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データを「占い」にしないために ― 学校経営は「登山」から「川下りへ」

作成者: IGS株式会社|Aug 27, 2026, 4:34:35 AM

 

 

▲小髙美恵子先生(戸田市教育委員会 教育政策室 学校経営アドバイザー)

 

データを「占い」にしないために


埼玉県戸田市は、「Ai GROW」をリリース初年度の2019年度から自治体として活用し、義務教育段階から市の教育施策の効果測定の一部として非認知能力の測定を行なっています。小髙先生はその戸田市で近年まで校長を務め、現在は戸田市教育委員会の学校経営アドバイザーを務められています。市内にある小中学校は18校。その校長一人ひとりの学校経営に「伴走」する立場です。

小髙先生は取材の中で「可視化されたデータが学校で生きるかどうかは、道具の側ではなく、それを受け取る学校・管理職の側で決まる」と、はっきりとお話されました。「昔ながらの『管理しよう』や『指導・指示しよう』といった学校経営コンセプトをもつ管理職では、もしかしたらデータを生かしきれないかもしれない。自校の先生方の『自己効力や自己肯定感を引き出し、伸ばしどれだけ生かしていくか』というコンセプトで学校経営を進める校長でなければ、せっかく取れたデータが占いと同じような感じで終わってしまうかもしれませんね」

占い。データについて語る場で、これ以上に手厳しい比喩はなかなか見つかりません。しかもこれは、外から眺めている方の言葉ではなく、校長としてご自身の勤務校でも長きにわたって「Ai GROW」を活用され、いまは前述の立場で校長に伴走されている立場からの発言です。

 

学校の内側で校長や「1のつく職員」の壁打ち相手になる

ここで、小髙先生の「伴走」が具体的にどのようなものなのか、もう少し詳しく触れていきたいと思います。「伴走とは、各校の校長の学校経営についてアテンドする、どちらかというと校長の壁打ち相手になるイメージです。こちらから何か指導するというよりは、壁打ちの相手になって、各校長が自身の経営方針の解像度を上げたり、力強く一歩を踏み出せたりするように支援をしています」

また、小髙先生が取材の中で使われた独特の表現として「1がつく職員への伴走」という言葉がありました。「一人職」「新しく着任した先生(社会人1年目)」など、学校の中で「1」がつく立場の先生は、どうしても孤立しやすい。その孤立を防ぐための相談窓口になり、授業を一緒に見てアドバイスをする(つまり、管理職だけでなく、新任や異動直後の先生とも対話する)。この2つを両輪として動いていらっしゃいます。

4月に入ると、まず市内の全小中学校18校の校長に会い、その年の学校経営の方針を伺う。あわせて、先生方の異動を踏まえ、新しく着任された先生や「1」のつく立場の先生を、校長と一緒に4月中に確認する。そしてそこから6月にかけて「この先生をちょっと気にしてあげてください」と名前の挙がった先生を、全員訪ねて回るそうです。ではなぜ、そこまで手を掛けて、年度の早い段階で訪ねて回るのか。小髙先生が語られたのは、いまの職員室で起きている二重の縛りでした。

▲小髙先生が行われている各校への伴走支援のイメージ

「一人職の場合には、『この授業でいいのだろうか』や『担当の分掌の仕事はこの進め方でいいのだろうか』などという不安が、常にその先生の中にあるんです」

本来であれば、職員室の中で相談ができた。しかし新しい環境ではすぐにそれができず、悶々としている。そこにもう一つの縛り「働き方改革」があります。

「働き方改革が進む中では、相談することによって相手の貴重な時間を奪ってしまうという発想になってしまい、相談がなかなかできないジレンマを抱えています。働き方改革は、先生方を守るための取り組みである一方で、ときに相談へのためらいとして働いてしまう。だからこそ、こちらから出向く。管理職や部長職以外の先生の場合、こちらがいきなり訪ねても話しにくいので、まず授業を見せてもらう。授業そのものについては指導せず、子どもとの関わりや、日頃の生活について不安や悩みを聴く。そうして一度接点をつくっておき、その後は校内のグループウェアからでも、管理職を通じてでも、私への相談はどんな形でもいいと伝えておくのです」

 

子どもたちの側では、すでに回っている

小髙先生は先生方の自己効力や自己肯定感を高めるためにもデータを使うべきと考えられているのですが、戸田市の学校では、先に子どもたちの側で、それが日常の中に置かれています。

「Ai GROW」を活用する戸田市の学校では、「Ai GROW」の計測結果をまとめたレポートを、三者面談や二者面談の場できちんと説明したうえで、子どもと保護者に渡されています。先生は児童・生徒に対して「あなたにはこんな強みがあるよね」と話し、それを基に児童・生徒が結果を自ら振り返ることができる場が作られています。

もう一つの場が、「総合的な学習の時間」です。年度の一番はじめのオリエンテーションでは、担任は「この1年間、探究の時間を通して、君たちには例えば『論理的思考力』とか『課題発見能力』を高めてほしいと思って、この学びのゴールにするよ」と児童・生徒に伝え、その評価のルーブリックも先に示すのだそうです。

子どもたちもルーブリックを一緒に確認してから、探究の学習を始める。児童・生徒は必然的に探究を通して自分にどのような力が身につくのかを意識しながら学ぶことになります。

