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2023.09.11

【セミナーレポート】第22回 生徒の資質・能力の育成とその適切な評価の実現に向けて(岡山 / 清心中学校・清心女子高等学校 田中先生)

セミナーレポート

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探究は、生徒がこれからの社会を生き抜くために必要な力を身に付けるうえで重要な機会となる一方、そのプロセスや評価に対する課題を多くの学校・先生方からうかがいます。

また、教育効果を高め生徒の成長を促すためとはいえ、既存の探究プログラムを大幅に見直すことも容易ではありません。

2023年8月4日(金)に岡山にて対面形式で開催した本セミナーでは、早期から探究型学習を推進されている清心中学校・清心女子高等学校 田中福人先生を講師に迎え、生徒の資質・能力の成長を加速させる探究の取り組みの先行事例と生徒の力を育むための評価についてご紹介いただきました。

 

【講師】

田中福人先生(清心中学校・清心女子高等学校 研究開発部長)

 

本校は、岡山県倉敷市にある私立の中高一貫併設型の女子校です。2013年に創立137年目を迎えた伝統校かつ県内で唯一の女子校として、今後もこの歴史をさらにつないでいきたいと考えています。

 

SSHとして取り組む「科学技術系女性人材」の育成


本校は2006年にSSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)に指定され、現在は第4期3年目。「次世代を担う科学技術系女性人材教育のデザイン」をテーマに課題研究を推進しています。女性の理系人材が少ないとされる日本において、中高一貫の体系化された学びがこの課題の解決にどう貢献できるのか実証しています。私も理科の教員として、着任直後からSSHとしてのプログラムに関わってきました。学校内の授業はもちろん、大学や地域、他の学校などさまざまな機関との連携のもと、アドバイザーからも助言をいただきながら、SSHとしての教育を進めています。また、研究開発という事業の性質上、きちんとした指標を設け、定量的なデータを示す必要があります。


生徒が自由に研究できるよう、理科室は基本的に放課後も開放。いつでも実験できる環境が整っています。高校では、1年生で課題研究を進めるうえで必要な文章表現力、統計手法、論理的思考等などを学習、2年生から課題研究に取り組みます。プログラムの核である課題研究を充実させるため、大学と連携した実習、フィールドワーク、女性科学者との交流など特色ある取り組みとともに、それを支える知識・スキルを教える日々の授業も随時改善を進めています。


先生が黒板の前に立ち話すのが通常の授業だとすると、探究型学習は到達点を示され、自分で考えたり周りと協力したりしながら到達点を目指すもの、そして、課題研究はその到達点自体も自分で設定するもの。最初の授業の時に、生徒たちにはこの図を見せて説明しています。

 

 

探究を取り入れた教育は、部活動や課外活動、行事など、校内のあらゆる場所で実践されていますが、特に中心となっている「総合的な探究の時間」の中での実践についてご紹介します。


一例として挙げられるのが、環境問題をテーマとした探究学習。あるチームは、学校の周りにある田んぼの横の水路に棲むアカミミガメについてのプロジェクトに取り組みました。特定外来種にも指定されたこのカメの生息状況を課題として捉え、実際にどれくらい広がっているのか、ということを科学的な手法で調査。水路の水を採取し、実験室へ持ち帰って水の中に含まれるDHAを抽出して分析しました。その結果、すべての川からDNAが抽出され、かなり広範囲に広がっていることが確認できました。この結果を基に、この問題にどうアプローチするかを考えていきます。

 

 

SSHとして求められる定量的な事業評価に「数理探究アセスメント」を活用


SSHでは事業評価として定量的なデータを示すことを求められるため、本校がアンケートなどの他に独自に作成し生徒たちに取り組ませているのが「リサーチ・リテラシー・テスト」です。SSH事業において、高めたいと定義している生徒の「研究力=リサーチ・リテラシー)として掲げている力のうち、「読む力」「書く力」「課題発見力」「データ分析力」「情報整理力」を測るものです。


例えば、だるま落としのおもちゃを利用した実験に関する文章を読み、実験の目的や変数を回答したり仮説を立てたりする問題や、プラごみの深海汚染に関する記事を読みその影響や対応を記述させる問題、データを分析させるような問題もあります。大人でも難しい問題もありますが、SSH事業の事前事後で実施すると課題研究を通した生徒の成長を確認することができました。


しかし、「未知の事象に直面した際に適切な課題を設定できるか」「柔軟な発想力や科学的な文脈における創造性などが身に付いているか」などについてはこのテストで評価することは難しく、大きな課題感を抱えていました。そこで、昨年度、これまでの取り組みに加える形で導入したのが「数理探究アセスメント」です。

 

「数理探究アセスメント」は、本校が育成を目指す「研究力」にも直結する「課題設定力」「実験計画力」「考察力」「創造力」のスキルとその変容を本校内の相対評価にとどめず、他校と横比較可能な形で定量化することができます。本校では、定期テスト後の特別授業時間帯に実施しています。


2022年12月に実施した初回受検の結果を見ると、特に理系の生命科学コースの生徒が「課題設定力」や「実験計画力」のスコアが高く、高2の生命科学コースの生徒の「創造性」が特に高いこと、学校全体としては「考察力」にやや課題があるということが分かりました。同時期に受検したSSH事業に参加していない生徒を含む学校全体の平均値も分かるため、本校における理数教育やSSH事業の強みや課題が可視化され、それらを明確に把握できたことは非常に大きな意味があります。

 

 

「課題設定力」や「実験計画力」の成長には SSH課題研究のカリキュラムやその事前学習が影響を与えているのではないか、高2の生命科学コースの生徒は SSH事業のなかで新たに設けた学校設定科目「アートサイエンス」の授業を履修しているため、そのなかで学び得たものの見方や考え方が「創造力」の向上に寄与しているのではないか、といった考察ができるようになったのは生徒の資質・能力の成長を定量的に把握できるようになったからであり、SSHの事業評価の材料として「数理探究アセスメント」は有用だと感じています。

今年度も「数理探究アセスメント」を引き続き活用し、スコアの推移をより詳細に追いながら検証を重ねていきます。また、「数理探究アセスメント」の受検結果を面談でフィードバックしたり、成績評価の材料として組み込めるかどうかなども検討したりするなど、SSH事業の推進にとどめることなく、活用の幅を学校全体に広げていきたいと思っています。