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【教科×非認知能力 シリーズ 第3弾】「化学だけが得意」な生徒はいない─ “総合格闘技”の科目に、非認知能力はどう効くのか

作成者: IGS株式会社|Jul 13, 2026 7:30:45 AM


大久保邦博先生(徳島県立脇町高等学校 教務課長)

 

IGS20262月にまとめた「非認知能力と共通テストの関係性分析」で、古文物理が非認知能力と特に結び付きの強い科目であることを示しました。また、化学も物理と非常に近い傾向を示しています。しかし、化学については、物理とあまりに傾向が似ていたため、分析上は類似として整理され、独立した数値は出していません。

では、化学には独自に「効く力はないのか──。その問いを、現場の手触りから確かめるために企画したのが、この化学・番外編です。お話を伺ったのは、先の「物理・化学編」の鼎談にも同席いただいた徳島県立脇町高等学校の大久保邦博先生(教務課長・化学)。Ai GROWを早期から活用され、学校独自に6年間の非認知能力データを積み上げてきた先生です。先の鼎談で予告した「物理と化学の違い」「6年の経年データ」「データを授業に返す実践」を、たっぷりと掘り下げていきます。

 

実験の「なぜ」から始める── 化学に惹かれた原体験と指導観


大久保先生は教育学部の理科専攻の出身。理科の中で化学を選んだ理由を、「実験という実体験から、楽しさを教えられるのが一番いいと感じたから」と振り返ります。「
生徒には『なぜこうなるんだろう』と考えながら、さらに新しい問いを立ててもらう。そこを目指してやっています」。

印象的だったのは、大久保先生が自らの指導そのものを一つの探究に見立てていることでした。「生徒に課題研究をさせる中で、私自身の課題研究みたいなイメージで取り組んでいるのです。大学入学共通テストや各種模擬試験の点数を伸ばすためだけではなく、生徒の考える力を高め、かつテストの点も取れる方法。それができればいいな、というのを目標にしています」。点数か、思考力か——その二者択一を疑うところから、徳島県立脇町高等学校の化学は始まっています。

 

「物理は80点、化学は60点」── ねじれの正体は、覚え抜く「耐性」


先の
鼎談で話題になった「物理は80点なのに、化学は60点」という生徒の“ねじれ”。その理由を、大久保先生は教科の性質の違いから説明します。「文章を読解して、公式や論理に当てはめて答えを導く。その思考・論理の部分は、物理も化学も共通です。ただ化学は、そのための“武器”としてたくさんの知識が必要で、暗記していないと解けない項目多い。物理よりも、その部分が耐性につながっていると思います」。

この耐性という非認知能力が、化学編のキーワードになりました。「物理と化学で点数が揃わない生徒は、たいてい化学の点数の方が低い。“覚え抜けない生徒”ですね。逆に、化学の点数は高いけれど物理の点数が低い生徒は、真面目にコツコツやってはいるけれど、論理的思考『柔軟性』が少し欠けている——そんなイメージです」。同じ理科でも、化学でまず試されるのは覚え抜く耐性」、物理でまず試されるのは論理的思考」「柔軟性」。効く“筋肉”が微妙に違う、というわけです。

もう一つ、化学には“目に見えない壁”があると大久保先生は言います。「有機化学の構造式は、実際には目に見えない形を頭の中で立体的に考えないといけない。理論化学の気体なんて、本当に見えないですから。見えない気体の体積や、分子量・物質量を求める。そういう概念的なところが、物理でいう“波”のようにイメージしにくいのです」。

そして、つまずきの多くは計算力よりもっとずっと手前にある、とも指摘します。「気体を圧縮したら圧力が増える。わかる生徒には『押しているのだから当たり前じゃん』なんですけど、『そもそも、なんで押しているの』というところで引っかかる。前提条件が納得できないと、次に進めない。物理でも化学でも、そういう生徒はいます」。だからこそ、「一旦わからないことは横に置いて、まず先に進む」という構えもまた、化学を乗り切るための力になる——取材の中で見えてきた、もう一つの耐性です。 


▲大久保先生の化学の授業の様子

 

「化学だけが得意な生徒はいない」── “総合格闘技”という発見


では逆に、
最後までやり抜くための力である「個人的実行力耐性は高そうなのに化学が伸び切らない生徒には、何が足りないのか。この問いへの答えが、化学という科目の正体だと大久保先生は言います。「そういう生徒は、化学だけなく、学力が全体的に低めな傾向になってしまっているのです。“一教科だけ抜きん出ている”という生徒は、どちらかというと数学や物理に多い。化学だけできる、という子はあまりいません」。

数学だけ100点近く取る生徒、物理だけ飛び抜ける生徒、生物が好きで満点を取る生徒はいる。けれど「化学だけ満点」は、なかなか現れない。「化学は“総合格闘技”みたいなものかもしれませんね」というこちらの問い掛けに大久保先生も深く頷かれていました。つまり、他教科の知識をある程度応用して使う場面が多く、全体の学力と連動して伸びるのが化学。だから「化学だけ強い」という問いは、そもそも成立しにくいのではないかー。

それでも、化学でグッと伸びる生徒には共通点がある、と大久保先生は言います。「実験をしていて『なんでこうなるの』と聞いたときに、『これは多分こういうところがあったから、こう出たのだと思います』と理解した上で、アウトプットまでできる。そういう生徒が、テストの点も高いし、グッと伸びてきます」。「なぜ」を考え、その答えを自分の言葉で返せること。それが、暗記の耐性と論理の土台をつなぐ結び目になっています。

 