 

「絶対受けた方がいいでしょ」──物差しを、先生自身に向ける

では、その「物差し」は、子どもたちだけのものなのでしょうか。この点についても小髙先生に伺いました。児童・生徒は、面談で「Ai GROW」の個人レポートを担任から受け取り、「総合的な学習の時間」ではルーブリックを手にしている。データがあることで、いま自分のやっていることを肯定的に受け止められる後押しを、すでに受けている。しかし、先生方は、児童・生徒の指導や支援に当たる際や日常の校務を進める際の自己効力や自己肯定感をなかなかもちにくいのではないか。先ほどの「1」がつく先生の話も含め、先生方にこそ、そうした「物差し」が必要と感じることはありませんかと伺ってみたところ、

「そうなんですよね」とおっしゃり、その後間を置かずに小髙先生は「先生方も『Ai GROW』を絶対に受けた方がいいでしょ。それは確実に思います」と断言されました。その前段で、小髙先生は評価制度の在り方についても触れながら「子どもたちだけでなく、先生方の資質・能力も可視化し、そのうえで管理職が、それぞれの先生の強みをいかに引き出して育み、組織の中で生かしていくかを考えるべき」ともおっしゃっていました。それは授業にも、子どもたちの学びにも返っていく。だからこそ「先生方も『Ai GROW』を絶対に受けた方がいい」とおっしゃるのです。

ただし、「物差し」を先生に向けたとして、それを管理職がどう受け取るか。受け取り方を誤ったときに起きるのが、冒頭の「占い」という表現になるのです。一方で、データを先生方の自己効力や自己肯定感を育むための指針として受け取れば、それは学校経営の土台になる。管理職の考え方次第で、データの生かし方はまったく変わる、というのが小髙先生の見立てでした。

 

「登山から川下りへ」──これからの学校経営と組織マネジメント

では、これからの学校経営は、どのような姿を目指すことになるのでしょうか。取材の終盤、小髙先生はこれからの学校経営について以下の図のように説明してくださいました。

▲小髙先生が行われている各校への伴走支援のイメージ

社会という川は、毎日流れが変わり、流速も予想できない。上流で何かが起これば流れが変わり、岩も渦も滝も、予想しないうちにやってくる。流れは両岸でも変わるし、川底の流速は読めない。その中を進むのだから、みんなで一つのボートに乗って漕ぐしかない。

「個人依存型のカヌーやカヤックではダメ。それこそスクールロイヤーやスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーも含めてみんなが一つの船に乗り、全員で協力しながら船を漕ぐ。このようなイメージがこれからの学校経営に必要です。また、校長はみんなと一緒に同じように漕ぐけれど、一番遠くを見る必要がある人ですね」

一方、これまでの学校経営における校長の役割は、山登りの先導者やオーケストラの指揮者に例えられることが多かったといいます。しかし、今の学校は過去のような状況ではありません。「オーケストラや山は環境として結構安定していますよね。でも学校を取り巻く現在の社会は、BANIといわれるように不確実で不透明な状況です。学校経営は、そのような環境の中で川を進んでいくラフティングボートのようなものなのです。そこの違いを認識していくことが、令和の学校経営であり、校長としてのリーダーシップの在り方ではないでしょうか」

自己肯定感を高めることは、甘やかすことではない

では、先生方の自己効力や自己肯定感を高めるとは、具体的にどういうことなのでしょうか。小髙先生がご自身の学校経営で一番大事にしてこられたのは、「個が生きる・個を生かす」ということ。いわゆる「先生方が自身の資質・能力をメタ認知し、それを自律的に組織の中で発揮したり、伸ばしたりして自己と組織の成長を自覚すること」だったといいます。

「ただ単に授業がうまくできるとか、生徒指導がうまくできるとかいうことだけではなく、例えば自分で学校の課題を発見しながら、それをいかに協働的に解決していくか。こうした力を自分自身が高めていける先生になれるよう、管理職として組織の仕組みや仕掛けを作ったり、環境を整えたり、見届けや感謝の声掛けをしたり」

国語や算数の授業力を上げる。当然、この視点も大事ではあるものの、戸田市にはもう一段上のフェーズに教師力を捉えている先生が多いのではないかと小髙先生は見ていらっしゃいます。そしてその先に「子どもたちに身につけてほしい力なのであれば、自分自身にもそれが備わっていないといけないのではないか」と、非認知能力や社会人基礎力を自分自身で磨き上げていく先生方が増える良い循環が生まれているのではないかともおっしゃいます。

子どもに求める力は、まず自分にも要る。そう考える先生が増えているのだとすれば、先生方の資質・能力を可視化することは、評価のための手続きではなく、その自覚に根拠を与える作業ということになります。小髙先生のお話は、先生方の自己効力や自己肯定感を高めるとは、単に褒めて自信をつけさせることだけではなく、自分の強みを確かな根拠とともに知り、それが組織の中で実際に使われる経験を重ねることだと読めるものでした。

同じボートに乗る先生一人ひとりの強みを、思い込みではなくデータで客観的に把握したうえで、最適な形で組み合わせる。そのうえで、データは「児童・生徒だけでなく、先生方も育つ環境をつくるためのもの」という構えで受け取る。この二つが揃ったとき、データはもう占いではなくなります。