが掛からないよう、白紙に無記名で投票する方法をとったグループもありました。われわれ教員も通勤途中などに少しずつ動画を視聴するだけで教材研究にもなりますし、探究に有効な思考法への理解を深めることができる思います。
コンピテンシーが生徒の成長を表す校内の共通言語に
このように多種多様な取り組みや行事を行っていても、それらを通して生徒のどんな能力がどう伸びたのか、生徒の成長を言語化し「共通言語」として学校全体で共有できなければ、ただの盛り上がりや感想で終わってしまいます。本当に重要なのは行事や取り組みそのものではなく、それがどう生徒たちの成長につながっているのかということ。コンピテンシーという「共通言語」があることで、生徒たちも考えやすく、頑張りやすくなり、私たちも具体的なサポートを提供しやすくなります。生徒一人ひとりの学びと成長のため、「Ai GROW」「GROW Academy」のさらなる活用の在り方を模索しながら取り組んでいきたいと思っています。
リンク:
桜丘中学・高等学校
https://sakuragaoka.ac.jp/