6年間の定点観測が照らした、伸びにくい 創造性解決意向


徳島県立
脇町高等学校は、6年にわたって生徒の非認知能力の成長を定点観測してきました。多くの力が年々伸びていく良い傾向がある一方で、なかなか伸びにくい力が2つある——創造性解決意向です。大久保先生は、その背景を化学の外にも求めます。

創造性』には、どうしても地域性もあるのかな、と思うのです。地方では、成績上位の生徒は県外に出て、そのまま大手企業に就職する。地元に帰ってくるのは公務員などが多い。すると、生徒の親世代の職業も、地元大手企業の社員か公務員に偏ってしまっている。考え方も、どうしても『型にはまった』ものが多くなるのではないか」と大久保先生は分析します。だから、突飛な意見やチャレンジが出てきにくい。「本校生徒は優しいし、素直です。でも、枠にとらわれてしまっている部分もあるのではないかと思います」。

解決意向についても、同じ根から説明できると大久保先生は見ています。「自分の意見をもちにくい分、教員や親や、周りの人が求める答えに近づこうとする。そこに寄ってしまうので、自分から課題を解決していこう、という姿勢が出にくいのではないか」。伸びにくい2つのは、当然、化学の授業だけで押し上げられるものではありません。これは、生徒が育つ地域や家庭の文化と地続きの課題なのではないかと、データを通して大久保先生は静かに見つめていました。

 

 データは進路まで照らす─そして「尖り」が進路を決める 


先の地域性という仮説だけでなく、6年分の蓄積は、非認知能力と進路の関係まで浮かび上がらせています。「化学が得意で医療系に進む
生徒は、『Ai GROW』のデータ上、個人的実行力』『解決意向』『決断力が高い。しかもこれらの力は、生徒の経年変化を見るとどちらかというと先天的に高めなのです。それを学校の指導が後押しして、さらに伸びていく」。粘り強く二次試験の最後まで頑張りきって医学部に合格していくのは、まさにこのタイプだといいます。

一方で、学校が「育てている」手応えのある領域もあります。「理工系に進む子の疑う力創造性は、学校で伸ばせている部分がある。人文・教育系に進む生徒共感・傾聴力は、協働学習を重ねる中で、学校として年々高くなってきています」と大久保先生は言います。一方で「元々こうした能力が高い生徒もいるので、(現時点では)言い切りは難しい」とも、先生は慎重に付け加えます。

そして取材の中で、進路とデータの関係について大久保先生は、「伸びる生徒には何かしら尖った部分がある、そして、その尖り具合と、その生徒に向いている進路との一致度が、驚くほど高い」とも指摘します。「Ai GROW」のデータは、生徒の得意の輪郭を映し出し、進路の解像度を上げる地図にもなっています。

 

データを授業に返す─羅針盤としての非認知能力


 Ai GROWのデータを活用して校内で共有している分析資料の一例。「Ai GROW」のデータから生徒の進路ごとに特異点となっているコンピテンシーを抽出している。 

徳島県立脇町高等学校では、分析したデータを教員間での共有にとどめず、生徒にもフィードバックしています。NotebookLM『Ai GROW』のデータを入れると、非認知能力の計測結果を視覚的にわかりやすいスライドにまとめてくれます。それを1年生の先生に配って、新入生に向けて『テスト点数も進路も、実は非認知能力と関係があるよ』と話してもらったのです。そうすると生徒のから、『じゃあ、非認知能力はどうしたら伸びるですか』と言ってくるようになりました」。学びの動機づけが、数字を介して生徒自身の言葉に変わったのです。

では、大久保先生にとって「Ai GROW」のデータとは何か。最後に伺うと、返ってきたのは実に誠実な答えでした。「正直、明確な結果が出ているわけではなく、『Ai GROW』で生徒の非認知能力の成長を6年間取り続けて『こんな傾向があったね』というだけなのです。でも、Ai GROWがあることで気づきがある。感覚的に『こういう能力がある生徒ができるのだろうな』と思っていたことが、具体的な能力と数値の変化で明確に把握できた。それが大きくて、指導の方向が間違っていないと思えたらさらに進めるし、違うなと思ったらやり方を変える指標になる。教員をやっていると、点数や入試の結果は返ってくるけれど、それ以外で手応えを得られる機会はなかなかない中で、これらは貴重な示唆です」と大久保先生は語ります。だからこそ『Ai GROW』のデータは、先生にとっての羅針盤であり、日々の指導の仮説を確かめるリトマス試験紙でもある。非認知能力の可視化は、生徒だけでなく、教える側の仮説と検証をも支えていました。

 

暗記や計算から「非認知能力を意識した授業」へ─読者の先生方へ


化学や生物は、暗記と計算の科目として、理系の中でもどこか文系寄りに整理されがちです。しかし
、徳島県立脇町高等学校の6年間は、その見立てを静かに更新します。計算用紙の上だけでは、化学の点差は説明しきれない。覚え抜く耐性も、「なぜ」を問い続ける姿勢も、失敗から立ち上がる粘りも、すべては非認知能力の領域にあるからです。

これは決して特別な話ではなく、 「なぜ」から始める問いを大切にする。一方で、データや経験から、化学という科目で求められる耐性は、学校として支える設計をする。いずれも、日々の化学の授業と、学校ぐるみの地道な観測の中にあるものでした。

IGSでは、「教科 × 非認知能力」をデータで語り合う教科別の先生コミュニティ(部会・ミートアップ)づくりも進めています。先の鼎談では「理系の先生は、相関を調べるのが好きな人が多いと思いますよ」という心強い声も。化学・理科 × 非認知能力を語り合いたい先生は、ぜひお声がけください。

 

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